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アビスの過去パート1

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 「姉上、私もついいきます」

 「大丈夫よアビス。ドワーフの国は、安全なところですわ」

 「いえ、何が起きるかわかりません。護衛の者だけでは心配です。私が姉上を守ります」

 「お前は、エヴァの心配をしているのではなく、エヴァと離れたくないだけだろ」

 「兄上、そんなことはありません。本当に心配なのです」


 アビスは、エルフの第3王子である。姉のエヴァが大好きであり、子供の頃からずっと一緒に育ってきてた。そして、成人しても、姉と離れようとしないシスコンであった。

 エヴァは、エルフの第1王女であり、絶世の美女と言われ、エヴァに言いよってくる者は、後を絶たない。エルフだけではなく、他種族からの求婚願いも多い。

 しかも、エヴァは、美しさだけではなく、愛想も良く、誰にでも優しい。なので、一度エヴァに会うと、誰もがエヴァの虜になってしまうのである。アビスもその例外ではない。


 「仕方がないわ。アビスにも護衛を頼むわ」

 「任せてください姉上」


 姉上は、なんで、あの醜いドワーフの国なんか行くのだ。ドワーフの王の誕生祭など、他のエルフが行けばいいのに。あのドワーフの王子も、姉上にゾッコンだ。会うたびに姉上に、言いよってきやがる。今回もかならず、言い寄ってくるに違いない。全力で邪魔をしてやる。


 「姉上、なぜドワーフの王の誕生祭に行くのですか。あの国は、料理も美味しくないし、岩でできた町で、景観も良くない。さらに醜い種族で、酒癖も悪い」

 「アビス、そんなことを言ってはいけません。ドワーフの鉱石を、加工する技術は、素晴らしいですわ。鎧でさえ、芸術品に変えてしまう、神の手をお持ちですわ。それに明るく元気で、楽しい人達ですわ。特に王子のダールルは、王子なのに、偉そうに振る舞うこともなく、毎日工房にこもり、鍛治の鍛錬を怠ることがありません。アビスも見習うところが、あると思いますわ」

 「そうなのですか。私も日々の剣の鍛錬は、欠かしたことはありません。姉上の剣になり、どんな強敵でも倒してみせましょう」

 「そう言うことじゃないのよアビス。あなたは、少し私のことを、気にしすぎだわ。もっと広い視野で、世界を見てほしいわ」


 姉上は、何を言っているのだろうか。俺は姉上のために、強くなって、何が悪いのだろうか。姉上こそ、エルフの気品をもっと大事にして、下等なドワーフなど、相手にしなければいいのに。



 エヴァを乗せた馬車は、アルフエイム妖王国を出発し、3日間かけて、ドワーフの国の首都ターニプについた。

 ターニプでは、エルフの国の王女様が、来るということで、大勢の市民が出迎えをしていた。


 「あれが、エルフの王女様か」

 「とても綺麗だわ」

 「エヴァ様ー」

 「ターニプへようこそ」


 市民達が、エヴァを歓迎する。エヴァは馬車から顔を出して、笑顔で手を振る。


 「姉上、ドワーフの市民ごとき、相手にする必要ありません。王女らしく、王族だけを、相手をすればいいのです」

 「アビス、何を言っているの。王族らしく、身分に分け隔てなく、接するのが真の王族ですわ。アビスも一緒に、歓声にこたえるのよ」


 姉上のああいう態度が困るのだ。誰にでも、笑顔で対応するから、平民どもがつけあがるのだ。王族は王族らしく、威厳を持って、対応しないといけないのだ。


 「私は遠慮しておきます」

 「そうなのアビス・・・残念だわ」


 馬車は、町に入り、ドワーフの王族が住む王宮に向かった。

 ドワーフの首都ターニプは、全てが石で出来ている。ドワーフは、石の加工も得意であり、家から、王族の住む、王宮まで、全てが岩で、できているので、他の国のような、華やかさはない。


 エヴァを乗せた馬車は、王宮につき、ドワーフの王のもとへ案内された。


 「エヴァ王女様、お久しぶりです。今回は、私の誕生祭に出席いただいて、ありがとう」

 「こちらこそ、お呼びいただいて、ありがとうございます」

 「長旅でお疲れであろう。お部屋を用意しているので、休んでください。明日の誕生祭までは、自由にお過ごしください。わからないことがあれば、息子のダールルに聞いてください。エヴァ王女に会えるのを、楽しみにしていますので」

 「わかりました。私も久しぶりに、ダールル王子に会えるのを、楽しみにしています。今は工房にいてるのかしら」

 「あやつは、ずっと工房に居てます。今は、エヴァ王女様のために、ミスリルのナイフを作っているところです」

 「ほんとに、プレゼントしてもらえるのですか。ミスリルは、かなり希少価値の鉱石であり、加工も難しいと聞いています」

 「気にしなくても大丈夫です。エヴァ王女様のために、あいつ自身で、鉱山に入って、見つけ出した素材です。素直に受け取ってあげて欲しい」

 「そうなのですか。それは本当に嬉しいです」



 姉上は何を言っているのか、確かにミスリルのナイフは、かなり貴重な武器だ。しかし、明らかに下心が、丸見えではないか。物で釣られるなんて、姉上らしくもない。


 「姉上、そろそろ、部屋に行きましょう。王様も忙しいと思いますので、長話は誕生祭の時で、よろしいかと思います」

 「そうですね。では、これで失礼いたします」



 「姉上、これからどうしますか。夕食会までは、まだ時間があります。部屋でゆっくりと休みますか」

 「工房に行ってくるわ」

 「姉上・・・・あんな汚い所へ行くのは、おやめください」

 「あなたには、あの工房の良さが、わからないの。それなら、私は1人で行ってくるわ」

 「お待ちください。いくらこの王宮が、安全だと言っても、1人での行動はダメです。私がついていきます」



 エヴァは、ダールルに会いに、工房へ向かった。後を追うようにアビスも工房へ向かう。


 王宮には、ダールルのために作られた、立派な工房がある。ダールルは、この工房を、市民達に解放して、誰でも使えるようにした。そのため、この工房には、いろんなドワーフ達が集まり、ドワーフの国で、1番技術の高い工房になったのである。


 「みなさんお久しぶりです。お酒を持ってきたので、少し休憩にしませんか」

 「エヴァ王女様・・・・」

 
 いきなり、エルフの王女が、工房に来たので、工房内のドワーフは、ビックリしている。その中でも1番驚いているのは、ダールルである。

 「エヴァ王女様、このような暑くて、汚いところへ来てはいけません」

 「何を言ってるの、ダールル王子。こんな素晴らしい工房に来なくて、どこへいけばいいのよ」

 「さすが王女様、わかっているね。ドワーフの国で、1番素晴らしいのは、この工房で間違いない」

 「そうですわ。だからじっくりと、見学させてもらうわ」


 エヴァは、ドワーフの職人にお酒を配り、職人達と工房について、楽しく話しをしている。


 姉上、何をしているのだ。あんな下等なドワーフにお酒を配り、話し相手になるなんて・・王族の権威が下がってしまう。早くここから連れ出さないと。


 「エヴァ王女様、実は渡したい物があります。奥の部屋に来てもらってもいいですか」

 「おっ、あれを渡すのだな」

 「おい、黙ってろ」


 「あら、何かしら。楽しみだわ」

 「姉上、いけません。もう戻る時間です。帰りましょう」

 
 俺は引っ張るように、姉上を強引に工房から連れ出した。これ以上、あの汚い工房に姉上を置いていくわけにはいかない。


 「アビス、何をするの。せっかくダールル王子から、プレゼントもらえるところだったのに。邪魔しないでくれる」

 「もう戻りましょう」


 俺は、姉上を強引に、部屋に戻した。これで、あの王子も諦めるだろう。
 
 しかし、ダールルは、どうしても、エヴァにプレゼントをして、打ち明けたい気持ちがあったので、夕食会の時に、そっと手紙を渡し、夜に工房に来てもらえるようにお願いした。


 しかし、それをアビスは見逃さなかった。


  
 「あの男、姉上に対して、何をしている・・・絶対に許さん」
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