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13.断罪&離縁致します

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「二人のアナベル殿ですな。ストマック辺境伯殿、これについてご説明頂きましょう」

「・・・・」

 冷や汗を垂らし、卒倒寸前のダイアンを尻目に、
「あの者達は偽物でございます。私が紛れもない辺境伯夫人アナベルです」

「国一番の絵付師のアナベル殿だと言われるか?」

「勿論でございま「アナベル、やめろ! いい加減にしろ」」


「トマス殿と我々は何度も顔を合わせています。そのトマス殿が偽りを?」

「そこの女の差金でございます。きっと金でも摑まされたのですわ。
あのような平民の言葉など信じられませんわ」



「陛下及びお歴々の方々に申し上げます。
どちらが本当の絵付師アナベルなのか絵付勝負は如何でしょうか?」

「ほう、面白いことを申すではないか」

「ここに皿を複数枚持ってきております。
それに皆様の前で絵付けさせて頂ければ、自ずとどちらが本物の絵付師アナベルなのか判明するのではないでしょうか?」

「それは・・」

 今日初めてアナベル偽絵付師が慌てた。



「・・良かろう。アナベルの仕事を目の前で見るのは一興、はじめるが良い」



 小ぶりな机と椅子が二脚運び込まれ、その上に白い皿が数枚と太さの違う絵筆が数本並べられた。

「今日は"blue and white" と呼ばれる絵の具を一色のみ持って参りました。
これは名前の通り青系統の色を出す時に使います」


 皿と絵筆をとり下絵も無しに描き始めたアナベル・ラッセルの横で、アナベル・テイラーは慌てて皿を手に取り描き始めた。

「素晴らしい、アナベルの制作風景を見られるとは今日は本当に良い日ですな」
「あの皿を売ってもらえないか後で聞いてみましょう」
「記念の品になりますな」


 アナベル・テイラーは称賛の声にチラリとアナベル・ラッセルの皿を見て絶句した。
 美しい鳩の絵柄で、今にも飛び立ちそうな躍動感の感じられるものだった。

「アナベル、もう駄目だ。陛下・・申し訳ありませんでした」


 正座した状態で頭を下げるストマック辺境伯の横で、子供の児戯のような花の絵を描いたアナベルが呆然としていた。


「どちらが本物でどちらが偽物かこれで判明しましたかな?」

 宰相の言葉に、
「絵付け師のアナベルは私でございますが、辺境伯の奥方様はそちらのアナベル様でいらっしゃいます」

「説明をしてもらえますかな?」

「結婚して以来、私は一度も辺境伯様にお会いしたことはございませんが、そちらのアナベル様は2年間辺境伯様と共に過ごされ、お子もおられます。
白い結婚を認めて頂けませんでしょうか」


 全てを静観していた陛下が、
「其方の婚姻は無効とする。辺境伯は絵付師アナベルより援助された資金を返却の上、爵位返上。
その上で、そこにおる愚か者との正式な婚儀をいたせ」


 辺境伯は床に頭を擦り付け、
「どうかお許しください。爵位返上も返済も・・そんな、無理です」

「平民となり、己の所業を反省するが良い。但し、返済ができぬとあらば鉱山奴隷と娼婦として働くが良い」

「わっ私はこの人に誑かされただけですわ。どうかお見逃しを」

「余の前で自ら絵付師を名乗っておきながら、どの口がそれを申すか。この痴れ者が!」

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