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ループ

186.哀れな国王の一人舞台と浅はかな宰相

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 愛し子達が会議室から後、宰相は失策に初めて気が付いた。

(今のは⋯⋯転移魔法か!!)


 王宮内で厳重な監視下に置かれた会議室内であれば何があっても拘束してしまえば済む。ナザエル神父達がいかに強かろうと王宮騎士団全員を相手にして勝てるわけがないと宰相は計算していた。

(どれほど強気でいてもここへ来たからには教会の負けが確定した⋯⋯最後には諦めて国王の望みを叶えるだろうと思っていたのに、まさか全員で転移してしまうとは)



 愛し子を逃してしまった国王は激怒し騎士団に捜索を指示した。

「この女を火炙りにしてしまえ! 我が国にジンを呼び込んだ魔女じゃ、簡単に死なすでないぞ!!
此奴の処刑により我が国に平和を齎したと国に広めよ! 余の偉業を讃え教会へその旨を伝えるのじゃ」



 騎士団はローザリアの居場所を見つけられず教会は無言を貫いた。王宮からの書簡へは丁寧な断りが綴られ、官僚の誰一人として面会を許されたものはいない。


 王弟妃ヨーランダは自慢だった長い髪を切られ公開処刑された。

「わたくしを火炙りにしても王家に加護は戻らない! 多くの子ども達の恨みでこの国は終わるのよ!!」

 ヨーランダの呪詛に怯えた貴族達は王家の夭逝した子供達のことを思い出し領地に引きこもるようになっていった。


 ヨーランダの処刑の後、王家と教会の関係回復を願い何度も面会を申し入れた宰相だが、教会入り口で立ち入りを禁じられてなす術なく王宮へと帰って行った。

「オーガスト枢機卿を連れて参れ! 彼奴は教会内を彷徨いておったのであろう!?」

「枢機卿に無理強いすれば愛し子様はますます頑なになられると思われます」

「人質にすればよいのよ。爺いを王宮前に磔にしてやれば愛し子は爺いを助けにやって来る。そこを捕まえてしまえばよいのじゃ」

「転移魔法で逃げられてしまえば2度と話し合いはできなくなるかと存じます」



「聖騎士のジャスパーを利用するのはいかがでしょうか? あの時おりましたジャスパーはメリスロード侯爵家の三男でございます。卿はジャスパーを大層可愛がっておると聞き及んでおりますれば、我が子大事と話を繋げてくれるのではございませんかな?」

 ルーパート法務大臣が国王に進言した。

「おお、ならばメリスロードに教会との橋渡しを申し付けよ。それが叶えば役職を与えてやると申せば尻尾を振るであろう」


 法務大臣が張り切ってメリスロード邸に赴いたが当主不在で追い返されたと言う。

「王命での出仕を命じましたが領地にて病で伏せっておられると家令が申しておりました」

「ならば、王宮精霊師を派遣してやれば良いではないか」

「教会から精霊師が来られて治療中の為不要だと」



 八方塞がりの王宮にトーマック公爵達が領地に逃げたと報告が上がった。

「おお、そうであった。愛し子が教会へ逃げ込んだ元凶を野放しにしておったではないか!! 彼奴らを平民に堕とし処刑するのだ!」

 領地で簡単に捕らえられた3人は王宮の地下牢に収監された。

「アレでも愛し子にとっては血の繋がった親と妹じゃ、何かに使えるやもしれん」

 元トーマック公爵一家が処刑されると公示されてもどこからも何の反応もなかった。敢えて言うなら社交界で『やっぱり』と話のネタになった程度⋯⋯。



「トーマック公爵達を断罪してやったのだ。これで少しは愛し子の機嫌も直ったであろう。セルゲイ、教会の様子はどうなっておる?」

 セルゲイ宰相は眉間の皺をますます深くして手元の書類を握りしめた。

(つく側を間違えた。パンのどちら側にバターがついているかなんて子供でもわかる事なのに⋯⋯あの会議室で教会へ阿るんだった)


「全く動きはありません。教会に潜ませていた密偵は全員身元がバレて追放処分、愛し子様に関する情報は噂話ひとつ拾えない状況です」

「この、役立たずめ! 宰相の地位に据えてやったのは何故か忘れたか!? 貴様の権謀術策の腕を見込んだ余の目が節穴だったとでも申すか!?」

(その通り⋯⋯教会の知恵者達に負け、万策尽き果てた。今更頭を下げて許しを乞うても遅いだろうし)



 国王が愚かな策ばかり練っている間も、王家の森の魔法陣は子供達の苦しみと恨みを集めていた。

「陛下、王家の森のお子達の埋葬の手配をいたしたいと存じますが、王墓に埋葬の手配をしてよろしいでしょうか?」

「は! あのようなものどうでも良いわ! そんな暇があるなら愛し子捕獲の策を練れ。その役に立たぬ頭を余の為に働かせるのじゃ!!」



 その日の夜、王家の森にローザリア達が現れた。

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