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たまや

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 「ヨイショ!」


 私は体操選手のように綺麗に着地した。


 「さぁ!黒狐ちゃん。私が相手をしてあげるわよ」


 私は珍しくファイティングポーズをとってやる気を見せてみた。


 「あれれれれ?黒狐ちゃん、姿を見せないわよ」

 「ハツキお姉ちゃん、足元を見て!」



 プリンツがポケットから顔を出して私に声をかける。


 「え!足元を見るの」

 「そうだよ。ハツキお姉ちゃんが着地した瞬間に魔力が消えたから、おそらく・・・」

 「あ!!!黒狐ちゃんがぺったんこになっているわ」


 黒狐は私に踏まれて死んでいた。私はぺったんこになって死んでしまった黒狐の毛皮だけを回収した。




 「アンドレアス、一向に黒狐が現れないぞ!」

 「ゼルトザーム様、この辺には黒狐がいないのかもしれません。もう少しでかい音を立てれば黒狐が現れるかもしれません」

 「そうだな!MYKを服用し魔力を上げて、ドカンと火炎弾を放ってやるぜ」


 ゼルトザームはMYKを多量に服用した。ゼルトザームの体からは魔力が溢れ出て、体から不気味な紫のオーラが漂っている。


 「火炎弾」


 ゼルトザームは空に向かって火炎弾を放つ。火炎弾は上空20mくらいで大爆発を起こし、鼓膜が破れるほどの音と空を赤く染めるような多量の火花を放つ。


 「たーまやー」

 「ハツキお姉ちゃん、たまやってどういう意味なの?」

 「プリンツちゃんは、花火を見たことがないのかしら?花火を見るときはたまやって声をかけるのよ」



 私は空に大きな花火が上がっていたので、つい『たまや』と声を上げてしまった。


 「あれは花火じゃなく魔法だよ」

 「違うわよ!あれは花火なの。プリンツちゃんも一緒に『たまや』って叫ぶのよ」

 
 『ガブリ』『ガブリ』



 ゼルトザームの放った火炎弾の音で、遠くに居た黒狐が音の出る場所に向かって全速力で走ってきた。黒狐は私が空を見上げて花火の余韻に耽っている隙に私の腕や足に噛みついた。


 「なんか、痒いわね」


 私は足や腕に違和感を感じて手で払った。


 「あ!また花火が上がったわよ。次はプリンツちゃんも叫ぶのよ」

 「たーまやー」

 「たーまやー」

 「プリンツちゃん、掛け声をかけると気持ちいいよね」

 「そ・・・そうだね」

 「あ!また花火が上がったわ」

 「たーまやー」



 「ゼルトザーム様・・・もう・・・限界です・・・」

 「くそ!なぜ黒狐は現れない。ハインツお前はまだMYKを服用できるな」

 「もちろんです」


 ハインツはMYKを一気に10粒飲み干した。


 「私が特大の火炎弾を放って黒狐を誘き出します」

 「任せたぞ」

 「グギャーーーー」



 ハインツは火炎弾を放つ前にMYKの過剰摂取で体が膨張しすぎて体が爆発した。


 「なぜだ!なぜ黒狐は現れない。MYKではまだ魔力量が足りないのか・・・仕方がない。MYKSを使ってやるか。確か・・・キューンハイトが特別仕様のMYKSを俺に渡していたな。これを飲めば黒狐も絶対に姿を見せるに違いない」


 ゼルトザームがMYKSを服用すると同時に体が3倍以上に膨らんでそのまま大きな音を立てて破裂した。


 「あれ?花火は終わったのかしら。でも、昼間の花火も綺麗だったわねプリンツちゃん」

 「そ・・・そうだね」

 「さて、まだ3匹しか黒狐ちゃんを退治してないから、もう少し森を探索して黒狐ちゃんをたくさん退治するわよ!」

 「そ・・・そうだね。でも、その必要はないかも知れないよ」

 「どうしてなのプリンツちゃん」

 「ハツキお姉ちゃん、周りも見てごらんよ。たくさんの黒狐の死体が転がっているよ」

 「プリンツちゃん、そんなことがあるわけないわよ!」


 私はあたりを見渡してみた。


 「えーーーーー。本当に黒狐ちゃんが多量に死んでいるわ。もしかして・・・」

 「そうだよ」

 「『黒天使』さんが倒してくれたの」

 「そうだよ」


 私は黒天使さんが私のために黒狐を倒してくれたと勘違いしているが、プリンツは黒天使は私のことだと思っているので、私の意図は理解できていない。


 「『黒天使』さん、ありがとう」


 私は黒天使にお礼を言ってありがたく黒狐の毛皮を回収した。


 「そうだわプリンツちゃん。せっかくここまで来たのだから、フンデルトミリオーネン帝国に行ってみない。アイリスさんにフンデルトミリオーネン帝国には美味しい果実ジュースの店があると教えてもらったのよ」

 「僕はジュースには興味はないけど、ハツキお姉ちゃんに行くところならどこでも付いて行くよ」



 私はアイリスさんの依頼を達成したので、フンデルトミリオーネン帝国に行くことにした。



 「向こうで大きな爆発が起こっているようだ」

 「そうね。『赤朽葉の爪』のアジトとは別方向になるけど、何か嫌な予感がするわ。アジトは後回しにしてあちらの方へ行ってみるべきだわ」

 「俺もシェーネの意見に賛成だ。あちらの方向は魔獣の森で危険が予想されるが、冒険者が魔獣と戦っているかもしれない。援護に行くべきだと思う」

 「よしわかった。少し寄り道になるが魔獣の森の方へ行くぞ」

 「よんよん」


 『青天の霹靂』はヴァイスとブラオから『赤朽葉の爪』のアジトを聞き出して
『赤朽葉の爪』の駆逐に乗り出していた。






 
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