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12.謁見の日

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「ダイアン・ストマック辺境伯並びに辺境伯夫人アナベル、面をあげよ」


 目の前には陛下と重鎮が並び、いつになく険しい顔をしている様に見えた。

「ストマック辺境伯、隣におられるのが奥方で絵付師のアナベル様で合っていますかな?」

 ダイアンは宰相の聞き方に違和感を覚えた。
(バレているのか?)

「それはどう言う意味のご質問「はい、私は辺境伯夫人アナベルで御座います」」


 勝手に話し出したアナベルに、ダイアンは真っ青になってしまった。

「アナベル! 口を閉じてろ」


 ダイアンは小声で注意したが、
「アナベル殿の作品を陛下は複数所有しておられます。
先日届けられたティーセットは実に見事でありました」

「・・ありがたき幸せにございます」


「アナベル殿、ここにはあの時の作品を見ておらぬものもおりましてな。
作品の絵柄についてなど、話していただけますかな?」

「えっ絵柄でございますか?」

「さよう、どのような物であったかご説明を」

 ダイアンは真っ青になって固まったまま何も言えなくなっている。

 落ち着きを取り戻したアナベルは、
「花・・そう幾つもの花を描いた物でございます」

「花ですか、それは陛下が所望された物とは違っている様ですな」


「・・申し訳ございません。いくつもの作品を同時に手がけておりますので勘違いをしたようですわ」


「陛下に献上した品と他の物を混同したとは、何とも不遜な話ですな」


「初めて王宮に参りましたので緊張してしまいました。どうかお許しの程」

「ストマック辺境伯は緊張しておられる様だが、アナベル殿はとても堂々としておられる様だが?」

「とんでもございません。錚々たる方々を前に緊張で手足が震えております」


「アナベル殿はいつ頃から絵付けをはじめられたのですかな?」

「幼少の頃より絵筆を持っておりました。
子供の手慰みからはじまりましたので」


「もうよい。其方の戯言に時間を割くのは無駄じゃ。トマス、説明せよ」

「はい」

 後ろから聞こえてきた声にダイアンとアナベルが慌てて振り返ると、蹲踞の姿勢をとっている男性とマントを羽織り顔を隠した女性がドアの近くにいた。


「先日お持ちいたしましたのは、天使像を柘榴と桃で囲んだ絵柄のリーフプレートでございます」


「まさか、トマスか?」

 ダイアンの小声を聞きつけた宰相が、
「ストマック辺境伯は妻の兄の顔をご存知ない様だ。
それならば隣の女性にも見覚えはないのでしょうな」


 マントを脱ぎ丁寧にカーテシーをしたアナベルは、
「3年ぶりにお目通りいたします。アナベル・ラッセル・ストマックでございます」

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