上 下
91 / 116

英雄ランク魔獣 黒狐王

しおりを挟む

 「プリンツちゃんには大人の苦味はまだ早かったのね。どうしようかしら?このままプリンツちゃんを放っておけないわ。そうだわ!病院に連れて行けべいいのよ」


 私は回復魔法などは使えないので、地面に倒れこんだプリンツを助けるため、プリンツを背負って全速力で走って病院を探しに行った。


 「どこにも病院なんてないわ」


 地図もなく闇雲に走っていた私は、病院を見つけられずに人気のない森の奥まで進んでいた。


 「あ!あんなところに建物があるわ」


 私は森の中に大きな建物を発見した。建物の周りには小さな家が立ち並んでいた。


 「ここは小さな集落のようね。中心にある大きな建物は病院かしら」


 私は迷うことなく大きな建物に向かった。


 「あれ?扉が開かないわ。もしかして、時間外で閉まっているのかしら?」
 『えい!』


 私はプリンツのことが心配だったので、扉を蹴飛ばして強引に開けてしまった。


 「急患なのです!すぐに治療をしてください!」

 
 建物の中に入ると、そこは体育館のような何もない広い大きな空間だった。そして、建物の奥には5mほどの黒い狐の魔獣が、私の蹴った扉にぶつかって血を流して倒れ込んでいた。

 
 「嘘だろ・・・黒狐王が死んだのか?」


 黒狐王とは英雄ランクの魔獣であり、真っ黒の毛並みの狐の魔獣である。黒狐王は火炎魔法を得意とし、黒狐王の発する『黒炎火』は火炎竜王の『燃え盛る炎』と匹敵する威力を持っている。また、黒狐王の動きは素早く人間の目で黒狐王の動きを捉えるのは難しい。そんな強敵である黒狐王をテイムしているのが『殺死隊』の一人であるブラオであった。

 ブラオは魔獣をテイムできる魔法を得意とする数少ないビーストテイマーである。ビーストテイマーは、自分の魔力を魔獣に供給することで魔獣をテイムすることができる。しかし、自分より格上の魔獣をテイムするには膨大な魔力が必要になるために、禁じ手として『魔力奴隷』契約を行って、自分の一生分の魔力を渡すことによって、格上の魔獣と契約することができるが、魔力量が0になるのは死に等しいので、『魔力奴隷』契約をする者などいない。

 ブラオが自分よりも格上の黒狐王をテイムすることができたのは、特殊な契約方法を結んだからである。ブラオは自分の魔力でなく別の人物の魔力を黒狐王に差し出す契約を結ぶことによって、テイム契約を結んだのである。ブラオは、週に1度人間を2名黒狐王に差し出す約束を交わしていた。もちろんのこの約束を破ればブラオは契約違反となり死を持って弁済をしないといけないのであった。


 「グルルルル!グルルルル!」


 黒狐王は死んではいなかった。赤く染まった体をゆっくりと起き上がらせて私の方を睨んでいる。


 「ごめんさない。狐ちゃんが居てるなんて知らなかったのよ」


 私が頭を下げると同時に黒狐王は私に向かって飛びかかってきた。黒狐王は私が頭を下げたので目標物を失って私の頭の上を通過した。しかし、私の頭を通過した瞬間に私が頭を上げたので、私のヘッドバットを喰らって黒狐王は建物の天井に突き刺さった。


 「あれ?狐ちゃんどこへ行ったのかしら」


 私はさっきまで目の前にいたはずの狐がいなくなったので困惑していた。


 「幻で見てたのかな?そうだ!それよりもここは病院じゃなかったのかしら?」


 私は周りを見渡すと、建物の隅の方に一人の男性がいることに気がついた。


 「すいません!ここは病院じゃないのかしら?」

 「うわわあああ、うああああ」


 ブラオは私にビビってしまって、まとも喋ることができない。


 「プリンツちゃんの調子がおかしいの。回復魔法をかけて欲しいのよ」


 私は背負っていたプリンツを下ろしてブラオの目の前に置いた。


 「グギャーーー」


 ブラオは恐ろしさのあまりに気を失ってしまった。私は大事なことを忘れていたのである。プリンツは黒の怪物と恐れられるヴォルフ族である。ブラオはヴォルフ族すら倒した冒険者だと勘違いして、恐ろしくなって気を失ったのである。


 「あ!そうだったわ。プリンツちゃんを等身大のまま見せたのは失敗だったわね」


 私もブラオが失神した理由に気が付いた。


 「ハツキ・・・お姉ちゃん。僕はもう大丈夫だよ」


 プリンツはブラオの悲鳴によって目を覚ましたのである。


 「本当に大丈夫なの?」

 「まだ自力では動けないけど心配ないよ」

 「プリンツちゃん、私のポケットに入ってゆっくりと休んでね」


 プリンツは小型サイズになり私のポケットに入って眠りについた。


 「さて、帰り道はわからないけど適当に帰りましょ」


 私は建物を出て森の中を駆けていく。
 

 私が建物を去ってから数分後。


 「シェーネ。建物と扉が壊れているぞ」

 「本当だわ。私たちがおやつを食べている間に何が起こったのかしら」

 「おやつの香りに釣られて扉をこじ開けたよん」

 「俺もショコラの意見に賛成だ。建物天井を見ればみんなも納得がいくはずだ」

 「建物天井から魔獣の頭らしきものが見えるわよ」

 「ショコラのおやつが欲しくて天井から出ようとして失敗したのだろう」

 「でも、それなら扉が破壊されていることが説明がつかないわ」

 「シェーネ、あの魔獣の頭から推測される大きさはどれくらいだ」

 「そうね。あの頭の大きさからだと4、5mといったところね」

 「そうだな。そしたら、あの建物扉の大きさはどれくらいだ」

 「2m50cmほどかしら・・・あ!そういことなのね」

 「そうだ、あの魔獣は、扉を破壊して出ようとしたが出ることができきなかった。だから、天窓を突き破って外に出ようとしたが、失敗したと判断するの正解だろう」

 「さすがカーネリアンね。あなたの観察眼には恐れ入ったわ」

 「どうする。このまま建物の中に潜入するか」

 「そうね。魔獣が戦闘不能になった今がチャンスだと思うわ」


 『青天の霹靂』は建物の中に入ることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

処理中です...