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倭の国パート10

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 「もう、用事は終わったし帰ろうぜ」

 「そうですわ。帰りましょ」


 ご馳走が出ないとわかったトールさんとポロンさんは、明らかに不機嫌になり、帰りだした。


 「ご馳走は用意できませんが、これでよければ、お召し上げりになってください」

 「ありがとうございます」


 ロキさんは、丁寧にお礼を言った。

 
 「この黄色い物が乗った、食べ物はなんですか?」

 「たまごのお寿司です。最近はお魚が手に入らないので、そんなものしかありません」

 「でも、甘くて美味しいですわ」

 「なんだと!!!」

 「お寿司ですって」


 荒屋を出ようとしていたトールさんとポロンさんが、慌てて戻ってきた。


 「この家は、居心地がいいから、もう少しいてもいいかな・・・」

 「そうですわ。それに、特に用事もないので、もう少し、ヒメコ様とお話をしたいですわ」


 お寿司と聞いて、2人は、ヒメコ様にゴマをする。


 私は、ヘルオクトパスとデスシャークの切り身を出して、お寿司を握ってもらうことにした。

 もみじちゃんは、忍びとしての才能はないが、お寿司を握るのがとても上手であった。


 「もみじの握るお寿司は、とても美味しいですので、皆さんで食べてください」


 図々しく戻ってきたトールさん達を、ヒメコ様は快く迎え入れてくれた。そして、もみじちゃんは、私の材料を使って、美味しいお寿司を握ってくれたのであった。


 「もみじはできるヤツだと、俺は思っていたぜ」


 トールさんは、もみじちゃんを褒める。


 「初めて見た時に感じていたあのオーラは、料理の才能のオーラだったのね」


 ポロンさんも、もみじちゃんを持ち上げる。


 「私の握るお寿司の腕前は、倭の国では有名ですわ。新鮮な魚さえあれば、もっと腕を振るうことができなのに残念ですわ」

 「新鮮な魚・・・ポロンのマグマさえなければ」

 「しーーーーー!トール、余計な事を言わないでね」


 倭の国で、新鮮な魚が取れなくなったのは、最初は、サラちゃんのせいであり、次はポロンさんのせいと言ってもおかしくない。


 「今、倭海の温暖化の原因も、もみじに調べさせています。なので、原因が分かり次第対処する予定です」


 ヒメコが真剣な面持ちで説明した。


 私たちの顔が凍りついた。確か・・・もみじちゃんに、倭海を温暖化させる現場を目撃されている。


 「そうだ。用事を思い出したぜ。すぐに帰ろうぜ」

 「そうですわ。急用ですわ。すぐにでも戻りましょう」

 「そうね。お寿司もいただいたし、これ以上ご迷惑をおかけできませんわ」


 ロキさんも、この状況はまずいと感じて、退散することに同意した。


 「そうですか。では、明日の剣術大会は観戦しますので、ロキさんの活躍を期待しています」

 「明日は頑張ってねー」

 もみじちゃんが。笑顔で手を振る。もみじちゃんが残念な忍びで助かったのである。


 「あっ、そうだわ」


 もみじちゃんが声を上げた。私たちは、ドッキっとした。もしかしたら、もみじちゃんが思い出したのかもしれないと。


 「明日は、剣術大会のほかにも、わんこぞば大会もあるので、ぜひ参加してね」


 全然違う内容で、ホッとしたのであった。


 「わんこそば大会?なんだそれは?」

 「犬のお料理ですわ」

 「本当かよ。俺は、遠慮しとくぜ」

 「そうね。私も遠慮しとくわ」


 トールさんとポロンさんが、わんこそばについて話しているが、とんだ誤解である。


 「わんこそばとは、熱いそばつゆをくぐらせた一口大のそばをお椀に入れ、それを食べ終えたるたびに、給仕がそのお椀に、次々とそばを入れ続けて、そばをどれだけたくさん食べれるかを競う大会です」


 私は、きちんと説明した。


 「あっそうですわ。確かそうでしたわ」


 ポロンさんは、慌てて訂正する。


 「それなら、参加してみたいぜ」

 「私もお供するわ」


 剣術大会の日は、エードの町で、たくさんのイベントをして盛り上がることになっている。なので、エードの町のイベントを楽しむことにしたのである


 「明日は楽しみだぜ」

 「そうですわ。剣術大会の件はロキに任せて、私たちは、わんこそば大会に出場しましょう」

 「そうだな」


 トールさん達は、ヒメコ様のお願い事をロキさんに全て任せて、自分たちは、食べることに専念することを宣言したのである。


 「最初からあてにはしていないわ・・・ルシスちゃん、あなただけが頼りよ」


 ロキさんの腹は決まっていた。あの2人には期待しないと。

 ロキさんの今の実力なら、剣術大会で優勝すると私は思っている。しかし、家康将軍に入れ替わった者の正体は、気になるところであり、ロキさん1人に任せる事はできない。

 明日の予定も決まったので、私たちは、町人地に戻って宿屋に泊まることにした。宿屋では、倭の国独特の畳の部屋に、ロキさん達は、はしゃいでいたが、私はどこか懐かしく思えて、しんみりとしていたのであった。


 次の日、ロキさんと私は剣術大会に、そして、トールさんとポロンさんは、わんこそば大会の会場に向かった。

 私は、剣術大会の会場に行って、出場選手の名簿を見て、ビックリしたのであった。剣術大会の参加者の名前に、私の名前が載っていたのであった。

 
 「どうして、私の名前があるのかしら・・・」

 「ルシスちゃん・・・・ごめんなさい。1人で参加するのが寂しかったから、ルシスちゃんの名前を書いてしまったのよ」

 「・・・・」


 私も剣術大会に参加することになってしまった。参加するのは問題ないのだが、私には剣がない・・・調理用のナイフしか持っていないのであった。


 「ルシスちゃんは、もう行ったようね」

 「はい。剣術大会に行かれました」

 「そう。それなら、もう問題はないわね」

 「はい。出ても来ても、怒られないと思います」

 「わんこそば大会・・・私のための大会ですわ」


 そう言って、サラちゃんが、ポロンさんの精印から出てきたのであった。


 「ポロンさん、私も参加するわ」


 サラちゃんは、私にトラブルを起こさないように、倭の国へは、来ないようにと、言われていたのであった。
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