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一回目 (過去)

103.闇の魔石

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「加護なき者に不滅の業火を⋯⋯。永遠の暗闇に絶望を与えし崇高なる者達の贄となれ。悪しき者に栄えあれ。千年の時が終わる時、我が御代に闇が満ち溢れる」

「なんてこった。子供を贄にするだなんて信じられん!」


 蓋を開けると黒い魔石に埋もれた子供達が見えた。

「闇の魔石⋯⋯見たことがないほどデカいのもある。いったいどうやってこれだけの量を集めたのか」


「これは?」

 子供の首にかかっている細いネックレス。ペンダントトップには精巧な模様が彫り込まれていた。

「王家の紋章⋯⋯この子達は王家の子供達だ」

 王家では子供が生まれたことを祝い紋章の入ったペンダントを持たせる。ペンダントトップは必ず金の台座に紋章を刻む。

「これを持たせたままってのも意味があるのか? それとも記念かなんかか? どっちにしろ傲慢で反吐が出る」

「こんな場所に沈めれば誰にも見つからないと思ったのかもしれませんね。だから身元がわかる物を持たせたままでも構わないとか。もしくは王家の為の贄だと言う意味かもしれません」



 長櫃と子供の遺体をどうするかで意見が分かれた。

「ローザリア様のアイテムボックスにあんな紋章のついた長櫃を入れるなんてあり得ないです」

「でもよお、他に方法がないだろ?」

 ナスタリア神父は強硬に反対しナザエル枢機卿は持ち帰りを提案した。

 意見がまとまらず日が陰ってきた為多数決を取ることになったが、ローザリアは棄権しナザエル枢機卿の意見に賛成する者はいなかった。

「ナザエル枢機卿、ローザリア様に甘えすぎだと思います」

 ジャスパーの一言に一同が納得し、ナザエル枢機卿は小さな声で謝った。

「すまん」



 ローザリアとニールの風魔法で長櫃を滝の下に下ろした。その後全員が滝壺の近くに集まり湖を急いで復活させることにした。

(滝に水が流れて以前と同じように山や大地を潤せるよう⋯⋯湖に水を満たして)

【お願いされた~】

【りょーかーい】

《 アクア 》


「贅沢な悩みですがローザリア様の光の乱舞、見慣れてきそうで怖いです」

 野営の準備をする者と遺体を埋めるものに分かれて急いで作業を進めた。ローザリアは闇の魔石を浄化し粉々に砕いた。

「長櫃も埋める前に砕きましょう」



 滝壺で一泊しその後は順調に山を降りた。山を半分くらい下山した時、ローザリアは湖の辺りからじわじわと雨を降らしてくれるように精霊に頼んだ為、登山メンバーは雨に追いかけられるように坂を降りていくことになった。

「追いかけられてますね」

「はは、ちょっとお願いするのが早かったですかね」

 雨は一度も追いつくことなくローザリア達の歩調に合わせてついてくる。まるで精霊達に揶揄われているようで笑う声まで聞こえる気がした。

 山裾から山を見上げローザリアが杖を振ると雨脚が少し強くなった。

「最後の仕上げです」

 このくらいなら土砂が崩れることもないだろう。4日くらい続くはずだと言うとグレイソンがその場に座り込んだ。

「ワシの人生でこの数日以上に驚く日はないだろうよ。魔法契約しっかりと守らせてもらう。若い奴等を連れてくるのを拒否してくれてありがとう」

 魔法契約は種類によっては生涯続くものがある。今回のソレは生きている間永遠に続くもの、若い世代にそのような枷を負わせずに済んだとグレイソンは心から感謝した。



 町ではさらさらと降る雨にお祭り騒ぎが起きていた。

「おやじ! 雨だよ雨!!」

「うおー! 降ったぞー」

「お前ら、騒ぐ前にすることがあるだろうが!」


「「「ありがとうございましたぁ!!」」」

「ひゃっはー」

 びしょ濡れのまま走り回る人の叫び声と、酒に酔う能天気な声が響き渡った。





 水源地から帰ってくるまでに1週間。精霊師達の努力でほとんどの患者は動けるまでになっていた。

「あとはきれいな水と運動でなんとかなるだろう。ここまでしてもらえるとは思わんかった。感謝の言葉もないとはこの事だな。
ほとんどの奴が畑を作ると言って張り切って家に帰ったし。これは町からのお礼だ、少なくて申し訳ないが」


「うちの聖女様は『お礼と接待は断固拒否』でな。それは町の復興に使ってくれ」

「しかし、これだけの大所帯が動けばそれだけで大金がかかる」

「そこは王家からふんだくる。何しろ王家からので動いてやってるんでね」

 ナザエル枢機卿がニヤリと笑った。





 出発を明日に控え荷物の準備も終わった頃、グレイソンが訪ねてきた。

「ナザエル枢機卿、ひとつ頼みがある。王宮への報告書じゃが書いてはならんことが多すぎて、書いても良いことはどれとどれか教えてくれ」

 報告書の作成で出発が一日伸びたのは言うまでもない。

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