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スカンディナビア帝国編 パート10

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 トールさんが調書を取れる状態ではないと判断した衛兵は、トールさんをポロンさんと同じ鉄の檻で覆われた牢獄へ投げ飛ばした。


 「後でまた取り調べをする」


 衛兵は留置場から出て行った。



 「これを食べるのよ」


 ポロンさんは、非常時のために隠し持っていたパンをトールさんの口に近づけた。空腹だったトールさんは意識がなくても、パンの香ばしい香りに体をピクリと動かして反応した。そして、有無を言わぬスピードでポロンさんの差し出したパンに食らいついた。


 「生き返ったぜ!」


 パンを食べたトールさんは、正気を取り戻しスクッと立ち上がり、今まで何事もなかったかのように元気な姿に戻った。


 「ここはどこだ?そして・・・お前は誰だ?」


 トールさんは意識を取り戻したら、牢屋の中に居て目の前にはエルフがいるので困惑している。


 「ここはスヒーズの町の留置場よ。そして、私はエルフの国からきたポロンよ」


 「ここは留置場なのか!そして、留置場にいるってことはお前は悪人なのか?」

 「私はあなたが空腹で気を失っているところを助けた命の恩人よ!命の恩人に向かって悪人とはひどい言われようだわ」


 ポロンさんは腕組みをしてカンカンに怒っている。


 「これはすまない」


 トールさんは頭を下げて謝った。


 「言葉による謝罪などいらないわよ!本当に悪いと思ったのなら、私の身元引受人になってよ!」

 「身元引受人?」

 「そうよ。私はちょっとした失敗でこの留置場に入れられてしまったわ。でも、身元引受人さえいれば、この留置場から出ることができるのよ」

 
 ポロンさんは緊迫した表情でトールさんに力説する。


 「家族や仲間に頼めばいいのではないか?」

 「私はとある事情でエルフの国を出てきたのよ。だから、家族に頼むことはできないわ。そして、この国には友達や仲間もいないのよ。もう、あなたしか頼める人はいないの。お願いよ。私の身元引受人になって・・・そして、私をここから出してください」


 ポロンさんは、初めは命の恩人という名目で上から視点で、トールさんに声をかけていたが、そのうちその姿勢は崩れていき、涙ながらに訴えるのである。


 「わかったぜ。命の恩人を見捨てるわけにはいかないぜ。おれがお前の身元引受人になってやるぜ」


 男気のなるトールさんは頼まれると断れない性格であった。


 「ありがとう」


 ポロンさんはトールさんの了承を得たので、すぐに衛兵を呼ぶために大声で叫ぶ。


 「身元引受人ができたわ。すぐにここから出すのよ」


 ポロンさんの声に気づいた衛兵がすぐに留置場に戻ってきた。


 「うるさいぞ!おとなしくしていろ」


 衛兵がポロンさんを怒鳴りつける。


 「私の話をきちんと聞くのよ。この子が私の身元引受人になってくれたのよ」

 「お前こそおれの話を理解しろ。そいつは犯罪者だから身元引受人にはなることできないのだ」

 「そんな・・・」


 ポロンさんは音を立てながら積み木のように崩れ落ちる。


 「ちょっと待て!なぜおれが俺が犯罪者なのだ?」


 トールさんは慌てて衛兵に声をかける。


 「お前は、門兵の静止を振り切って無断でこの町に不法侵入した犯罪者だ」

 「待て、何かの誤解だ。俺は空腹で気を失っていたのだ。だから不法侵入する意図はなかったのだ」


 トールさんは必死に弁明する。


 「犯罪者はいつもそのような言い訳をするものだ。意識を取り戻したのならじっくりとお前の嘘を聞いてあげようではないか?」


 衛兵は全くトールさんのことを信用していない。


 「俺は何も悪いことはしていない。ここから出してくれ!」

 「そうよ。私もここから出してよ」

 「まずは身分証を出せ」


 衛兵はトールさんに身分証の提出を求める。


 「ちょっと待て」


 トールさんは、あらゆるところを探すが身分証が見つからない。


 「おかしいなぁ・・・ポケット入れたはずなのになぁ」


 しかし、いくら探しても身分証が出てこない。


 「お前も身分証を持っていないのか」


 衛兵は見下すような目つきでトールさんに吐きつけるように言った。実はポロンさんも身分証を無くしてしまって、身分証を掲示していないのである。もし、ポロンさんが身分証をきちんと持っていれば、アルフヘイム妖王国の王女なので、留置場に入ることはなかったのである。そして、それはトールさんも同じである。


 「おかしいな?どこへいったのだ・・・」

 「もういい。お前は何しにこの町に来たのだ!」

 「俺は冒険者になるためだ」

 「冒険者登録して身分証を手に入れたいのだな。だから身分証がないから町へ強行突入したのだな」

 「違う。身分証は城から持ってきたはずだ。それに町へはきちんと手続きしてから入るつもりだったのだ」

 「言い訳は聞きたくない。現にお前は馬で強行突破したのだ。これは重大な犯罪だ」

 「・・・」


 トールさんは気を失っていたが、強行突破したの事実であるので何も言い返せない。


 「お前はどこから来たのだ?」

 「王都パステックから来た」

 「嘘をつくな!冒険者になるなら王都パステックでもなれるだろう。わざわざ王都から冒険者になるためにスヒーズの町へ来るなんてありえないぞ。嘘をつくならもっとマシな嘘をつくのだ!」


 衛兵は怒鳴りながらトールさんの頭を殴りつける。


 「俺には色々な事情があるのだ。だから嘘を言っているわけではないのだ」


 トールさんは頭を殴りつけられたがグッと我慢して真摯に答える。



 「俺は長年衛兵をやっているからわかるのだ。お前は何か重要なこと隠しているはずだ。俺はその需要なことを突き止めるまでは、絶対にお前をこの留置場から出さないぞ」


 衛兵の感は当たっていたが、しかしそれを知った時、衛兵はトールさんに頭を地面に擦り付けるほど頭を下げて謝ることになるのであった。
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