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一回目 (過去)

124.ジェイクの村

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『こんなところまで息子を連れて来てくださってありがとうございます。2度と目を離しませんで』

 ジェイクの父親の過激な出迎えに感動した精霊師2人は首を横に振った。

『中々楽しい旅でした。ジェイクは元気一杯で』

『妹の為にどうしても水が欲しかったんだと言ってました』


 水不足は小さな子供と年寄りが最初に体調を崩す。ジェイクの妹も寝たり起きたりの生活になってしまった。

『にいちゃんの水ものめ!』

『あしたはきっとあめがふるからな』




『まさか王都に行ったなんて⋯⋯行きたがっていたのは知っとりましたが』

『話を聞けば聞くほど奇跡のようです。教会では精霊王のお導きだと大騒ぎでした』



 2人の精霊師はそれぞれ光と水の加護を持っている。ナザエル枢機卿のゴリ押しとナスタリア神父の策略でこの村に長期滞在する許可証を持ってやって来た。

『表向きはこの村のような教会の手が届かない場所の調査となっています』

『聖女様のような強力な力があるわけではありませんができる限りのことをしたいと思って来ました』


 国中が水不足で青息吐息の今、この村だけ特別扱いしたと知られれば大問題になる。

 ジェイク達が神託の儀を受けていない事を理由に調査・指導を行うべきだと名目をつければ精霊師を派遣できるとナスタリア神父が言い、ナザエル枢機卿が強引に許可を出した。

『我等の聖女様が来られるまで飲み水の確保くらいならなんとかできると思います』

 井戸を満たすことはできなかったが村で一番大きな樽に水を入れ配給制にした。病人には回復魔法や薬草を使い暇な時間は畑仕事を手伝ってローザリア達が来るのを待っていた。




「おー! すげえ!!」

「水だぁー!」

 井戸に水が満々と湛えられると村人の歓声が響き渡った。渇ききった畑に雨を降らすとポカンと口を開けて空を見上げる者がいる。泣き出す者と歓声を上げて走り回る子供の姿はローザリア達が最近見慣れた光景だった。


 村の広場に護衛達がテントを張っている間にローザリア達は村長宅で水源地について話を聞いた。

「小さな川が流れとったです。その上流に水源があるんでしょうが⋯⋯」

「では川を遡って調べてましょう。数日滞在させて頂いて宜しいでしょうか?」

「はい、大したことはできませんができる限りのことはさせて頂きますんで」


「テントを張る場所をお借りできたのでそれ以外は気になさらずに。他の町や村でもお伝えしたのですが、我々は食事の他一切の接待をお断りしています」

「しかしそれではわしらの気が⋯⋯ジェイクを助けて頂いて精霊師様を寄越していただいとりました。その上今日は水を出してもろうて何もせんと言うのは心苦しいです」

「では、それに関わる対価と同額をこの村に寄付してもらった。それで相殺したと考えてくれ。金はいくらあっても邪魔にはならんだろ?
今日の夜は広場で宴会をやる。村人総出で飯を食いに来てくれ」

「えっ? いや、何もせず食事までもろうては⋯⋯」

「気にするな、その費用は王家からもぎ取ってやるつもりだからな。ずっと我慢させられた分王家に奢ってもらえ」

 豪快なナザエル枢機卿の理屈を聞いて村長の顔に初めて本当の笑顔が現れた。

「そうですのう。恨み骨髄の王家の奢りなら腹が裂けるまで食わせてもらわんと」



 その夜は野菜の沢山入ったスープと焼いた肉を振る舞い、焚き火を囲んで夜更けまでジェイクの冒険譚で盛り上がった。

 これ以上叱られるのは嫌だと言って王都までどうやって辿り着いたか口にしなかったジェイクはいい酒の肴になっていた。

「だーかーらー、もうしねえってば!」

「いーや、お前は信用ならん。紐で縛っといた方がええ」

「にーちゃん、しばられちゃう~」



「ジェイク、こんどはおれもつれてけよ」

「バカタレ! お前も一緒に縛り上げるぞ!」


 陽気な馬鹿騒ぎの中でローザリアはある事に気付いていた。

「どうしましたか?」

 案の定ナスタリア神父が気付いて声をかけて来た。

「加護って血によって発現する確率が高くなるんですよね」

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