上 下
81 / 191
一回目 (過去)

81.少し成長したら

しおりを挟む
「それに私の力なんかじゃないんです。精霊が水を出してくれてて、私が何かしてるわけじゃないんです。
お礼も感謝も精霊が受け取らなきゃいけないんです」

「聖女様の言う通りだ。精霊師が精霊に力を貸してほしいって願って魔法が実現するって教会で習ったのに忘れとったわい。
だから、聖女様と精霊の両方にお礼を言わなくちゃな」

 小さな桶を抱えていた老人が隣の男の背中を叩いた。

「私は⋯⋯」

「ローザリア様が心から願ったからこそ精霊が叶えてくれたんです。自信を持って感謝されて下さい。でないと、精霊達が悲しみますよ」

【そだよー】

【ローザリアのお願いだから聞いたの】

「⋯⋯はい、ありがとうございます。精霊も教えてくれた皆さんもありがとうございました」

 泣き笑いで頭を下げるローザリアの周りにキラキラと光が輝いた。

「きれー!!」

「おねーちゃんのまわりがピカピカしてるー」

 呆然とする大人達の前でローザリアの周りを沢山の精霊がふわふわクルクルと飛んでいる。

 ローザリアには光の玉の間に羽根で飛ぶ子や小さな火を吹くトカゲや渦巻きの中でまわる子供が見えていた。肩の上にはまんまるなお腹の男の子。

(あっ、増えてる。あなたは誰?)

【空間の精霊、ラノスだよ。アイテムボックスおっきくしとくね~】



「大切な事を理解できたから⋯⋯みんなからのお祝いですね」

(空間の精霊が具現化できたと話したらナスタリア神父は驚くかな? でも、なんで今空間の精霊が?)


「最高のお祝いですね」

 空を見上げていたナスタリア神父がローザリアに向けて微笑んだ。

 同行している聖騎士や精霊師達の中でも光の玉の乱舞を初めて見た者達は唖然として固まった。

「すっすっすっ、すげー!!」

「「「うおー!」」」

 前回馬車の周りを飛び回るのを見た者達は得意げな顔をして、興奮している仲間にサムズアップしていた。

 今回のメンバーの中にもローザリアの力に対して不安を抱いている者もいた。王家や公爵家と繋がっている者はいないはずだが、心の内まではわからない。
 絶対の信頼をおけるニールやテストに合格したジャスパーやシスター・タニアのような者ばかりではない。

 今夜の奇跡を目にした彼等の心から不安や猜疑心がなくなっていればいいと思う。

 これから向かう町や村でもパルフェスと同じように猜疑心に満ちた目で迎えられるだろう。
長い時間共に行動する者達がローザリアの力が本物だと信じられれば旅はぐんと楽になるはず。

 精霊達の協力で最高のはじまりを迎えられた。




「おーい、肉が硬くなるぞー」

 ナザエル枢機卿の大声で光の玉が空高く舞い上がり霧散した。

「あー、きえちゃったー」

「精霊も夜は寝るのかもしれんぞ?」

 意外に子供慣れしているナザエル枢機卿が地面に座り込んで子供達の口の周りを拭いていた。

「ほんと? せいれーさんってねるの?」

「さあな、いつか精霊と話ができたら聞いて教えてくれるか?」

「うん、せいれいさんとおはなしできるよーにがんばる」

「ならまずは、しっかり食ってさっさと寝る!」

「はーい」

 バタバタと走って戻ってくる子供達に『おじちゃん、ありがとー』と言われがっくりと肩を落としたナザエル枢機卿が、ブフッと吹き出したニールと取っ組み合いをはじめた。


「本当に、あの人が一番子供ですね」




 必死に謝っていた町長や町の人が帰って行き、広場では聖騎士や精霊師達が片付けをしたり寝る支度をしたりしている。普段なら当たり前に聞こえているはずの虫の音がない事を寂しく思いながら、ローザリアとナスタリア神父は小さな焚き火を囲んでいた。

 しょっぱいエショデを乗せた皿を前に甘いショコラトルのカップを抱えてニマニマと笑うローザリアを見たナスタリア神父は顔を覗き込んできた。

「ん?」

「はじまりはやっぱりこれだなって」

 教会で初めて真面にナスタリア神父と話した時、準備してくれたのも甘いショコラトルだった。
 初めて飲む甘い飲み物に感動して、エショデとの組み合わせなら何杯でも飲めそうだと思ったのを覚えている。

「あの日が私のはじまりで、この二つは記念です」

「では、もう一つ記念の品を増やしていただけますか?」

 首を傾げたローザリアの前でナスタリア神父が立ち上がった。


「少しお待ちいただけますか? 差し入れを持ってきたんです」

 ナスタリア神父が返事を待たずにテントにかけていく。

(あの時のお菓子かな? 毎食毎に誰かがお菓子を差し入れてくれて癖になったらどうしよう)

 細長い箱を抱えて帰ってきたナスタリア神父は少し緊張しているように見えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

呪われ令嬢、王妃になる

八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」 「はい、承知しました」 「いいのか……?」 「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」 シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。 家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。 「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」 「──っ!?」 若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。 だがそんな国王にも何やら思惑があるようで── 自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか? 一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。 ★この作品の特徴★ 展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。 ※小説家になろう先行公開中 ※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開) ※アルファポリスにてホットランキングに載りました ※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう
恋愛
 聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。  数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。  周囲から最有力候補とみられていたらしい。  未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。  そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。  女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。  その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。  ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。  そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。 「残念だよ、ハーミア。  そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。  僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。  僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。  君は‥‥‥お払い箱だ」  平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。  聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。  そして、聖女は選ばれなかった.  ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。  魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

冷遇された王女は隣国で力を発揮する

高瀬ゆみ
恋愛
セシリアは王女でありながら離宮に隔離されている。 父以外の家族にはいないものとして扱われ、唯一顔を見せる妹には好き放題言われて馬鹿にされている。 そんな中、公爵家の子息から求婚され、幸せになれると思ったのも束の間――それを知った妹に相手を奪われてしまう。 今までの鬱憤が爆発したセシリアは、自国での幸せを諦めて、凶帝と恐れられる隣国の皇帝に嫁ぐことを決意する。 自分に正直に生きることを決めたセシリアは、思いがけず隣国で才能が開花する。 一方、セシリアがいなくなった国では様々な異変が起こり始めて……

処理中です...