上 下
29 / 47

極秘の依頼

しおりを挟む

 ここはギルドの会議室。


 「極秘依頼の報告が届いたわ」

 
 神妙な面持ちで話し出したのはギルドマスターのヴァロテンヌである。


 ※ ヴァロテンヌ・バイカウント(子爵)・アリストロメリア 35歳 元王国騎士団のコメット(軍団長)。銀髪のベリーショート、瞳は金色、小柄で童顔の女性。


 「マスター、災害魔獣の危険性はあったのでしょうか?もし、少しでも危険性があるのでしたら即刻食用魔獣の常夜の大樹は閉鎖すべきです」

 「発見された魔道香炉は、魔獣をおびき寄せる為の物だけど、災害魔獣をおびき寄せる可能性は0とはいえないわ。少しでも安全を確保するなら常夜の大樹を閉鎖して、なぜ北のエリアに魔道香炉がばら撒かれたのか調べる必要があるわ。でも、私の一存では閉鎖は出来ない事はクロエも知っているわね。災害魔獣が目撃されれば閉鎖することはできるけど、今の状況では、王国騎士団の許可が降りない限り閉鎖は出来ないわ」

 「でも、冒険者の危険を守るのが私たちの仕事でもあります。災害魔獣が現れる危険性があるならば、すぐに王国騎士団に連絡して閉鎖をすべきです」

 「もちろんすぐに連絡はしたわ。でも、閉鎖は出来ないと言われたのよ」

 「そうですか・・・」


 クロエは悔しそうに俯いた。


 「それなら、地図の注意書きに災害魔獣の発生の危険があると記載しましょう」

 「北エリア15㎞以上の立ち入り禁止の注意書きが限界なのよ。これ以上不確定な注意書きはしてはいけないと王国騎士団から言われているの」

 
 ※魔獣の世界の地図を作成するのは王国騎士団であるが、地図の更新はギルドの仕事である。しかし、更新するには規定があり、自由に地図の更新が出来るわけではない。


 「間違っている。こんな重要な事を記載出来ないなんて・・・」


 クロエは悔しくて涙を浮かべている。


 「悔しい気持ちは私も同じよ。でもねクロエ、聡明な冒険者なら、この注意事項を読めば、災害魔獣が現れる危険を察知できるはずよ・・・いえ、キツイ言い方になるけど、察知できないようなら、冒険者として失格よ」

 「わかっています。でも・・・納得はできません」

 「クロエ聞いて、今回の事件は何かおかしな点があるのよ。私はもっと精査して、魔道香炉がばら撒かれた目的を調べるつもりよ。それに、もしもの為に備えて、食用魔獣の常夜の大樹のサブギルドにユルティム(治癒魔道具)を用意するわ」


 ※ユルティムとは四肢の欠損さえ治す事ができる魔道具。レアの母親が発明した魔道具である。国が独占しているので田舎町にある代物ではないが、元王国騎士団のコメットであるヴァロテンヌだから持っていたのである。


 「マスター・・・そのような貴重な物を用意して下さっていたのですね。それなのに私は、偉そうな口だけたたいて、何もしていません。生意気な事を言って申し訳ありません」

 「クロエ、謝ることなんてないわよ。あなたはいつも冒険者の事を親身になって考えている。その姿勢はとても大事な事よ。だから、思ったことは何でも言っていいのよ」

 「はい。マスター」


 クロエは何も出来ない自分を不甲斐無いと思っているが、ヴァロテンヌの言葉に救われた。


 「マスター、魔道香炉を持ち込んだ犯人は特定できたのでしょうか?」


 ギルド職員のサーハ(25歳 女性)が尋ねる。


 「今回の捜査の結果、新たにいくつかの魔道香炉が発見されたわ。前回発見された場所は禁止エリアギリギリの森林エリア。今回は特別許可を出し禁止エリア1㎞圏内の森林エリアを探索したら発見されたのよ。魔道香炉はかなり高額で入手経路はすぐに特定できると思ったけど、ルーセン商会に問い合わせたところ、ここ数年パステックの町や周辺の町でも購入者はいなかったわ。そもそも魔道香炉を買うのは王国騎士団か高ランク冒険者なのよ。ノルマルしかいないこの町には在庫すら置いていないわ」

 
 「犯人の特定は出来なかったのですね」

 「そうね。でも、このことから推測できることもあるわ。犯人はこの町の冒険者で、魔道香炉を極秘で入手できる者ということね」

 「マスター、魔道香炉を譲り受けた可能性もあると思います」

 「その可能性は低いわ。そんな簡単に入手できる代物ではないのよ」

 「犯人の目的は何なのでしょうか」

 「魔道香炉は王国騎士団が、魔獣の生態系を調べるために利用したり、高ランク冒険者が魔獣を一掃するのに使う物なのよ。低ランクの魔獣の世界で使う理由はわからないわ」

 「それが先ほど言っていたおかしな点ってことでしょうか?」

 「そうよ。だからもっと調べる必要があるのよ」



 ギルド内で不穏な話をしていた頃、私はやっと孤児院に戻ってくることが出来た。


 『走って帰るには少し遠かったわ。でも、いいトレーニングになったわね。さてと、食糧保管庫に行こうかしら』


 私は食料保管庫に向かうことにした。


 『うまく捌けなかったけど、味には問題はないわ。これで少しは孤児院に貢献できたかな』


 ラパンの肉は1体で30人前。1人で食べるなら10日間飢えを凌ぐことができる。そして、魔獣の肉は動物の肉よりも日持ちして保管に最適である。なので、独り占めしたいところだけど、私のせいで孤児院に迷惑をかけているので、半分は寄付することにした。寄付することにより私の罪悪感は薄れていき、代わりに達成感が込み上げてきた。



 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜だけど転移先の異世界で【ジョブ設定スキル】を駆使して世界滅亡の危機に立ち向かう ~【最強ハーレム】を築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 俺は社畜だ。  ふと気が付くと見知らぬ場所に立っていた。  諸々の情報を整理するに、ここはどうやら異世界のようである。  『ジョブ設定』や『ミッション』という概念があるあたり、俺がかつてやり込んだ『ソード&マジック・クロニクル』というVRMMOに酷似したシステムを持つ異世界のようだ。  俺に初期スキルとして与えられた『ジョブ設定』は、相当に便利そうだ。  このスキルを使えば可愛い女の子たちを強化することができる。  俺だけの最強ハーレムパーティを築くことも夢ではない。  え?  ああ、『ミッション』の件?  何か『30年後の世界滅亡を回避せよ』とか書いてあるな。  まだまだ先のことだし、実感が湧かない。  ハーレム作戦のついでに、ほどほどに取り組んでいくよ。  ……むっ!?  あれは……。  馬車がゴブリンの群れに追われている。  さっそく助けてやることにしよう。  美少女が乗っている気配も感じるしな!  俺を止めようとしてもムダだぜ?  最強ハーレムを築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!  ※主人公陣営に死者や離反者は出ません。  ※主人公の精神的挫折はありません。

転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢
ファンタジー
 数々の発明品を世に生み出し、現代日本で大往生を迎えた主人公は神の計らいで地球とは違う異世界での第二の人生を送る事になった。  しかし、その世界は現代日本では有り得ない位文明が発達しておらず、また凶悪な魔物や犯罪者が蔓延る危険な世界であった。  そんな場所に転生した主人公はあまりの不便さに嘆き悲しみ、自らの蓄えてきた知識をどうにかこの世界でも生かせないかと孤軍奮闘する。  これは現代日本から転生した発明家の異世界改革物語である。

聖なる言霊を小言と馬鹿にされ婚約破棄されましたが、普段通りに仕事していたら辺境伯様に溺愛されています

青空あかな
恋愛
 男爵令嬢のポーラは、詩を詠うことで願った現象を起こす【言霊】という珍しいスキルを持っていた。 スキルを活かし、家の離れで人々の悩みを解決する”言霊館”というお店を開いて、家計を助ける毎日を送る。  そんなポーラは婚約者と義妹たちにも【言霊】スキルで平穏な日々を願っていたが、ある日「小言が多い」と婚約破棄され、家を追い出されてしまう。  ポーラと同じ言葉のスキルを持つ義妹に店を奪われ、挙句の果てには、辺境伯のメイドに勝手に募集に出されていた。  “寡黙の辺境伯”という、誰とも話さず、何を考えているのかわからないと恐怖される辺境伯の屋敷に……。  ポーラは恐れながら屋敷へ行くも、【言霊】スキルの特別な力を示し、無事メイドとして勤めることになる。  屋敷で暮らすようになってから、フェンリルの病気を癒したり、街の火事を静めたり、枯れそうな古代樹を救ったり……ポーラは【言霊】スキルで屋敷の問題を次々と解決する。  日々、他人のため、そして辺境伯のために頑張るポーラを、“寡黙の辺境伯”は静かに溺愛し始める。  一方、義妹たちの毎日は、ポーラを追い出してから少しずつ暗い影が差す。  お店をポーラから奪うも、最初のお客さんである少女の大切な花を枯らして泣かす始末。  義妹のスキルは他人を不幸にするスキルだった。  ついには王様の持病をも悪化させ、瀕死の状態にさせてしまう。 ※HOTランキング2位、ありがとうございます!

黒竜の番様~前世最強のあやかしは最弱毛玉に生まれかわったが、最強黒竜の娘に溺愛される~

IROHANI
ファンタジー
最強の妖怪として名を轟かせていたはずなのに、気づけば変な毛玉生物になっていたなんて認めたくない!知らない部屋で目を覚まし、そして俺の前にはひとりの幼女が立ちふさがった。三秒で屈した最弱生物は最強生物に番(ペット?)として目をつけられてしまう。かつての部下、そしてかつての因縁?果たして彼はこの世界で生き残れるのだろうか……。 ※ゆるゆるご都合主義な異世界ファンタジーが舞台となっております。

強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!

悠月 風華
ファンタジー
〖神の意思〗により選ばれた聖女、ルミエール・オプスキュリテは 婚約者であったデルソーレ王国第一王子、クシオンに 『真実の愛に目覚めたから』と言われ、 強引に婚約破棄&国外追放を命じられる。 大切な母の形見を売り払い、6年間散々虐げておいて、 幸せになれるとは思うなよ……? *ゆるゆるの設定なので、どこか辻褄が 合わないところがあると思います。 ✣ノベルアップ+にて投稿しているオリジナル小説です。 ✣表紙は柚唄ソラ様のpixivよりお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/90902111

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

極上の彼女と最愛の彼 Vol.2~Special episode~

葉月 まい
恋愛
『極上の彼女と最愛の彼』 ハッピーエンドのちょっと先😊 結ばれた瞳子と大河 そしてアートプラネッツのメンバーのその後… •• ⊰❉⊱……登場人物……⊰❉⊱•• 冴島(間宮) 瞳子(26歳)… 「オフィス フォーシーズンズ」イベントMC 冴島 大河(30歳)… デジタルコンテンツ制作会社 「アートプラネッツ」代表取締役

処理中です...