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 身を隠し続けた代償

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 パステックの町に現れたのは20名規模の王国騎士団の分隊である。この分隊の隊長は銀色の鎧の背中に赤い星が1つあるので階級としてはシエル(小隊長)である。


※鎧の背中の星の数が増えるほど階級が高くなる。ちなみに分隊長の場合はサンク・エトワル【5つ星】に該当しないので星はない。

 立派な騎馬に乗った重装備の騎士が5名、軽装備の従騎士14名が荷馬車を率いてパステックに到着した。


 「皆の者待たせたな!長時間隊列を崩さずに到着を待っていたこと誠にあっぱれである」


 青鹿毛の立派な毛並みの騎馬に乗っていたアデラール・シエル(小隊長)・ランベールが孤児に声をかける。


 ※ アデラール・シエル・ランベール (30歳 男性) 身長185㎝ 体重100㎏ 坊主頭のいかつい顔のゴリラのような風貌。

 ※ミドルネームはその人物の地位や役職をあらわす。なので、役職などが変わるとミドルネームも変更される。


 王国騎士団が遅れてくるのは慣習のようなものであり、待つこと自体が従騎士見習いとしての訓練である。


 「アデラール・シエル様、今年は15名の従騎士見習いをご用意しました。王国の今後の発展のため全力を尽くすことを誓っております」


 孤児院の院長が跪き返答する。


 「ガハハハ。そんな気負わなくていいぞ。俺は孤児であろうが貴族であろうが気にしない。俺の小隊に入ったからには楽しく従騎士として育ててやるぞ」

 「ありがたいお言葉感謝します」

 
 孤児たちも全員アデラール・シエルに跪き頭を下げる。


 「きちんと教育が行届いていることは良い事だ。だが、おれはそんなことは気にしないから、みんな頭を上げて楽にしろ」


 孤児たちは立ち上がりアデラール・シエルの言葉に従う。

 私はもっと怖い騎士が来るのではないかと不安もあったが、見た目は怖そうだがおおらかで優しそうなアデラール・シエルに好印象を抱いていた。


 『勇気をだして姿を見せないと・・・』


 人見知りで対人恐怖症の私だが、騎士団としてやっていくには、いつまでも姿を隠したままだと騎士団に入隊などできない。私は勇気を振り絞って姿を見せることにした。


 「最初に皆に言っておきたいことがある。この孤児院から1名の脱走者が出たと聞いている。本来なら俺の小隊に入隊する予定だった人物だ。たしか・・・名前は・・・」

 「アデラール・シエル様、ソリテです」

 「そうだ。ソリテという女だ。コイツは国や町の支援で衣食住の提供を受けておきながら、王国騎士団に入隊するのが嫌で逃げたらしい。孤児院からの脱走は国王陛下への裏切りだ。もし、ソリテという女を見かけたら俺に知らせろ。即刻死刑にしてやる」

 
 『ああああああああ!』


 私は地面にしゃがみ込み嗚咽を発する。自分は逃げていないし国の為に命を捧げる覚悟もしていた。

 
 「わかりました」


 孤児たちは大声で返事をする。


 「少し話がずれたが、今から名前を呼ぶから、呼ばれた者から随時荷馬車に乗れ。お前たちは、これから俺の小隊に合流し先輩従騎士と共に訓練をしてやる」


※この世界では小隊は30~200名、分隊は小隊を分割し20人前後、中隊は200~500人前後であり2つ以上の小隊からなる。大隊は500~1000人前後 で2つ以上の小隊からなる。軍隊は1000人~5000人前後で2つ以上の大隊からなる。


 「はい!わかりました」


 孤児たちは大声で返事をする。

 次々と名前が呼ばれて、孤児から正式に従騎士見習いとなり荷馬車に乗り込んでいく。そんな中私は地面にしゃがみ込みガクガクと体を震わせていた。


 「院長、ソリテの行方は本当にわからないのか?」

 「はい。何年も町中を捜索しましたがどこにも見つかりませんでした。近隣の町にも手配書を出しているのですか、見かけた者はいません」

 「そうか・・・毎年数名の脱走者がでるのだが、完全に逃げ切った孤児などいない。逃げている途中に盗賊に誘拐もしくは殺された可能性が高いようだな。まぁ、自業自得だろう」

 「はい。私達もそう考えています」

 「院長、脱走者を出したことの意味は理解しているよな」

 「はい。今年は国からの補助金が無くなるということですね」

 「そうだ。1人の罪は全員で償うのが国王陛下のお考えだ。カシャロット・コンステレ様を輩出した功績で今回の件をチャラに出来なくもないが、それではカシャロット・コンステレ様の名を汚すことになる」

 「わかっています。今年は食事の量を減らすなどをして対策していくつもりです」

 「そうか。今年も良い目をした人物がいるし、この町には期待しているぞ」

 「はい。期待に応えるために日々精進していきます」

 
 ※孤児院から脱走者が出ても、王国騎士団の入隊までに連れ戻すことができればおとがめはない。それは、死体であっても構わない。ソリテの場合は盗賊に誘拐もしくは殺された可能性なので、誘拐、殺されたことを立証できれば問題ないのだが、立証できないので罰を受ける事になった。


 アデラール・シエルは院長と話を終えると騎馬に乗り去っていく。私は二人のやりとりを真横で聞いていたので、さらに心が深く傷つけられる思いであった。


 『わたしのせいでみんなに迷惑がかかってしまう・・・姿を見せて謝らないと・・・』


 と心の中で正義感をみせるのだが、実際は捕まってしまうのが怖いので姿を見せることなんて出来ずに、地面に這いつくばって涙を流し続けていた。
 

 「院長先生、今年はどうのようにして孤児院を経営していくつもりですか」


 パステックの町の領主アイゼンバーグ・バロン(男爵)・ロベールは、今年の孤児院の経営について不安を抱いている。


 「正直に言いますと、国からの補助金がなければ生活はかなり困窮するでしょう。しかし、逃げ出したソリテを恨むつもりはありません。私たちの指導方法に不備がありソリテに不安を与えてしまい逃げ出したに違いありません。1年だけですのでカシャロット・コンステレ様がコンステレ(大隊長)に昇格した時の臨時給金が残っていますので、それを使いながら、最低限の食事を提供していきたいと思います」

 「そうか。田舎町では助け合いが大事だから、町民たちにも援助をするように通達は出しておく。今年一年無事に乗り切ろう」

 「はい」


 私が姿を見せずに逃げてしまったせいで孤児院のみんなや町の人たちに迷惑をかける結果になってしまった。しかし、私は捕まって死刑になるのが怖くて【無】のギフトを使って姿を隠し続けたのであった。


 『ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい』


 私は心の中で何度も何度も呟いた。






 



 

 
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