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倭の国パート26

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 サラちゃんは、いい感じにお腹が膨れてきたので、お昼寝をすることにした。

 しばらくすると、突撃王が戻ってきた。


 「ちゃんこはまだか!」


 戻ってくるなり、突撃王は怒鳴りつける。


 「先ほど、ちゃんこは持っていきました」


 ちゃんこ番が突撃王に説明をする。


 「ここにあるのは、ピカピカの鍋だけだ。どこにちゃんこがあるのだ」

 「本当に先ほど運んだのです」

 「突撃王、また何を騒いでいるのだ!」


 雷電が戻ってきた。


 「ちゃんこがまだ用意されていないぞ」


 突撃王が、雷電に物申す。


 「そんなはずはない。今回は俺が食材を用意して、ちゃんこ番と一緒に作ったのだから」

 「なら、なぜ鍋はピカピカなのだ」


 雷電は鍋をじっくりと見つめる。


 「本当だ・・・鍋の中には、お汁一滴も残っていないぞ。ってそれよりも、突撃王、周りを見てみろよ」

 「なんだこれは・・・ここで一体何が起こったのだ」


 お食事の部屋の周りの壁には、数名の力士が白目を剥いて壁にめり込んでいるのである。


 「おい、上を見てみろよ」

 「なんてこった・・・・」


 天井にも、数名の力士がめり込んでいるのであった。

 もちろん、サラちゃんに投げ飛ばされた力士達である。


 「あいつは、黄昏じゃないか・・・」


 黄昏とは、最初にサラちゃんに飛ばされた200kgの巨漢の力士である。黄昏は、イモの町最強の力士であった。


 「黄昏を、壁にめり込ませるほどの力士は、あいつしかいないはずだ」


 雷電には心あたりがあった。


 「金童子か・・・」


 突撃王が答える。


 「そうだ。あれほどの量のちゃんこを1人で食べて、この食事場にいた30名の力士を壁に埋め込ませることのできる力士は、金童子しかいない」


 雷電はキッパリと言った。


 「そう言えば・・・あのお嬢さんは、どこにいる!」


 雷電は慌てて言った。


 「おい、あそこに転がっているぞ」

 
 雷電は急いでサラちゃんに駆け寄った。


 「お嬢さん、大丈夫ですか」


 サラちゃんは爆睡しているので、目を覚ますことはない。


 「金童子・・・こんないたいけな少女まで手を出すなんて、絶対に許さないぞ」


 サラちゃんは100年以上生きているサラマンダーであるが、人型は、小柄な可愛い女の子なので、幼く見えるのである。


 「やはり、鍋を食べた犯人は、金童子だったんだな」


 突撃王が言う。


 「そうに違いない。こんな幼い少女が、ちゃんこを1人で食べれるわけがないのだ」


 雷電は確信をもって言う。


 いや、その女の子が食べました。とちゃんこ番が言えない雰囲気であった。


 「ガハハハハ、ガハハハハ」


 大きな笑い声を上げながら、金童子が入ってきた。金童子は熊のように大きな鬼の妖怪であり、酒呑童子の配下の四天王の1人である。金童子は、ダイダラボッチに投げ飛ばされた酒呑童子を追いかけて行ったので、150年前の八岐大蛇の封印には参加はしていない。

 金童子は、いくら探しても酒呑童子が見つからないので、倭の国に戻って、人間のふりをして過ごしていたのであった。

 金童子は、鬼の顔を鬼のお面をつけていると言い張って、人間達を騙しているのであった。しかし、金童子は、特に悪いことをするわけでなく、その大きな体格と人間離れした力で、人間達の手伝いをしているので、イモの町では、とても人気者であった。

 しかし、エードの町では、エードの英雄力士である雷電を、毎回豪快に投げ飛ばしているので、悪者扱いされている。ちなみに大相撲大会は、20年間金童子が優勝しているのであった。


 「金童子、お前が、ちゃんこを全て食べたのか」


 雷電が怒りをあらわにして言う。


 「???」


 金童子は、雷電が何を言っているのかわからない。それも当たり前である。ちゃんこを食べたのはサラちゃんである。


「何をとぼけた顔をしている。お前がちゃんこを食べたのだろ」


 再度、雷電が問いかける。


 「覚えていないな。それにちゃんこぐらい食べたくらいで騒ぐなよ」


 金童子は面倒くさそうに言う。


 「ちゃんこぐらいとは何事だ!ちゃんこは力士のパワーの源だぞ」

 「そんなことつまらない事を言っているから、俺に勝てないのだ。ガハハハハ」


 金童子は、嘲笑った。


 「俺を侮辱しているのか」

 「雷電、落ち着け」


 雷電は、今まで金童子に一度も勝てていないので、金童子の余裕ある態度に、イライラしているのであった。


 「金童子、お前がここにいる力士達を投げ飛ばして、壁にめり込ませたのか?」

 「覚えてないなぁ。でもこいつらは弱すぎるから、自業自得じゃないか!ガハハハハ」

 「お前は、こんないたいけな少女まで、いたぶったのか!」


 雷電は、サラちゃんを指さして、金童子に問いかける。

 金童子はサラちゃんを見て、急に顔が青ざめてきた。

 金童子は妖怪である。なので普通の人間とは違って相手の魔力量など、感覚である程度察知することができる。金童子はサラちゃんを一目見てわかった。この女の子は普通ではないと。


 「どうした。声も出ないのか!」

 「いや、その子のことは、俺は全く知らない」


 金童子は、真剣な顔で言った。


 「嘘はつくな!俺には全てわかったいるのだ。俺が、お前にやられた力士の無念を晴らしてやる」

 「好きにするといいさ」


 金童子は、雷電の相手が面倒になったので、その場を引き上げることにした。


 「あの女の子は化け物だぞ。俺は今回の大相撲大会は危険することにしたわ」


 金童子は仲間の力士にそう告げたのであった。


 

 
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