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第01章 テロメア・コントロール
第04話 【06】びていめもりい 04
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「どういう……って、どこに驚いてるんだ、益田」
「そんな『ケツが割れた』みたいなこと言われても困るんだよ。尻尾なんて誰にでもあるだろ。それよりなんでいきなり見せたりしたんだ。高山を連れてきたから機嫌わるくなってんのか?」
会話が噛み合わない。わかるのは彼が「尻尾が生えた」ことよりも「尻尾を見せた」ことに反応しているということだ。
「おまえ今なんて言った?」
「高山を…
「違うその前。尻尾なんて誰にでも……?」
「生えてるだろ。どうしたんだよマジで」
尻尾が生えている。みんな生えている。
「ちょっとおまえの尻尾を見せてもらえないか?」
「きっもちわるいな……マジでどうしたんだよ、俺もう帰るぞ」
益田はコーヒーを飲み干して立ち上がり、ニット帽を持ち、肩に鞄をかけると振り返りもせずに部屋を出て行った。僕は思考をまとめるのに精一杯で、止めようとも思わなかった。
これはつまり「元々そういうことになっている」ということだろうか。ズボンや便座の形だって、そうでなければ説明が付かない。僕だけが変化を認識していて、他の人にとっては、ずっと相変わらずの世界。【テロメア・コントロール】は、僕だけにわかる形で世界を書き換えた。となると記事にしようがないな……、ってそういうレベルの出来事ではない。腹の底がキュッと軋む。僕は、とんでもないものを手にしてしまった……。
ふたりの反応から察するに、尻尾は性器に近い扱いを受けており、気軽に人前で露出するようなものではないのだろう。ならば、せめて言い訳だけでも用意しておかなくては……尻尾に異常が出た? 尻尾に関する常識がない僕にそれは難題か。となると、高山の発言を引用して、欲求不満……死ぬほど不本意だが、素直に認めれば誠意が見えるだろうか……?
電気毛布にくるまって謝罪の文面を作るのは、この上なくむなしい行為だ。脳のほとんどがアプリへの興味と恐怖で埋まっていて、上手く書けない。結局、新しい記事のための治験アルバイトで未認可の薬を飲んで錯乱していたことにして、メールを済ませた。
さて、もはや移動するのすら億劫だ。少し冷えた缶コーヒーを飲み干して、僕はポケットからもうひとつのスマートフォンを取り出した。
【テロメア・コントロール】
01 むーんてらいと 済
02 あぐりびうてい 済
03 おぐされもぐさ 済
04 にしんすどれい 済
05 ふぜんめんえき 済
06 びていめもりい 済
07 きょうかんよい 済
08 まほふまぢゆつ
09 さみしひおひと
10 もゆるひくすり
「びていめもりい」には済のマークが付いている。もう少しスクロールしよう。
11 てんそうつめつ
12 すいほのおとこ 済
13 がんぐしゅうり
14 たべりまじわり 済
15 ななつみんぞく 済
16 まどいこまわり 済
17 えすけいぷそら 済
18 あんこくしんわ 済
19 からんむあぞふ
20 らんらるらるう
21 …
底知れない力を持ったこのアプリが、日本語らしき文字列で表示されているのには何か理由があるのだろうか。日本人が作ったとかそんな程度の話ではないだろう。見る者によって見える物が異なるとか、多分そういう。
ふつうの言葉っぽく見える部分があったり、英単語っぽい響きがあったり様々だが、例えば「びていめもりい」は今思うと「尾てい骨の記憶」的な言葉に思える。名称と結果がある程度対応しているのならば、多少の対策は取り得るということにもなる。
検証はここからだ。まだ僕は根っこからは信じちゃいない。ダウンロードボタンを押してからの様子も観察しきれていないしな。たとえば、世界が書き換わる瞬間はどうなるのか、とか。しばらく悩んで、僕は「もゆるひくすり」をダウンロードすることに決めた。先ほどの言い訳として薬の副作用を唱えたから、何か利用できるかもしれないし……極めて卑近な動機だが、まあ、結局そんなものだろう。
僕は、ダウンロードのボタンを押した。
「そんな『ケツが割れた』みたいなこと言われても困るんだよ。尻尾なんて誰にでもあるだろ。それよりなんでいきなり見せたりしたんだ。高山を連れてきたから機嫌わるくなってんのか?」
会話が噛み合わない。わかるのは彼が「尻尾が生えた」ことよりも「尻尾を見せた」ことに反応しているということだ。
「おまえ今なんて言った?」
「高山を…
「違うその前。尻尾なんて誰にでも……?」
「生えてるだろ。どうしたんだよマジで」
尻尾が生えている。みんな生えている。
「ちょっとおまえの尻尾を見せてもらえないか?」
「きっもちわるいな……マジでどうしたんだよ、俺もう帰るぞ」
益田はコーヒーを飲み干して立ち上がり、ニット帽を持ち、肩に鞄をかけると振り返りもせずに部屋を出て行った。僕は思考をまとめるのに精一杯で、止めようとも思わなかった。
これはつまり「元々そういうことになっている」ということだろうか。ズボンや便座の形だって、そうでなければ説明が付かない。僕だけが変化を認識していて、他の人にとっては、ずっと相変わらずの世界。【テロメア・コントロール】は、僕だけにわかる形で世界を書き換えた。となると記事にしようがないな……、ってそういうレベルの出来事ではない。腹の底がキュッと軋む。僕は、とんでもないものを手にしてしまった……。
ふたりの反応から察するに、尻尾は性器に近い扱いを受けており、気軽に人前で露出するようなものではないのだろう。ならば、せめて言い訳だけでも用意しておかなくては……尻尾に異常が出た? 尻尾に関する常識がない僕にそれは難題か。となると、高山の発言を引用して、欲求不満……死ぬほど不本意だが、素直に認めれば誠意が見えるだろうか……?
電気毛布にくるまって謝罪の文面を作るのは、この上なくむなしい行為だ。脳のほとんどがアプリへの興味と恐怖で埋まっていて、上手く書けない。結局、新しい記事のための治験アルバイトで未認可の薬を飲んで錯乱していたことにして、メールを済ませた。
さて、もはや移動するのすら億劫だ。少し冷えた缶コーヒーを飲み干して、僕はポケットからもうひとつのスマートフォンを取り出した。
【テロメア・コントロール】
01 むーんてらいと 済
02 あぐりびうてい 済
03 おぐされもぐさ 済
04 にしんすどれい 済
05 ふぜんめんえき 済
06 びていめもりい 済
07 きょうかんよい 済
08 まほふまぢゆつ
09 さみしひおひと
10 もゆるひくすり
「びていめもりい」には済のマークが付いている。もう少しスクロールしよう。
11 てんそうつめつ
12 すいほのおとこ 済
13 がんぐしゅうり
14 たべりまじわり 済
15 ななつみんぞく 済
16 まどいこまわり 済
17 えすけいぷそら 済
18 あんこくしんわ 済
19 からんむあぞふ
20 らんらるらるう
21 …
底知れない力を持ったこのアプリが、日本語らしき文字列で表示されているのには何か理由があるのだろうか。日本人が作ったとかそんな程度の話ではないだろう。見る者によって見える物が異なるとか、多分そういう。
ふつうの言葉っぽく見える部分があったり、英単語っぽい響きがあったり様々だが、例えば「びていめもりい」は今思うと「尾てい骨の記憶」的な言葉に思える。名称と結果がある程度対応しているのならば、多少の対策は取り得るということにもなる。
検証はここからだ。まだ僕は根っこからは信じちゃいない。ダウンロードボタンを押してからの様子も観察しきれていないしな。たとえば、世界が書き換わる瞬間はどうなるのか、とか。しばらく悩んで、僕は「もゆるひくすり」をダウンロードすることに決めた。先ほどの言い訳として薬の副作用を唱えたから、何か利用できるかもしれないし……極めて卑近な動機だが、まあ、結局そんなものだろう。
僕は、ダウンロードのボタンを押した。
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