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内面の成長

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 俺が通う学校は松井山手駅から電車に乗り四条畷(しじょうなわて)駅で降り、徒歩で20分の所にある、通学時間は約1時間となる。自転車で通える学校に行けばよかったのだが、俺の事を誰も知らない高校に行きたかったので、俺は四条畷にある磯川高校に通う事になる。磯川高校は偏差値も低く俺の学力でも入学できる数少ない公立の高校だったこともこの学校を選んだ理由でもある。
 今考えると、通学にお金がかかる高校を選んだ俺は自分勝手な浅はかな高校選びだったと後悔している。松井山手駅の駐輪場代、四条畷駅までの電車代。もし、自転車通学ができる高校なら、この通学費はかからないのである。昔の俺は何も見えていなかった。母親がどんなに苦労してお金を稼いでいたか。しかも、俺は将来ニートになるのに。母親は俺が一般的な社会人になる事を願っていた。それは、俺も理解していた。だからこそ、高校を卒業して就職した。会社をクビになっても、フリーターとして働き、母親に迷惑をかけないように働いた。しかし、あの女性社員とのトラブルで俺は社会から逃げ出した。

 「俺はやり直すんだ」

 俺は高校生活の3年間の記憶はほとんどない。友達も1人もいなかったし、休み時間は教室でずっと本を読んでいた。誰とも会話をすることなく3年間過ごしてきた。文化祭、体育祭、球技大会、修学旅行などのイベントは全て休んだ。俺が高校生活の記憶がないのは、何もしていないから記憶が存在していないのである。クラスメイトからも居ない者だと認識されていたので、いじめられる事もなく空気のような存在で過ごせた事はある意味幸せだったかもしれない。
 しかし、二度目の人生は違う。人生を謳歌するためにも高校生活は重大なイベントである。たった3年間しかない高校生活は人生の中で特別な瞬間であり二度と味わう事のない青春といわれる期間である。この貴重な3年間をどう過ごすかによって今後の人生の糧となるのは間違いない。俺は今回こそ青春と呼ばれる日々を存分に楽しむと決意した。

 俺が通っていた磯川高校の制服は学ランであった。あの時代はブレザーを採用する学校が増えてきてたので、学ランに憧れる男性は多かった。上は短ラン、下はボンタンを着るのが男子高校生のファッションであった。短ランとは着丈65㎝以下の学生服でボンタンとはワタリが太く膝から裾幅が極端に細いズボンで、大工さんのニッカズボンによく似たシルエットである。某不良漫画の映画の影響を受けて不良じゃなくても陽キャはみんなこの変形の学ランを着用していた。
 入学式で変形の学ランを着用すると、先輩や不良の同級生に目をつけられるので、俺は規定の学ランを着用していたので目をつけられることなく学生生活をおくる事ができた。
 しかし、今の時代は学ランは減りブレザーがメインである。俺が通う磯川高校も学ランではなくオシャレなブレザーになっていた。ネイビー色で金ボタンのジャケットと黒に近い濃紺色に水色のチェックが入ったスラックスだ。身長が急激に伸びたので、業者に頼んでサイズの変更をした。身長のレベルを3で止めておく理由には、これ以上身長を伸ばす事は物理的経済的に好ましくはない。普段の生活でも180㎝を越えると不便になる。とりあえず1年間は身長のレベルを3で止めておく。

 「昴、早く朝ご飯を食べないと遅れるわよ」
 「わかったよ」

 俺は慌てて階段を降りる。

 「昴も今日から高校生ね。背も高くなったし顔つきも良くなったわ。春休みでだいぶ変わったわね」

 俺は別人と言っていいほど変わっている。しかし、母親などの認識としては成長した程度にしか思えないのである。これは、神様からの配慮であると俺は考えている。

 「そうかな?特に何も変わった感じはしないよ」

 俺は自分の能力は誰にも話していなし話す事は出来ない。もし、話したところで誰も信用することもないだろう。

 「変わったわ。中学生の頃に比べたらお母さんと会話をしてくれるし、なによりも前向きな性格になったわ」

 母親は嬉しそうに微笑んでいた。俺の外見が変わったことよりも内面が変わったことが嬉しいのである。転生する前の俺は、おそらく、内向的で無口であったに違いない。母親の存在も疎ましく思っていて、会話すらろくに交わしていなかっただろう。それは、反抗期だからという理由もあっただろう。しかし、自分自身に自信がなく、誰かに干渉されるのが嫌だったという理由もあった。転生前の俺は「がんばればできる」「あなたなら大丈夫」そのような言葉を聞くのが嫌だった。もちろん、母親は俺の事を心配してそのように励ましていた。でも、俺が欲しかったのは言葉でなく結果である。がんばったぶんの見返りがほしかった。
 しかし、転生してきた俺は違う。レベルを上げてがんばれば結果が出るのである。いきなり自信に満ち溢れた人間には成れないが、少しづつだが前向きな考えで生きることが出来るようになっている。だからこそ、母親ともきちんと会話をして良好な家族関係をきづけている。そんな俺の内面的な成長が母親は嬉しかったのであった。
 

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