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キューカンバの町パート3
しおりを挟む「準備はできているぜ」
「ありがとうございます」
「俺たちは、何もしなくていいんだな」
集合場所の港には、ギルマス以外に、数名の衛兵、ギルドの職員がいた。
「はい。船の船長以外は、危険ですので、港で待機していてください」
「わかった。検討を祈る」
私は、背中にブドウがたくさん入ったカゴを背負って、クラちゃんと約束した、沖の方へ向かった。船も私の行く方向へ着いていく。
「むこうに、クラーケンが見えます。」
「確かに何か大きな生き物が見えますわ」
ポロンさんは、エルフなので、かなり目がいいのである。
「近づきすぎると危険だが、この距離だと、クラーケンを確認できないので、もう少し近づこう」
クラちゃんは予定通り、あまり波をたてず、じっと頭だけ出してくれている。クラーケンは大きので、頭だけでも、5mはある。クラちゃんは、私に気づいて、胴体を海から出して、触手を突き出し、手をふりだした。
「クラちゃん余計な事は、しないで」
クラちゃんは、私の心の声は聞こえず、私が気づいてないと、感じたのか、さらに触手を出して、4本の触手で、大きく手を振る。クラーケンは触手だけでも、30mもあり、その触手が、振り動くのだから、その影響で、大きな波が発生する。
「クラーケンが暴れ出したみたいだぞ。ここからだと、まだ遠い、船長悪いが、もう少しだけ、近づいてくれ」
「ブドウまだー。お腹空いたよ」
これ以上クラちゃんを待たせるのは、危険だ。小芝居がバレてしまう。私は、ロキさんたちが乗る船が、射程圏内に入るのを待たず、攻撃というなの餌付けを始めた。
「ロキお姉ちゃん、先に仕掛けます」
私は、背中のカゴのブドウを、魔法で次々と、クラーケンの口元へ放り込む。クラーケンは触手を、激しくバタつかせている。その激しい動きで、大きな波が船を襲う。
「ロキさん、これ以上近づくのは、無理ですぜ」
「仕方がない、ここから攻撃するか」
クラちゃんが、ブドウがおいしくて、喜びのあまりはしゃぎすぎて、船が、予定の射程圏内まで近寄れない。
「私に任せてください。目は良いので、それに、弓ならこの距離でも、問題はありませんから」
「ポロン任せたぞ」
ポロンさんが矢を放つと、ロキさんがすかさず、魔法で、矢の後方にブドウの束をまとわせる。矢は寸分の狂いもなく、クラーケンの口元へ放たれる。
「パクリ。パクリ」
「これは、効いているのか?私には、なんかクラーケンが喜んでいるように感じるが」
「大丈夫です。ロキお姉ちゃん。クラーケンは苦しんでいます」
「暴れているから、苦しいんじゃないか」
「そうですわ。さらにブドウを投げつけましょう」
あぶない、あぶないロキさんにバレるところでした。トールさんのおかげで、なんとか誤魔化せた。クラちゃんとの約束では、もうそろそろ、退散してくれる予定なのだが、あの食いしん坊は、もっとよこせと、暴れている。苦しくてじゃなくて・・・
私と、ポロンさんで、クラーケンへのブドウの餌付けは続くが、一向に退散する気配がない。もうブドウも尽きそうだ。
「うー苦しいよ。ブドウの匂いは苦しいよ。うーもっと欲しいよ」
ダメだあの食いしん坊は、もうブドウは、これで最後だ。
「クラーケンこれが、最後のブドウです。これで観念してください」
私は大声で、説得することにした。
「エーン・エーン、もう少し欲しいよ。食べたいよ」
「おっ、クラーケンがなんか、わめいているぞ。かなり効いているみたいだぞ」
「そうなのか?なんか違うような」
「効いていますよ。これでが最後のブドウです。これでとどめを、さしましょう」
これほど、あの2人が頼もしいと、思った事はない。良いメンバーに恵まれたと、私は感謝した。しかし、ポロンさんの最後のブドウでもクラーケンはまだ欲しいと、駄々をこねるのであった。
「うー苦しいよ。苦しいよ。イチゴの匂いがあれば、逃げてしまいそうだよ」
やっぱり、クラちゃんは、イチゴを要求してきた。私は、こうなるのではないかと、心配していたので、イチゴもこっそり用意していたのである。
「これで。本当に最後だ。これを喰らいなさい」
私は多量のイチゴをクラーケン目掛けて、放り投げた。
『やったぁー・・・うーうー、苦しいよ。嬉しいよ。」
と触手を振りながら、海の中へ消えていった。
「撃退したみたいだな」
「やりましたよね」
「なんか、手を振っているみたいに、見えたが・・」
「ロキおねちゃん、クラーケンは苦しんで、退散しましたよ。これでこの町の人も安心して、漁に出ることが出来ますよ」
「あ・ああ、そうだな」
私はロキさんにバレないように、急いで港に向かった。港では、クラーケンがはしゃいで、おきた波だけが、見えていたので、かなり心配していたみたいだ。私たちが戻ると、心配そうに、ギルマスが近寄ってきた。
「かなり激しい戦闘に、見えたが、大丈夫ですか」
「ああ、クラーケンは無事に逃げていきました」
「それは、助かる。これで、明日からは、漁に出かけることができる。私からこの町の領主様に報告しておくので、明日ギルドに来てもらえないか。そこで今回の報酬のことを話そう。まさか、ブドウで撃退できるなんて、本当だったんだな」
そう言うと、ギルマスは急いで、領主様の元へ向かった。私たちは、宿屋に戻り、体を休めることにした。
次の日、ギルドに向かうと、領主様がギルドの部屋で待っていてくれた。
「君たちが、クラーケンを撃退してくれたのかね」
「はい」
「そうか、この町を救ってくれてありがとう。この町は、漁業と果物の栽培で成り立っている。クラーケンが、あらわれてから、漁に出られず、困っていたところだ。もし1か月も滞在されたら、経済に大打撃が起きるところだった」
「これで、魚料理人食べれるぜ」
「トール、領主様の前だぞ」
「いやいや、気にしなくて良い。この町の魚料理は絶品だからな。さっそく、朝から漁に、出かけているみたいだから、今夜は、町の広場で、クラーケン撃退パーティーを、開く予定だ。君たちには、ぜひ参加してほしい」
「タダで食えるのか」
「トール」
「もちろんだ」
「やったぜ。でもブドウ酒がないのは、悲しいな」
「わしの蔵からブドウ酒は用意しよう」
「あの、ブドウジュースはないのですか」
「おい、ポロンまで、何を言っている」
「もちろん用意しとくよ」
2人は涙を流して、喜んでいる。しかしほんとに泣きたいのは、ロキさんであった。これでまた、暴食の通り名が、広まってしまうと。
2人は、念願の飲み物が、飲めるとあって、夜が来るのを、すごく楽しみにしていた。あのトールさんが、夜のために、体調を万全にしたいと、お昼ご飯を、おかわり、しなかったぐらいである。
しかし、夜になって、町の広場に行くと、どこを探しても、ブドウ酒、ブドウジュースは見つからない。2人は広場の会場を、くまなく探すが、見当たらない。周りの人に尋ねてみると、さっきまでたくさんあったらしいとのこと。
どこえ消えたのだろう。私は知っている・・・
この広場に来たときに、白い髪の、ポニーテールの女の子の後ろ姿を見たのであった。あの食いしん坊。帰ったふりをしていたみたいだ。見つけ出して、お仕置きをしてあげないと。だって、私はクラちゃんよりも強いんだから。
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