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死後の世界

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 『ここは死後の世界なのかしら?』


 私はサージュオークの竜巻に飲み込まれ地面に叩きつけられて意識を失った。その後に何が起こるのかは簡単に想像は出来る。私はおそらくサージュオークの大きな拳によって殴り殺された後、サージュオークの食料となったのであろう。なので、今私が居てる場所は死後の世界であるはずだ。

 死後の世界でも声を出す勇気はない。死んだからと言ってコミュ障が治るわけでもないからである。


 『でも、この景色は見覚えがあるわ』


 私は目を開けると真っ先に飛び込んできたのは青い空と大きな白い雲、そして、青々としげる草に緑豊かな木である。


 『死後の世界って、魔獣の世界と一緒なのね』


 私は先ほどまで居た魔獣の世界と死後の世界が類似していることにあまり驚きはしなかった。


 『死んだら何をしたらいいのかしら?たしか、死後の世界の番人に天国か地獄にいくのか裁かれるはずだったわね』


 私は幼い頃に両親に聞かされていた死後の世界の話を思い出していた。


 『周りには誰もいないようだし、姿を見せてもいいかもね』


 ここは死後の世界、姿を消す必要はないと私は判断して『無』のスキルを解除した。


 「やっと姿をみせたわね。ソリテちゃん」

 「ギャー―――――」


 私は突然、人間の声が聞こえて思わず悲鳴を上げて姿を消した。ヴァロテンヌはサージュオークを退治した後、1人魔獣の世界に残り、近くの木に登って私が姿を見せるのをずっと待っていたのである。


 「驚かせてごめんねソリテちゃん」

 『なんで私の名前を知っているの?』

 
 私は状況を全く飲み込めていない。


 「私はギルドマスターのヴァロテンヌよ。あなたとサージュオークの戦いはスコープで拝見していたわ」

 『え!私の戦いは見られていたの!それじゃぁ・・・ギフトの事も』


 ギルドマスターであるヴァロテンヌの事は私は知っている。


 「あなたが昔から他人と接することを拒み、気配を消して隠れて生活をしていることは知っていたわ。でも、神様からギフトを授かっているなんて想像もしなかった」


 『やっぱりバレてしまったわ。これで私の人生は本当に終わるのね。ヴァロテンヌさんは、すぐに王国騎士団に通報して、私は死刑になってしまうのね』


 私の目の前は真っ暗になり絶望を受け入れた。


 「ソリテちゃん、でも、安心してね。私はあなたの秘密を誰にも言うつもりはないわ。それは、ギルド職員にもよ」

 『え・・・どういうことなの』


 私の真っ暗な絶望に一筋の光が差し込んできた。


 「王国騎士団は逃亡したと勘違いしてあなたを指名手配したわ。でも、たかが孤児1人を必死に探すなんて無駄な事はしないわ。王国騎士団は、誰かが偶然あなたを見つけて通報するのを待つだけよ。でも、油断は禁物よ。あなたを見つけて通報すれば賞金が手に入る。賞金欲しさに通報する者は多いわ」

 孤児院から逃亡して逃げ切れる者はいない。それは、だれも助けてくれないし、通報すれば賞金がもらえるからである。だから、私に明るい未来などはない。


 「ソリテちゃん、私と取引をしないかしら?」

 『取引?』

 「あなたは追われる身でありながら、パステックの町に残り、サミュエル君達と一緒に冒険者を目指しているようね。おそらくあなたの寝床は孤児院にある倉庫ね」

 『バレてしまったわ』

 「住み慣れた孤児院の倉庫を寝床にして、どこからか食べ物を見つけ出し、それで飢えを凌いでいたのね。そして、サミュエル君達が魔獣の世界へ行くことを知り、一緒に魔獣の世界に入って、ラパンでも狩りに来たのでしょう。でも、あなたのそのストーカーのような行動がサミュエル君の命を救ったようね」

 『違う・・・私は自分の食欲を満たすためにストーカーをしていただけ。私はサミュエル君達のピンチの時に一目散に逃げた卑怯者なの』

 「あなたの勇気あるその行動とギフトの力のおかげでサミュエル君は救われた」


 『・・・サミュエル君が救われた???』


 最初は気づかなかったが、二度目の言葉で重要な事に私は気づいた。サミュエル君は死んではいない生きていた。


 『良かった・・・』


 私は嬉しくて嬉しくて嬉しくて涙が溢れ出る。


 「しかし、あなたの実力は最低だったわ。魔銃の腕も悪いし判断力も遅い、状況把握も出来ていないし、ギフトに頼り過ぎて全くのダメダメよ」

 『ガー―ーン』


 感傷にふけっていた私だが、ヴァロテンヌのダメ出しで涙が止まった。


 「そこで取引なのよ。あなたの衣食住は保障するし、ダメダメの技術も特訓してあげる。その代わり私の専属冒険者になってほしいの」


 『食事の保障をしてくれるのぉーーー』


 着る物、住む場所なんてどうでも良い。でも美味しい物は食べたい。


 「もし取引に応じてくれるなら、何かアクションをして。でも、嫌なら無理強いはしないし、あなたの事を誰にも話すこともしないわ。だって、私は王国騎士団が大嫌いだからね」


 私の姿は見えていないが、ヴァロテンヌは眩い笑顔で微笑みかけた。


 『ヴァロテンヌさんの専属冒険者・・・何をさせられるのだろうか?』


 私は決して悪い条件ではないと思ったが、何をさせられるか不安ですぐに返答は出来なかった。
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