9 / 191
一回目 (過去)
9.弱まる加護の力と声
しおりを挟む
「ふん! 全く、面倒臭いったらありゃしない! わざわざあんなジジイ達の話を私が聞かなきゃいけないなんて。そんなに水が欲しければ宝石の一つでも持ってくれば良いのよ!
私が王妃になるのは当然なのよ。陛下達がトロトロしてるのが悪いんだわ」
リリアーナの後ろを大人しく歩いていたローザリアは、急に立ち止まって振り向いたリリアーナに頭を叩かれて蹲った。
「あーもー、ムカつく! このくらいじゃイライラが治らない」
恐る恐る立ち上がったローザリアを無視して歩き出したリリアーナ。
(変わり身の速さは見慣れてるけど⋯⋯王太子と婚約したら少しは良くなるのかしら。これ以上になったら私の身が持たないかも)
ローザリアは不機嫌なリリアーナから少し離れて後をついて行った。
別館前で出会った王宮精霊師達に丁重な扱いを受けたリリアーナが漸く機嫌を直した頃、視察に出ていたランブリー団長達が帰って来た。
その後は休憩を挟んで状況報告を兼ねた昼食会。領地の広さと溜池の多さから考え、2つのグループを作り南北に分けて作業を開始すると発表された。
リリアーナのいるグループのリーダーはランブリー団長で王宮精霊師3名や半数の学園生と一緒に領地の南側の溜池からはじめる。
リリアーナ達の乗った馬車の後にトーマック公爵家の馬車とメイド達の乗る馬車が続き使節団も騎馬で追いかけることになった。メイド達と一緒の馬車に乗り込もうとしたローザリアは空を見上げてふと不安になった。
(雲一つない青空⋯⋯乾燥した空気⋯⋯トーマック公爵領の時はもう少し感じが違った気がするんだけど。なんだろう⋯⋯よく分からないけど何か違うような。
王宮精霊師の方達でさえ精霊の力を使えなかったのよね。大丈夫なのかしら)
30分程度走り広い荒地の中で馬車が停まった。ランブリー団長とリリアーナを先頭に王宮精霊師が続きその後ろを学園生が歩く。トーマック公爵夫妻使節団は少し遅れてその後に続いた。
まばらに生えている木のすぐ近くにポッカリと空いた大穴が見えて来た。
「これが溜池? ほとんど水がないじゃない」
水底にゆらゆらと揺れる草が見えるほど水位の下がったそれは溜池と呼ぶには悲しいほど水が少ない。
「この辺りが一番水位が低いのです。北の溜池はまだもう少し水が溜まっていました」
ランブリー団長が皆に説明して精霊師と学園生を溜池の周りに並ばせた。
「さあはじめるぞ。お前達の力でこの溜池に水を⋯⋯最低でも半分。それ以上になるよう力を込めるんだ」
予想以上に水が少ないことに不安そうな顔になった者や絶対に水を増やしてみせると意気込む者、疑心暗鬼に顔を歪める者や奇跡の瞬間を期待する者⋯⋯。
精霊師逹は膝をつき両手を胸の前で合わせたり両手を前に出し大きく深呼吸したりと、それぞれが一番力を発揮できる体勢で気合を込めてランブリー団長の合図を待った。
ローザリアはリリアーナの声が聞こえるギリギリのところでタオルを持ち、呼ばれた時にいつでも動けるように待機していた。
【無理⋯⋯水は作れない】
聞いたことのない声が頭の中に響いた。
驚いて周りを見回したが皆口を閉ざしている。気のせいかと思ったローザリアは気を取り直して溜池に目を戻した。
【この人達は無理】
(誰? どうして無理なの?)
【加護、弱くなってるもん】
【みんなダメダメなのー】
ローザリアの頭の中に響く精霊師達を嘲るようなクスクスという笑い声。
「はじめ!!」
ランブリー団長の掛け声と共に精霊師と学園生が一斉に詠唱をはじめた。
王宮精霊師達の手元からはほんの少しの水が流れたが、学園生に至っては全く何の変化もない。
【ほらぁ、言ったでしょ】
【みんな、ダメダメなのー】
何度も詠唱を繰り返す声が聞こえる中で時間だけが過ぎて行き、精霊師達が焦りの色を浮かべた。学園生達の中には座り込んで頭を抱えている者もいる。
顔面蒼白で硬直するリリアーナとそれを見つめる大勢の人達⋯⋯。
見物していた貴族が呟いた声が本人の予想とは裏腹に大きく響いた。
「どうなってるんだ、リリアーナ様は王宮精霊師より凄いんじゃなかったのか?」
「雨も降らせるって聞いてたんだが」
静かに見学していた使節団の者達がざわつきはじめた。
「学園生には荷が重かったと言う事ですかな」
「精霊の力が弱まっているのであれば致し方ないのかもしれませんな」
使節団の中でも学園生の力に懐疑的だった者達からため息が洩れはじめた。
私が王妃になるのは当然なのよ。陛下達がトロトロしてるのが悪いんだわ」
リリアーナの後ろを大人しく歩いていたローザリアは、急に立ち止まって振り向いたリリアーナに頭を叩かれて蹲った。
「あーもー、ムカつく! このくらいじゃイライラが治らない」
恐る恐る立ち上がったローザリアを無視して歩き出したリリアーナ。
(変わり身の速さは見慣れてるけど⋯⋯王太子と婚約したら少しは良くなるのかしら。これ以上になったら私の身が持たないかも)
ローザリアは不機嫌なリリアーナから少し離れて後をついて行った。
別館前で出会った王宮精霊師達に丁重な扱いを受けたリリアーナが漸く機嫌を直した頃、視察に出ていたランブリー団長達が帰って来た。
その後は休憩を挟んで状況報告を兼ねた昼食会。領地の広さと溜池の多さから考え、2つのグループを作り南北に分けて作業を開始すると発表された。
リリアーナのいるグループのリーダーはランブリー団長で王宮精霊師3名や半数の学園生と一緒に領地の南側の溜池からはじめる。
リリアーナ達の乗った馬車の後にトーマック公爵家の馬車とメイド達の乗る馬車が続き使節団も騎馬で追いかけることになった。メイド達と一緒の馬車に乗り込もうとしたローザリアは空を見上げてふと不安になった。
(雲一つない青空⋯⋯乾燥した空気⋯⋯トーマック公爵領の時はもう少し感じが違った気がするんだけど。なんだろう⋯⋯よく分からないけど何か違うような。
王宮精霊師の方達でさえ精霊の力を使えなかったのよね。大丈夫なのかしら)
30分程度走り広い荒地の中で馬車が停まった。ランブリー団長とリリアーナを先頭に王宮精霊師が続きその後ろを学園生が歩く。トーマック公爵夫妻使節団は少し遅れてその後に続いた。
まばらに生えている木のすぐ近くにポッカリと空いた大穴が見えて来た。
「これが溜池? ほとんど水がないじゃない」
水底にゆらゆらと揺れる草が見えるほど水位の下がったそれは溜池と呼ぶには悲しいほど水が少ない。
「この辺りが一番水位が低いのです。北の溜池はまだもう少し水が溜まっていました」
ランブリー団長が皆に説明して精霊師と学園生を溜池の周りに並ばせた。
「さあはじめるぞ。お前達の力でこの溜池に水を⋯⋯最低でも半分。それ以上になるよう力を込めるんだ」
予想以上に水が少ないことに不安そうな顔になった者や絶対に水を増やしてみせると意気込む者、疑心暗鬼に顔を歪める者や奇跡の瞬間を期待する者⋯⋯。
精霊師逹は膝をつき両手を胸の前で合わせたり両手を前に出し大きく深呼吸したりと、それぞれが一番力を発揮できる体勢で気合を込めてランブリー団長の合図を待った。
ローザリアはリリアーナの声が聞こえるギリギリのところでタオルを持ち、呼ばれた時にいつでも動けるように待機していた。
【無理⋯⋯水は作れない】
聞いたことのない声が頭の中に響いた。
驚いて周りを見回したが皆口を閉ざしている。気のせいかと思ったローザリアは気を取り直して溜池に目を戻した。
【この人達は無理】
(誰? どうして無理なの?)
【加護、弱くなってるもん】
【みんなダメダメなのー】
ローザリアの頭の中に響く精霊師達を嘲るようなクスクスという笑い声。
「はじめ!!」
ランブリー団長の掛け声と共に精霊師と学園生が一斉に詠唱をはじめた。
王宮精霊師達の手元からはほんの少しの水が流れたが、学園生に至っては全く何の変化もない。
【ほらぁ、言ったでしょ】
【みんな、ダメダメなのー】
何度も詠唱を繰り返す声が聞こえる中で時間だけが過ぎて行き、精霊師達が焦りの色を浮かべた。学園生達の中には座り込んで頭を抱えている者もいる。
顔面蒼白で硬直するリリアーナとそれを見つめる大勢の人達⋯⋯。
見物していた貴族が呟いた声が本人の予想とは裏腹に大きく響いた。
「どうなってるんだ、リリアーナ様は王宮精霊師より凄いんじゃなかったのか?」
「雨も降らせるって聞いてたんだが」
静かに見学していた使節団の者達がざわつきはじめた。
「学園生には荷が重かったと言う事ですかな」
「精霊の力が弱まっているのであれば致し方ないのかもしれませんな」
使節団の中でも学園生の力に懐疑的だった者達からため息が洩れはじめた。
4
お気に入りに追加
599
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
呪われ令嬢、王妃になる
八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」
「はい、承知しました」
「いいのか……?」
「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」
シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。
家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。
「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」
「──っ!?」
若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。
だがそんな国王にも何やら思惑があるようで──
自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか?
一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。
★この作品の特徴★
展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。
※小説家になろう先行公開中
※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開)
※アルファポリスにてホットランキングに載りました
※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。
水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。
その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。
そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。
殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?
星ふくろう
恋愛
聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。
数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。
周囲から最有力候補とみられていたらしい。
未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。
そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。
女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。
その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。
ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。
そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。
「残念だよ、ハーミア。
そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。
僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。
僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。
君は‥‥‥お払い箱だ」
平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。
聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。
そして、聖女は選ばれなかった.
ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。
魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる