上 下
129 / 191
一回目 (過去)

129.名前は何?

しおりを挟む
 夜になる頃にはローザリアの元に何種類もの籠や袋が届けられていた。

「馬車の中で使って下さい」

「出歩く時に使ってもらえたら⋯⋯」

「すぐに大きくなられるかもしれませんし」

 しっかりとした籠の中には古着を使った敷物が敷かれ、肩から下げられる袋は子狼が苦しくないように底が広めのマチ付きになっている。



「せーじょさま、なまえきめた?」

 子狼の周りには子供達が集まりローザリアの手元を覗き込んでいた。

「悩んでるの。今はこんなにちっちゃいけど、うんと大きくなりそうだから」

「つよそーなのがいいよ」

「かわいいのがいい」


「えっと、フィードはどうかな?」

 風の精霊シルフィード⋯⋯子狼は寝ているだけで何の気配も感じられないが、ローザリアは『この子は風』だと感じていた。

「良い名前ですね」

「フィード、おなかすいてない? おみずのむ?」

「いつおきるの?」

「おめめはなにいろ?」

 子供達の興味は尽きることなく続いていった。




 翌日、ジェイク達の両親が揃って野営地にやって来た。

「決めたのか?」

「はい、王家の法を逃れる方法を教えて下さい」

「将来サラが王宮精霊師になりたいと言い出した時、立場が拙くなるかもしれん。それでもか?」

「はい、サラに怒られる覚悟を決めました。今はこれが最善だと思います」

「ジェイクはどうしますか? 公の書類には残していませんが、彼は既に神託の儀を受けていて強い地の加護を持っています」

 初めて聞いた両親が目を丸くした。

「ジェイクはそんなこと一言も⋯⋯なら、2人ともお願いします」



 ジャスパーにジェイクを呼びに行かせるとサラと手を繋いだジェイクが走ってやってきた。そのままサラの世話をするよう指示を出しジェイクだけを呼んで話をはじめた。

「ジェイクとサラは教会に対し請願を立ててもらいます。サラはまだ幼いので親が代理人となり、ジェイクは自ら請願を立てます」

「せいがんってなに?」

「将来聖職者になりますと言う誓いのことです」

 王家から逃れたいなら教会に所属しろと言うことかと思ったらしく両親が顔を顰めた。

「りょーかーい」

「ジェイク、そんな簡単に決めんな。これはものすごく大事なことなんだぞ!!」

「だってさぁ、おーけはなんもしてくれなかったろ? でもせーじょさまたちはきてくれた。なら、おれはせーじょさまたちをしんじる!」

 ジェイクの言葉には両親も賛同する気持ちがあるようで顔を見合わせて黙り込んだ。


「今回の場合は、王家に対しての抑止力の為だけに行います。
有機請願と言って期限が終わるまでに聖職者になるかならないかを決めるのです。王家の提示しているような生活の保証はありませんが、請願を立て修行をしている間の生活費や学費は教会が負担します」

「調査隊が帰って来るまでゆっくり考えてみりゃあいい。まだ時間はある」


「あの、教会は何故そんな事を? 聖職者にならないってなったら、かけた費用も時間も無駄になると思うんですが」

「加護を持つ者は全て王家が管理すると言うおふれが出され時、教会が王家に対抗する為に決めた苦肉の策です。
おふれをそのまま受け入れれば教会には加護を持つものがいなくなっていきます。精霊教会としては大問題ですから、神託の儀が教会しか行えないことを盾に請願を立てた者は教会に所属する。でなければこの国では神託の儀は行わないとしました。
神託の儀を行う前か直後であればそれが可能です」


「それでジェイクは加護の事は秘密にしてたのか」

「いや、わすれてた。だってさあ、ちのかごなんて、つかいみちなさそーじゃん」

「ジェイク⋯⋯あんたはもう」

 父親の拳骨がジェイクに落ちた。



「地の加護はすげえ強力だぞ。だからこそ知らないまま試したらとんでもないことになる」

 子供らしい仕草で首をキョトンと傾げたジェイクにナスタリア神父が説明した。

「例えば何も考えず火の加護を行使したら簡単に火事になり家も家財も燃えてなくなる可能性があります。水の加護なら洪水になって畑も家も流されてしまう」

「ちは? ちのかごなら、なにができるの?」

 ジェイクが目を輝かせて身を乗り出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

呪われ令嬢、王妃になる

八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」 「はい、承知しました」 「いいのか……?」 「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」 シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。 家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。 「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」 「──っ!?」 若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。 だがそんな国王にも何やら思惑があるようで── 自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか? 一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。 ★この作品の特徴★ 展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。 ※小説家になろう先行公開中 ※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開) ※アルファポリスにてホットランキングに載りました ※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう
恋愛
 聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。  数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。  周囲から最有力候補とみられていたらしい。  未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。  そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。  女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。  その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。  ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。  そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。 「残念だよ、ハーミア。  そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。  僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。  僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。  君は‥‥‥お払い箱だ」  平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。  聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。  そして、聖女は選ばれなかった.  ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。  魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...