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真相

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 「昴、まだ寝ているの?今日はゴミ拾いに行かないの?」

 一階から母親の声が聞こえてくる。俺は既に起きてはいるがゴミ拾いに行くか躊躇しているのである。結局、三日月さんからココアの返信はこなかった。メールの内容からして返信がなくても問題はないと思うのだが、一言でもいいから返信が欲しかった。俺は返信が来ないことにより、三日月さんに嫌われたのではないかという不安が加速して、三日月さんと会うかもしれない松井山手駅でのゴミ拾いに躊躇しているのであった。

 「ダメだ!こんなことで落ち込んでいたら、前の人生と同じじゃないか。俺は二度目の人生こそ頑張ると決めたんだ」

 俺は両手で顔を叩いて自分自身にカツを入れる。ココアの返信はなかったが
メールはすぐに見てくれている。もし、嫌われていたらメールも見ないで放置しているに違いない・・・と俺は自分の言い聞かせて布団から出る事にした。

 「お母さん、今日もゴミ拾いに行ってくるよ!入学式までは頑張るつもりだよ」
 「それがいいわ。何事も続ける事が大事だからね。短い期間でも自分がやろうとしたことを成し遂げた達成感は昴の力になるはずよ。今日もゴミ拾いをがんばってね」
 「うん。がんばるよ」

 母親の言う通りである。どんなことをするにでも嫌な事はついて回るものである。嫌な事があるからといってすぐに逃げ出すようでは何も得る事は出来ない。俺は玄関の扉を開けて松井山手駅に向かった
 松井山手駅に着くといつものようにゴミ拾いを始める。三日月さんが姿を見せるのは毎回9時30分頃である。もうすぐ、時計の針がその時刻を告げようとしていた。

 「おはよう!昴君」
 
 背後から心地よい優しい声が聞こえた。

 「お・・・お・・・おはようございます」

 俺はダンサーのように華麗にくるっと振り返り、地面に頭が付くほどのお辞儀をし大声で挨拶をした。

 「げ・・・んきだね・・・」

 俺が頭をあげると見知らぬ女性が目を見開いて驚いていた。

 「だ・・・れ・・・でしょうか?」

 俺は顔を真っ赤にして再び地面に顔が付くほど頭を下げて目線を外す。
 この女性は誰なんだ?挨拶は俺じゃなく違う人にしていたのか?俺は脳内であれやこれやと考えるが答えは出てこない。

 「いきなり挨拶をしてごめんね。私は南(みなみ)といいます。三日月の同僚であり友人よ。昨日はシュークリームありがとうね」
 「・・・」

 俺の思考回路は停止しているので、すぐに状況を飲み込むことは出来ずに、頭を下げたまま固まっている。

 「昴君!昴君!」
 「・・・」

 南さんは何度も俺の名を呼ぶが、俺は顔を上げる事はできない。俺の思考は動き出しているが、恥ずかしくて顔も声も上げる事が出来ない。

 「光が言ってたとおりの恥ずかしがり屋さんなんだね。あ!光は三日月の名前よ。光から声をかけちゃダメと言われてだけど、急に光が店が変わったから、もしかして、昴君に言ってないかと思って声をかけたのよ」

 「え!・・・三日月さん・・・店を・・・やめたの・・・・・・ですか」

 三日月さんが店を変えた?俺と会いたくないから美容院を辞めてしまったのか?俺の心が疑心暗鬼に支配される。

 「違うよ。別の店舗に移動しただけよ」
 「僕が・・・僕が・・・迷惑を・・・かけたのか・・・な」
 「全然違うよ。光は昴君のがんばる姿を見て、一流のスタイリストに戻る為に京都駅の店舗に移ったのよ」
 「京都・・・駅の・・・店舗」
 「やっぱり光は何も言ってなかったのね・・・。あの子は一つの事に夢中になったら他が見えなくなるの。だから昴君を嫌いになったわけじゃないのよ。私が電話をしても取ってくれないのよねぇ~。そのうち連絡がくると思うから、昴君が心配していると言っておくわ」
 「は・・・い」
 「さっきの元気のいい返事はどこへいったの?光に比べたら私は美人じゃないから元気が出ないのかな?」
 「そ・・・ん・・・な・・・ことはありません」
 「冗談よ!ゴミ拾い頑張ってね」
 「は・・・い」

 三日月さんは、松井山手駅の店舗から京都駅の店舗に移動した。くわしい事情はわからないのだが、南さんの話しでは一流のスタイリストに戻る為らしい。昨日、三日月さんと話した内容の「もう一度スタイリストとしてやっていく勇気をもらった」という言葉に関連しているのであろう。あの時、三日月さんは「今度、話すわ」と言ってくれた。俺は三日月さんの言葉を信じて、話してくれるまで待つことにした。
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