上 下
41 / 191
一回目 (過去)

41.精霊の話

しおりを挟む
 ジャスパーが走り出し息せき切って鞄を抱えて戻ってきた。コンフリィの根茎と錨草にアキレアを混ぜて乳鉢ですり潰す。

「水はどこの水?」

「安心しろ、俺がさっき出した」

「お湯は?」

「持ってきました!」

 薬草が準備できるとナザエル枢機卿が人払いしてナスタリア神父がそっとローザリアの頭を抱えた。

「ローザリア様、聞こえますか? ナスタリアです」

 二度三度と小さな声で呼びかけるとうっすらと目が開いた。

「ローザリア様? 良かった。目が覚めたのですね。御気分は如何ですか?」

「エリ⋯⋯エリサとおんなじ」

「はい?」

「ごめんなさい。神父様の言葉が⋯⋯エリサと同じで懐かしくて。もう大丈夫です、私⋯⋯ごめんなさい」

 手をついて起きあがろうしたローザリアをナスタリア神父が支えた。

「無理はしないで下さいね。ちょっと変わった味なんですが少し飲めますか?」

「はい、大丈夫だと思います」

 ローザリアの手を支えて少しずつゆっくりと飲んでいく。

「においや味は大丈夫でしたか?」

「えっと、はい」

 ナスタリア神父が『随分と我慢強いですね』と言い小さく笑った。この薬湯は大の大人でも嫌がるしナザエル枢機卿に至っては吐き出した事のある代物なので、ローザリアが何も言わず最後まで飲み切ったのには驚いてしまった。

「ローザリアは味覚音痴だな。アレを飲めるなんて強者だぜ」

「ふふっ、褒められました?」

「ん? 貶してるに決まってんだろ? 無理すんなよ」

「はい」

「少し休んだら教会帰りましょう。ベッドで休んだ方がいい」

「⋯⋯あの、ナスタリア神父様が教えて下さったとこに行ってみたいです」

「今日ですか?」

「多分。できれば早い方がいいと思うので」

 ナスタリア神父がナザエル枢機卿に目配せしてどうするか聞いた。

「ローザリアは何故行きたいんだ? 行くのは構わんが無理はしない方がいいと思うんだが」

「もう少ししたら歩けるようになるので、それまでちょっとお話を聞いてもらっていいですか?」

「ああ、結界を張るか?」

「周りに音が聞こえなくなりますか?」

「なら防音結界だな」

 左手を前に出したナザエル枢機卿が小さな声で詠唱し結界を張った。

「よし、良いぞ」


 モゾモゾと体制を整えたローザリアが2人の顔を見て精霊から聞いた話をゆっくりと話しはじめた。

「精霊達が嫌がる場所があるそうです。そこには加護を戴けなかった子供がう⋯⋯埋められてて。加護がないから殺されたって言ってました」

 ローザリアの声は次第に小さくなっていった。

「それを聞いてローザリアは驚いて体調が悪くなったのか」

「⋯⋯何とかしてあげたいって思いました。埋められたままなんて可哀想だって。
で、ほんとだったら私も同じようになってたんだなって思ったんです。私も加護がないと思われてて役立たずだって言われていたので⋯⋯埋められてる子達は私の仲間なんです」

「そりゃキツいわ」

「助けてあげて欲しいって。モヤモヤが出てて精霊には場所がわかるそうです」

「それで祠に行きたいんですね?」

 ローザリアはゆっくりと頷いた。

「なんとなくですけど祠に行っておいた方がいい気がして。無理なら行かなくても全然構わないです」

「ローザリアが元気になったら行こう。飯を食って休憩して、それから考えような。それでいいか?」

「はい、ありがとうございます」



 結界を解くと気を利かせたジャスパー達がスープ用の野菜を切りはじめていた。

「おう、ご苦労。今日は一旦解散だ。わかっていると思うが誰にも何も漏らすなよ。ニールとビクター、お前達は残れ。迎えの時間は追って知らせる。解散!!」

「「はい!」」



 馬車から残りの荷物を下ろした。食料や念の為の着替え、毛布やローザリアには何が入っているのかわからない横長の大きな櫃。

 申し訳ないと思いながらローザリアは敷物の上に座ったままその様子を何気なく見ていた。

【ダメダメ】

【茶色い粉はダメだよ(ムキ】

(えっ? 茶色い粉?)

【あの甘いやつ】

【こないだ飲んだやつ】

(もしかしてショコラトルかも?)


 ローザリアはゆっくりと立ち上がり荷物に向かって歩いていった。

「どうかされましたか?」

「もしかして今日ショコラトルを持って来てますか?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

呪われ令嬢、王妃になる

八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」 「はい、承知しました」 「いいのか……?」 「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」 シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。 家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。 「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」 「──っ!?」 若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。 だがそんな国王にも何やら思惑があるようで── 自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか? 一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。 ★この作品の特徴★ 展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。 ※小説家になろう先行公開中 ※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開) ※アルファポリスにてホットランキングに載りました ※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう
恋愛
 聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。  数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。  周囲から最有力候補とみられていたらしい。  未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。  そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。  女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。  その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。  ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。  そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。 「残念だよ、ハーミア。  そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。  僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。  僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。  君は‥‥‥お払い箱だ」  平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。  聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。  そして、聖女は選ばれなかった.  ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。  魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...