3 / 100
夢?
しおりを挟む「ここは俺の部屋だ」
目を開けると俺は自宅の部屋に居た。しかし、それは俺が中学3年生の時の部屋ではない。俺が階段から足を踏み外して死んでしまった50歳の時の部屋であった。
「あれは夢だったのか?俺は死んではいなかったのか・・・」
俺は死んでいなかった事にホッとしたのではなく、死んでなくてガッカリしていた。死にたいとは一度も思ったことはない。それは、死んでしまったらどうなるかわからないからであり、生に執着しているわけではない。だから、階段を踏み外して死んでしまったことに後悔はなく、素直に死を受け入れる事が出来た。
「人生をやり直せる・・・俺らしい夢だったなぁ」
俺は夢で見た出来事が本当であればよかったと思っている。20年も引きこもっている俺に今から人生をやり直す事は不可能だ。しかし、16歳からやり直せるなら、頑張ってみる価値はあると思った。しかし、そんなアニメやドラマのような出来事など起きるわけがない。
「いつものように録画していたアニメでも見るか」
俺はテレビのリモコンを手に取り、なにげなくテレビの画面をみる。すると、真っ暗なテレビの画面に映った俺の顔に異変を感じた。
「え!髪の毛がふさふさだぁ~~」
俺は思わず大声を上げた。
「昴!何を大声を出しているの!近所迷惑よ」
一階にいる母親の声が俺の部屋まで聞こえてきた。
「ごめん。何でもないよ」
「そうなの。それよりも中学を卒業したからと言っていつまで寝ているの?高校生活に向けて、規則正しく生活をするのよ」
「・・・わかった」
俺は母親の言葉に衝撃を受けた。
「鏡だ。まずは鏡を見よう」
俺は部屋にある全身を映せるスタンドミラーで自分の姿を確認した。
「間違いない。俺は若返っている・・・」
スタンドミラーに映し出された姿は紛れもなく中学を卒業した頃の俺の姿であった。俺は自分の姿を確認すると次はカレンダーを見た。
「西暦は・・・」
俺がカレンダーを見たのは日付をみたいわけではない。西暦を確認したかったのである。もし、中学を卒業した頃に戻っているなら西暦は1989年である。
「2023年だと・・・過去に戻ったわけじゃないのか?」
俺は神様の言ったある言葉を思い出した。
『あなたが生きていた世界に戻すことは出来ません。そのかわりに、あなたが生きていた世界のパラレルワールドに連れて行くことになります。その世界では、あなたが生きてきた世界とはそっくりなのですが、あなたが生きてきた人生とは全く別の人生を歩むことになるでしょう』
「ここは俺が住んでいた世界とは別の世界って事になるのか・・・でも、どのように違うのだ?俺の親はどうなっている?」
俺は部屋の扉を開け階段をゆっくりと降りる。
「この急な階段、俺の家に間違いない」
俺は階段を踏み外して死ぬわけにはいかないので慎重に降りた。
階段を降りるとすぐにトイレの扉があり、右にはダイニングキッチンがあり、左に進むと玄関と親父の部屋がある。俺は母親がいるダイニングキッチンに足を運ぶ。
「お母さん」
「やっと、降りて来たのね。朝ご飯は出来ているわよ」
母は笑顔で俺を見た。
「若い・・・」
俺は思わずつぶやいた。
「何を言っているのよ昴。お母さんをからかわないで」
母は嬉しそうに笑った。
「ごめん」
俺は母に謝るとすぐに部屋に戻る。
「朝ご飯は食べないの?」
「後で食べるよ」
母は75歳で顔にはたくさんのしわがあり小柄のぽっちゃりとした女性だったはず。しかし、ダイニングキッチンに居た母は、肌も綺麗で体系もスマートでありとても75歳の女性ではなかった。
「あれは若い時のおかんだ。俺が今年で16歳になるなら、おかんは41歳になるはず。間違いない、俺だけじゃなく家族も若返っている」
俺はテレビを付けてみた。テレビに映し出されたのは、俺の知っている有名人たちだった。他の番組も確認したが俺が50歳の時と全く同じであった。
「あれこれ考えるのは辞めよう・・・。俺が16歳に生まれ変わったのは事実みたいだ。周りのことなんて気にせずに、せっかくもらったセカンドチャンスを大事にしよう」
今俺が居る世界がどのような世界であろうと関係ない。俺は神様が与えてくれた二度目の人生を一生懸命に生きていくと誓った。
「その心意気にゃーー」
可愛らしい猫の声が聞こえたので、俺は声が聞こえてきた窓の方に目をやった。窓は大きく開かれていて、窓のふちにかわいい黒猫がちょこんと座っていた。
「今、人間の言葉を喋らなかったか?」
俺はさほど動揺はしていない。今日はいろんな出来事があり過ぎて、驚きの免疫が出来ていたようだ。
「昴にゃん!【get a second chance】おめでとうにゃー。今日から昴にゃんには第二の人生を謳歌して欲しいにゃー。でも、今のままでは、また同じような人生を歩むことになるにゃー」
「たしかにそうかもしれない・・・」
俺は二度目の人生を大事に生きて行くと決意をしたけど、黒猫の言葉に現実を突きつけられた。俺は30歳までは、俺なりに一生懸命に努力をして生きてきたつもりである。ぶさいくな容姿は変える事は出来ないが、オシャレな本を読み清潔感のある服を着て、高い金をかけて美容院で髪をカットしてもらった。スポーツもいろいろと挑戦した。テニススクールに通ったりジムに行ってトレーニングをしたり、人一倍の努力とまでも言えないが人並みの努力をした。
俺は高望みをしているわけでない。イケメンになりたいとか、スポーツでプロを目指したいとか大それたことを望んでいない。平均でよかった。イケメンのようなたくさんの女性から言い寄られるのでなく、俺の事を気持ち悪がらないで、普通の男として接してくれるだけでよかった。みんなと楽しくスポーツが出来ればよかった。しかし、オシャレをしても不細工は不細工のままであり、どんなに練習してもスポーツは上手くならなかった。
もう一度人生をやり直したとしても、また、同じ人生を繰り替えしてしまうと確信してしまった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺、貞操逆転世界へイケメン転生
やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。
勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。
――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。
――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。
これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。
########
この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~
やみのよからす
ファンタジー
病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。
時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。
べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。
月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ?
カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。
書き溜めは100話越えてます…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる