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第58話 闇の魔力の残滓
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王都から修練の森へは帆馬車に乗って1時間程度で到着する。修練の森は魔法士と騎士の修練の場になっているので、路線バスのような定期便の帆馬車が運航している。そのため修練の森の近くには小さな町があり、その町は修練の森で修練する魔法士や騎士を相手に商売をして成り立っている。もちろんこれもゲームと全く同じ環境であった。
「リーリエ、ローゼ嬢、ここがルポの町だ。ここから歩いて10分ほどで修練の森に到着するから身を引き締めておけ」
兄は修練の森の初心者である私とローゼに緊張感を与えるために厳しい口調で話す。ルポは高さ3mを越える城壁で囲まれた要塞の町とも呼ばれている。町のすぐ近くには魔獣が出没する修練の森が存在するので当然の設備であると言えるだろう。しかしルポへ一歩入ると宿屋、酒場、鍛冶屋、魔法具屋、武器屋、防具屋など様々な店が鎮座して、とても賑わいのある町へと姿を変える。特に宿屋と酒場が大多数を占めて、修練を終えた魔法士や騎士が酒を夜遅くまで飲んで宿泊するのがセットコースになっている。
「お兄様、今日は王国魔法士団の方もルポに訪れているのでしょうか」
ゲームではローぜが入学して3か月後に初めてルポへ訪れてメテオールとの運命の出会いをする。まさしく今日がその運命の日にあたる。
「王国魔法士団も騎士団も班ごとに交代で修練の森の先にある試練の森で修練に励んでいる可能性はあるだろう。何か気になることでもあるのか」
兄は不思議そうな顔をして私を見る。
「もしメテオール副団長がお越しになっているのならお礼を述べたいと思っているのです」
「リーリエさん、メテオール副団長がお越しになっているのかはわかりませんが、王国魔法士団の方はお越しになっていると思います」
兄の代わりにローゼが答えてくれた。
「え!どうしてローゼが知っているの」
「繋ぎ場で王国魔法士団の紋章の入った馬車を見かけたのです」
繋ぎ場とは馬車を止める駐車場のことである。王国魔法士団や騎士団は定期便の帆馬車での移動ではなく王国の専用馬車を利用しているのであろう。ゲームではそこまで細かい設定はなかったので私は見落としていた。
「やるわねローゼ」
「たまたま目に入っただけです」
ローゼは顔を赤らめて照れ笑いをする。もしかするとローゼはメテオールのことを気にかけているのではないかと私は推測する。
「ローゼもお礼を言うのよ」
「はい」
ゲームではローゼがメテオールにお礼を言われる立場であったが、リアルでは逆の立場になるのかもしれない。少なくともゲームと似たような展開になるのがゲームの調整力なのであろう。
「リーリエ、修練の森に向かうぞ」
「わかりました、お兄様」
兄は急かすような言い方をするが、これはメテオールに対して嫉妬しているのかもしれない。でも、私はローゼと兄を恋仲にしようと企んではみたが、全く進展がなかったのでメテオールに作戦を切り替えたのであった。
「メッサー様、今日はどの辺りまで探索するのでしょうか」
兄の隣にはメーヴェがべったりとくっついている。ローゼと恋仲に進展しない理由は、メーヴェがあからさまに兄の隣から離れようとしないのが原因なのかもしれない。
「今日は修練の森の入り口周辺を探索する予定だ」
「さすがメッサー様です。私たちの身の安全を考慮してくれたのですね」
修練の森とは木々が生い茂る山をイメージしてしまうが実際は違う。どちらかといえば平原に近い。広々と見渡せる一望千里とは言えないが、視界が確保しやすく戦いやすい場所になる。先に進むにつれて岩や木など障害物も増えて魔獣も強くなる。ゲームではレベル1から15までが修練の森、レベル16から30は試練の森、それ以降が絶望の森の適性レベルとなっていた。ゲームと違いリアルではレベルは存在しないので、判断の基準は難しいが、兄は試練の森の奥地まで行っているのでレベルは20後半だと判断できる。しかし、ローゼにはこのレベル制度すら当てはまらないだろう。闇の魔力によって生まれた魔獣は光魔法にめっぽう弱い。もし、ローゼの実力がレベル1だとしても絶望の森に住む魔獣ですら楽勝で倒すことは可能だ。そのためゲームではローゼは仲間のレベル上げをサポートする立ち回りをすることになっていた。
さっそく私たちはルポを出て修練の森に向かった。修練の森の魔獣や獣は魔石や食材、素材として利用できるので修練目的ではなくハンターとしてお金稼ぎとして訪れる者も多い。この点はゲームにはない世界観である。
10分後、一面に青々と茂る草花が広がるのどかな風景から一変して、うっすらと黒いもやが漂う平原に様変わりする。視界はきちんと確保できるのだが明らかに雰囲気は変わった。
「リーリエ、この薄っすらと黒いもやの正体は終焉の魔女の闇魔力の残滓と言われている。この辺りは濃度が薄いので特に影響はないが、ここからが修練の森であることを示している」
「わかりました。ところでお兄様、闇の魔力の残滓が濃くなると何かしら影響があるのでしょうか」
ゲームでは、終焉の魔女の闇の魔力の残滓が濃くなるにつれて魔獣は強化される。すなわち同じ魔獣でも強さが違うのである。この闇の魔力の残滓は濃度が増すにつれて人間にも影響を与える。修練の森では特に影響はないが、試練の森では毒状態と同じになり、じわりじわりとHPが削られていき、絶望の森ではステータス異常を起こすことになる。これはリアルでも同じなのか確認する必要があった。
「リーリエ、ローゼ嬢、ここがルポの町だ。ここから歩いて10分ほどで修練の森に到着するから身を引き締めておけ」
兄は修練の森の初心者である私とローゼに緊張感を与えるために厳しい口調で話す。ルポは高さ3mを越える城壁で囲まれた要塞の町とも呼ばれている。町のすぐ近くには魔獣が出没する修練の森が存在するので当然の設備であると言えるだろう。しかしルポへ一歩入ると宿屋、酒場、鍛冶屋、魔法具屋、武器屋、防具屋など様々な店が鎮座して、とても賑わいのある町へと姿を変える。特に宿屋と酒場が大多数を占めて、修練を終えた魔法士や騎士が酒を夜遅くまで飲んで宿泊するのがセットコースになっている。
「お兄様、今日は王国魔法士団の方もルポに訪れているのでしょうか」
ゲームではローぜが入学して3か月後に初めてルポへ訪れてメテオールとの運命の出会いをする。まさしく今日がその運命の日にあたる。
「王国魔法士団も騎士団も班ごとに交代で修練の森の先にある試練の森で修練に励んでいる可能性はあるだろう。何か気になることでもあるのか」
兄は不思議そうな顔をして私を見る。
「もしメテオール副団長がお越しになっているのならお礼を述べたいと思っているのです」
「リーリエさん、メテオール副団長がお越しになっているのかはわかりませんが、王国魔法士団の方はお越しになっていると思います」
兄の代わりにローゼが答えてくれた。
「え!どうしてローゼが知っているの」
「繋ぎ場で王国魔法士団の紋章の入った馬車を見かけたのです」
繋ぎ場とは馬車を止める駐車場のことである。王国魔法士団や騎士団は定期便の帆馬車での移動ではなく王国の専用馬車を利用しているのであろう。ゲームではそこまで細かい設定はなかったので私は見落としていた。
「やるわねローゼ」
「たまたま目に入っただけです」
ローゼは顔を赤らめて照れ笑いをする。もしかするとローゼはメテオールのことを気にかけているのではないかと私は推測する。
「ローゼもお礼を言うのよ」
「はい」
ゲームではローゼがメテオールにお礼を言われる立場であったが、リアルでは逆の立場になるのかもしれない。少なくともゲームと似たような展開になるのがゲームの調整力なのであろう。
「リーリエ、修練の森に向かうぞ」
「わかりました、お兄様」
兄は急かすような言い方をするが、これはメテオールに対して嫉妬しているのかもしれない。でも、私はローゼと兄を恋仲にしようと企んではみたが、全く進展がなかったのでメテオールに作戦を切り替えたのであった。
「メッサー様、今日はどの辺りまで探索するのでしょうか」
兄の隣にはメーヴェがべったりとくっついている。ローゼと恋仲に進展しない理由は、メーヴェがあからさまに兄の隣から離れようとしないのが原因なのかもしれない。
「今日は修練の森の入り口周辺を探索する予定だ」
「さすがメッサー様です。私たちの身の安全を考慮してくれたのですね」
修練の森とは木々が生い茂る山をイメージしてしまうが実際は違う。どちらかといえば平原に近い。広々と見渡せる一望千里とは言えないが、視界が確保しやすく戦いやすい場所になる。先に進むにつれて岩や木など障害物も増えて魔獣も強くなる。ゲームではレベル1から15までが修練の森、レベル16から30は試練の森、それ以降が絶望の森の適性レベルとなっていた。ゲームと違いリアルではレベルは存在しないので、判断の基準は難しいが、兄は試練の森の奥地まで行っているのでレベルは20後半だと判断できる。しかし、ローゼにはこのレベル制度すら当てはまらないだろう。闇の魔力によって生まれた魔獣は光魔法にめっぽう弱い。もし、ローゼの実力がレベル1だとしても絶望の森に住む魔獣ですら楽勝で倒すことは可能だ。そのためゲームではローゼは仲間のレベル上げをサポートする立ち回りをすることになっていた。
さっそく私たちはルポを出て修練の森に向かった。修練の森の魔獣や獣は魔石や食材、素材として利用できるので修練目的ではなくハンターとしてお金稼ぎとして訪れる者も多い。この点はゲームにはない世界観である。
10分後、一面に青々と茂る草花が広がるのどかな風景から一変して、うっすらと黒いもやが漂う平原に様変わりする。視界はきちんと確保できるのだが明らかに雰囲気は変わった。
「リーリエ、この薄っすらと黒いもやの正体は終焉の魔女の闇魔力の残滓と言われている。この辺りは濃度が薄いので特に影響はないが、ここからが修練の森であることを示している」
「わかりました。ところでお兄様、闇の魔力の残滓が濃くなると何かしら影響があるのでしょうか」
ゲームでは、終焉の魔女の闇の魔力の残滓が濃くなるにつれて魔獣は強化される。すなわち同じ魔獣でも強さが違うのである。この闇の魔力の残滓は濃度が増すにつれて人間にも影響を与える。修練の森では特に影響はないが、試練の森では毒状態と同じになり、じわりじわりとHPが削られていき、絶望の森ではステータス異常を起こすことになる。これはリアルでも同じなのか確認する必要があった。
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