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第25話 秘策の決行

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「臭い息を吐き出すと命がないわよ」
「……」


 私の脅し文句にシュバインはビビり散らかして、口から何も出すことが出来ずに、代わりに下からおしっこを出す。生徒会室にはアンモニア臭が漂い床には黄色い水たまりができる。


 「ハハハハハ、ハハハハハ、ハハハハハ、リーリエ嬢、シュバインをイジメるのはその辺にしてくれないか」


 緊張が支配する生徒会室に大きな笑い声が響く。
 

 「堕落令嬢だと聞いていたが、大胆なことをするおもしろい令嬢だったとは驚きだな」


 笑い声の正体はドナー・ミルヒシュトラーゼである。ドナーは【judgment正義 of justice審判】と言われる組織の一員である。【judgment正義 of justice審判】はまたの名を裏生徒会と呼ばれ、シュバインによって正常に動かなくなった生徒会の代わりに風紀を正す組織であり、フォルモーント王立学院内では生徒会と同等いやそれ以上の権力を有する組織になる。ゲームではドナーは私が仲間を助けに教室棟別館へ忍び込む手伝いをしてくれたキャラであったが、シュバインの出生の秘密を暴き王妃の不倫の事実を公表しようとしたためにアイツの手によって殺されることになる。



 ※ ドナー・ミルヒシュトラーゼ 男性 16歳 フォルモーント王立学院2年生 身長180㎝ 体重65㎏ 栗毛の長髪 切れ長の青い瞳 鼻筋の通った美しい顔の青年 高身長で細身の体系 judgment正義 of justice審判のメンバーの1人。


 「あなたは誰なのでしょうか」


 私はドナーのことを知っているが敢えて知らないふりをする。


 「私の名はドナー・ミルヒシュトラーゼ、あまり大きな声では言えないのだが、生徒会に変わってフォルモーント王立学院の風紀を守っている者だ。シュバイン王子が行き過ぎた行為をしないか監視するのが主な役割になる。もう少し早く駆け付けることができたのなら、こんな大ごとになることはなかったのだろう。本当に申し訳ない」


 ドナーは左膝を付いて謝罪する。


 「ドナー、リーリエをどうするつもりだ。返答次第では俺にも考えがある」


 兄は私のことを心配してドナーに詰め寄る。


 「メッサー、安心したまえ。私はシュバインの悪事から生徒を守ることが【judgment正義 of justice審判】の役目だと思っている。シュバインに対する行動は不問とする」
 「ドナー、何を言っているブヒ。今すぐに俺様に謀反を働いたコイツを即刻お父様に報告するブヒ」


 ドナーの姿を見たシュバインはすがるように助けを求める。


 「シュバイン、これ以上話を大ごとにすると立場が悪くなるのはお前の方だ。さっさと部活発足許可証にサインをしろ。もし、サインを拒むのなら俺の知り得た情報を全て報告するぞ」
 「……わかったブヒ」


 シュバインはドナーに弱みを握られているのでおとなしく部活発足許可証にサインをした。


 「後のことは私に任せてください」
 「ドナー、ありがとう」

 
 私たちはドナーに一礼をして生徒会室から出て行った。


 「リーリエさん、無茶はしないでください」


 生徒会室から出るとすぐにローゼは私に飛びついてきた。


 「そうだぞ、リーリエ。もしドナーが来なければ最悪の事態になっていたぞ」


 兄も顔を真っ赤にして怒ってくれた。


 「それは私も同意見よ。2人共無茶しないでよ」


 ローゼは私の為にハーレム部へ入部しようとしたし、兄はシュバインに剣をむけようとした。私の為に命を張る行為をしてくれたのに私だけ安全圏にいるのは違う。


 「ほんと3人とも無茶し過ぎよ。でも、とっても素敵だったわ。仮入部と言ったけど私も料理研究部に入部するわ」


 メーヴェはもう私やローゼを色眼鏡で見ることはなかった。


 「あ、でも兼部でお願いね!第1剣術探求部で剣の腕は磨きたいからね」
 「大歓迎よ!」
 「リーリエさん、これであと1人になりましたね」
 「メーヴェ嬢、非常に助かる」


 いろいろとあったけれど、部活発足許可証にサインをもらい部活として認められた。残りはあと1人部員を集めるだけだ。私たちは新入部員をゲットして意気揚々と大講堂へ向かった。一昨日はここで入学式が行われたが私が長話をしてしまったので参加できなかった。今日は大講堂に20の部活が集まり在校生は新入生を直接勧誘し、新入生は今日中に部活へ入部届を出さないといけない。第1魔法研究部や第1剣術探求部のような人気のある部活は別の施設で入部試験を行い、試験に落ちた者や自分の実力に自信のない者が大講堂で部活を選ぶことになる。

 

 「リーリエさん……」


 私を見たローゼは血相を変えて私の元へ走り出す。
 私は生徒会室でサインをもらうと一旦寮に戻って、秘策のための大きな荷物をヤドカリのように背中に背負って来た。既存の部活は、前日に必要な荷物を運び終えて、既に勧誘活動をしているので急いで準備する必要がある。兄は無事にサインを貰えたことを確認すると、第1剣術探求部の部活勧誘会へ戻り、メーヴェも兄を追いかけるように第1剣術探求部の会場へ向かった。残ったローゼが先に大講堂へ向かい場所取りをしてくれていたので、私は山のような荷物を1人で背負っていたのである。


 「リーリエさん、私も手伝います」


 魔法を使えない私だが父との特訓の成果で、見た目では想像できない筋肉質な体を手に入れたので、大きな荷物でも1人で運べるのである。


 「これくらい楽勝よ。すぐに荷物を下ろすから準備を手伝ってね」
 「わかりました」


 私は大きな荷物を降ろすとさっそく準備に取り掛かる。私が寮の部屋から持ってきたのは料理を作る食材と道具、そして食器である。前にも説明したが、この世界のデザートと呼ばれる食べ物は果物でありケーキやクッキーなどは存在しない。最近は私の領内ではクッキーやビスケットなどお菓子が出回るようになったので、フォルモーント王国内でも一部の上級貴族のみがクッキーやビスケットの存在を知っているくらいである。
 フォルモーント王立学院に入学した大半の新入生は、上級貴族の子息令嬢が多いのでクッキーやビスケットを知っている者もいるだろう。しかし、今回私が用意するのはプリンである。前世の私の記憶が正しければ、プリンと言えば異世界に転生した主人公が、異世界人のお腹を鷲掴みにできる一番人気のデザートだったはず。私の新入部員を集めるための秘策とはプリンをエサに部員を獲得することであった。私は助手としてローゼにも手伝ってもらい、1時間後には50個のプリンを作り上げたのである。



 「リーリエさん……どうしましょう。こんなにも美味しいプリンを誰も受け取ってもらえません」


 私の目論見はプリンのように甘かった……堕落令嬢の私と偽聖女と嫌われているローゼが作った食べ物など誰も手にしたくないのであった。
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