終焉の姫と聖女の姫

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ゴブリンの少女ルティア パート8

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 隣の部屋には痛ましい姿のルティアが死んだように横たわっている。アルカナは眉一つ動かさずにルティアの側に行きそっと横に座った。そして、両手をルティアにかざして魔法を唱えている。

 ルティアの体が金色の膜に覆われてあたり一面も目が眩むほどの光が立ちこもる。その光景をじっと見守るシェダルとあまりにも眩しい光に目を手で覆うヒーリン。アルカナの治療は15分ほど続いた。


 アルカナはルティアの治療が終わると自分より大きな体のルティアをそっと抱きしめた。


 「苦しかったでしょ・・・でも、もう大丈夫です」

 
 ルティアの口が僅かに動くが声を発することはできない。


 「あなたの体は元に戻りました。けれど、自由に動けるようになるのはもう少し時間が必要です」


 アルカナは優しく耳元に話しかける。しかし、ルティアの赤い瞳は何か怯えているかのようにオドオドして、急に身体をバタバタを動かし出した。アルカナは強くルティアを抱きしめて魔法をかける。すると、ルティアは目を閉じてそのまま眠りについた。そして、アルカナはルティアから離れてヒーリンの側に行く。


 「彼女の治療は終わりました。無事に元の姿に戻せることができました」

 「ありがとうございます」


 ヒーリンは深々と頭を下げる。


 「このゴブリンさんはこれからどうするのでしょうか?」

 「彼女は兄のところでメイドとして保護するつもりです。精神的ショックも大きいと思いますので、時間をかけてゆっくりとサポートします。そして、本人がゴブリンの村に帰りたいと望めば村に返してあげたいと思います」

 「しっかりと考えているのですね。でも、それではダメだと思います。彼女は人間に対してかなり恐怖感を抱いています。彼女はホビットの時にも過度な虐待と労働を強いられていました。そして、兄のモナークからの凄惨な行為によって自己は崩壊しています。申し訳ないですがヒーリン様では対処できるとは思えません」

 「なぜ、モナーク王子やホビット時代の虐待まで知っているのですか?」

 「それにはお答えすることはできません」

 「わかりました。ではこの子はどうすれば良いのでしょうか?私たちが保護をしないとこの子は行く宛はないと思います。このままゴブリンの森に返すのも危険だと思います」

 「私が面倒をみます」

 「えっ・・・」

 「彼女の精神面も私が治すことにします。精神は魔法では治すことはできませんが、治療後のアフターケアも治癒師として仕事です。なので、あとは私に任せてください」

 「ヒーリンさん、私からもお願いします。それにアルカナ王女様の元に居た方がゴブリンも安全だと思います。この部屋には私の許可なしでは国王ですら入ることはできません。この部屋は聖女様のための用意された特別な部屋になっているので一番安全な場所と言えるのです」


 ヒーリンは拒む理由もないので快く承諾した。ヒーリンはルティアをアルカナに預けて、急いでグロワール王立学園の卒業式に向かった。



 「アルカナ様、このゴブリンをどうするつもりですか?」

 「もちろん。元の元気で可愛いルティアちゃんに戻してあげるのよぉー」

 「この子はルティアという名前なのですね」

 「うん。ルティアちゃんはかなりひどーーーい扱いを受けていたのよぉーー。『亜人館』もモナークも絶対に許さないのよ!」

 「アルカナ様、物騒な事は言わないでください。『亜人館』は国王の管理下にありますし、モナークはあなたの兄です。誰かに聞かれたら国家反逆罪の罪で幽閉される可能性があります。時期が来るまではおとなしくしてください」

 「はーーい。以後気をつけまーーす」




 ここは王都グロワールのデンメルンク城の地下にある牢獄。デンメルンク城の地下は3階まであり、一階は倉庫として使用されている。そして2階には牢屋、拷問室、展示室がある。

 デンメルンク城の牢屋には、国王に謀反を起こした第一級犯罪者が幽閉されている。ある牢屋の中には1人の大きな男が全裸で座っていた。その男は糞尿まみれの床を何も気にせずに人形のように座っている。口元からは涎を垂らし、鼻からも鼻水が滴り落ちている。男はその事も全く気にする事なく白目をむいておとなしくしている。


 「食事の時間だ!」


 この牢屋を管理している背の低い小太りの醜い男が牢屋の隙間からカビの生えたパンと茶色く濁った水を男に渡す。

 先ほどまで人形のようにピクリとも動かなった男が、四つんばになりながらパンの方へゆっくりと進んでいく。


 「デンメルンク王国最強の騎士と言われたゾルダートが、今ではこのような姿になっているとは因果なものだな・・・」


 牢屋にいるのはゾルダートであった。ゾルダートは赤ん坊のようにハイハイをしながらパンに近づいてパンを手で掴まずに、犬のように顔をパンに近づけてそのままパンを食べる。そして、コップに入った水を下でぺろぺろと舐めて水分を補給する。


 「こいつがここに来て6年も経つのか・・・全く元の姿に戻る気配はない。早く処分してほしいぜ。こいつの牢屋は臭くて近寄りたくないぜ」


 醜い男は吐き捨てるように言った。


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