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89.進化しはじめている可能性も麦粒くらいはありますからね
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「はぁ、なんか⋯⋯少しわかったかも」
仁王立ちしていた魔王サイズの虫が頭をガシガシと掻いて部屋を見回しました。少しは冷静になられたのでしょうか⋯⋯手加減は致しませんけれどね。
「えーっと、まずどこからだ?⋯⋯テーブルを壊して申し訳ない。弁償させて下さい」
思わず『そこからですの?』と突っ込みそうになりましたが、ぐっと我慢です。グレッグの方が本質を掴むのが早そうな気がしますが『亀の歩みも一歩から』ですわ。『千里の道』はかっこよすぎて辺境伯には不釣り合いですから亀で十分です。
先に些細な問題を解決しておけば本題が見つけやすくなると学園の先生に教えていただきましたもの。
『試験では簡単な問題を先に片付けておけば落ち着いて難問に取り組めるからな』
折角、虫から進化⋯⋯頭を使って考える事を覚えている最中ですもの、焦りは禁物ですわ。
「それと、子爵家とご令嬢に対し失礼な言動があった事を謝罪します。えーっとその、あちこちからノアを誑しこんだとか、この間のパーティーでは王太子殿下にまで触手を伸ばしたとか噂を聞いておりまして。
子供を引き取ったのは利用する為だとか、拾った子供を売り飛ばしてるとか⋯⋯まさかこんな女性とは思わず勝手な想像で暴走しておりました」
もしかして女狐から触手持ちになりました? えーっと、触手と言えばホオキムシとかでしたかしら。狐から虫へのランクダウンはかなりショックですわ。
それから『子供を売り飛ばす』と言うのは例の人身売買の件が間違って広がったのでしょうか。
「自分より倍も体重がありそうな男に剣を抜かれかけても怯まず赤の他人の子供を命かけて守ろうとするとか凄すぎて。もう、スパッと目が覚めました。本当に申し訳ありません。
ノアはデレデレと鼻の下を伸ばしているし、ロイド殿下も参戦しそうな勢いで『子爵令嬢を王妃にできるかなぁ』とか言い出すしで、噂のこともあって頭に血が昇っ⋯⋯」
「待て! 今なんて言った!? ロイド殿下がなんだと!?」
「いや、あれ? こないだお会いした時に絶賛しておられて⋯⋯二人で取り合ってるのかと。違うのか?」
「くそ! どうもおかしいと思ったんだ。妙にラングローズ家の事を聞きたがって『陞爵』だなどと言い出したりティアの好みを聞いてきたり。
後で王宮に乗り込んで絶縁状を叩きつけてやる!」
王家と筆頭公爵家の絶縁? まあ、あり得ませんからこのままスルーいたしましょう。
「王太子殿下の冗談を真に受けて横道に逸れすぎた脳筋のお話ですから、本気にされたら笑われてしまいますわ」
ノア様達の目が痛いですね。
「俺達がチェイスの養育を断られた理由もはっきり分かりました。今後のことについてお時間をいただけるようお願い致します」
背筋を伸ばしてしっかりと頭を下げた辺境伯様は虫から少し格上げの予感です。
「そうですか。リリスはどうだ? かなり言いたい放題だったが他にも伝えたいことはあるかな?」
「チェイスの事についてはいつもと同じでお父様に全てお任せしたいと思っております。わたくしからのお願いは⋯⋯まずひとつ目はナーシャ様のことです。
母子に手をかけた事は決して許されるものではありませんし罪を償うのは当然だと思いますけれど、ジャスパー様の行動を許容していた方はナーシャ様に謝罪するべきか否か考えていただきたいと思っています」
罪を軽減できるよう行動する必要があるとは思えませんが、ナーシャ様の心を追い詰めるような行動があったなら謝罪は必要だと思うのです。
「それから他国へ逃れた母子の行く末を見守って下さると嬉しく思います。見知らぬ土地で女手ひとつで子供を育てるのは大変だと思うのです。例え十分な援助があったとしても心の支えがなければ辛いのではないかと気になっております」
「それで良いんだね? 他にないなら⋯⋯えーっと、非常に言いにくい話がある。グレッグとチェイスがリリスを待っているはずだからすぐに行っておいで」
お父様の言い方と慌てて目を逸らした辺境伯の態度で何か問題が起きたのだと分かりました。
「どう言う事でしょうか。今日は顔見せだけのはずではありませんでしたの?」
「いや、そのぉ⋯⋯」
しどろもどろで話をした辺境伯の前まで行き、その場に座っていただくようお願いいたしました。
正座をされた辺境伯のお顔の位置はわたくしのお腹より胸に近いあたりです。
大きく息を吸い込んだわたくしは右手の握り拳を辺境伯の鼻面に思いっきり叩き込みました。
セルゲイ爺ちゃんのお薦めでしたから鼻を狙いましたが、鼻血って本当に簡単に出ますのね。
「不安を抱えている子供を大人ばかりがいる場所にひとりだけ呼び出すなんて恥を知りなさい! どこまで愚かなのか⋯⋯おむつの時代からやり直しをなさいませ!」
そのまま部屋を出たわたくしは急いで自室に向かいました。虫の体液⋯⋯血だらけではグレッグ達に会いに行けませんもの。
仁王立ちしていた魔王サイズの虫が頭をガシガシと掻いて部屋を見回しました。少しは冷静になられたのでしょうか⋯⋯手加減は致しませんけれどね。
「えーっと、まずどこからだ?⋯⋯テーブルを壊して申し訳ない。弁償させて下さい」
思わず『そこからですの?』と突っ込みそうになりましたが、ぐっと我慢です。グレッグの方が本質を掴むのが早そうな気がしますが『亀の歩みも一歩から』ですわ。『千里の道』はかっこよすぎて辺境伯には不釣り合いですから亀で十分です。
先に些細な問題を解決しておけば本題が見つけやすくなると学園の先生に教えていただきましたもの。
『試験では簡単な問題を先に片付けておけば落ち着いて難問に取り組めるからな』
折角、虫から進化⋯⋯頭を使って考える事を覚えている最中ですもの、焦りは禁物ですわ。
「それと、子爵家とご令嬢に対し失礼な言動があった事を謝罪します。えーっとその、あちこちからノアを誑しこんだとか、この間のパーティーでは王太子殿下にまで触手を伸ばしたとか噂を聞いておりまして。
子供を引き取ったのは利用する為だとか、拾った子供を売り飛ばしてるとか⋯⋯まさかこんな女性とは思わず勝手な想像で暴走しておりました」
もしかして女狐から触手持ちになりました? えーっと、触手と言えばホオキムシとかでしたかしら。狐から虫へのランクダウンはかなりショックですわ。
それから『子供を売り飛ばす』と言うのは例の人身売買の件が間違って広がったのでしょうか。
「自分より倍も体重がありそうな男に剣を抜かれかけても怯まず赤の他人の子供を命かけて守ろうとするとか凄すぎて。もう、スパッと目が覚めました。本当に申し訳ありません。
ノアはデレデレと鼻の下を伸ばしているし、ロイド殿下も参戦しそうな勢いで『子爵令嬢を王妃にできるかなぁ』とか言い出すしで、噂のこともあって頭に血が昇っ⋯⋯」
「待て! 今なんて言った!? ロイド殿下がなんだと!?」
「いや、あれ? こないだお会いした時に絶賛しておられて⋯⋯二人で取り合ってるのかと。違うのか?」
「くそ! どうもおかしいと思ったんだ。妙にラングローズ家の事を聞きたがって『陞爵』だなどと言い出したりティアの好みを聞いてきたり。
後で王宮に乗り込んで絶縁状を叩きつけてやる!」
王家と筆頭公爵家の絶縁? まあ、あり得ませんからこのままスルーいたしましょう。
「王太子殿下の冗談を真に受けて横道に逸れすぎた脳筋のお話ですから、本気にされたら笑われてしまいますわ」
ノア様達の目が痛いですね。
「俺達がチェイスの養育を断られた理由もはっきり分かりました。今後のことについてお時間をいただけるようお願い致します」
背筋を伸ばしてしっかりと頭を下げた辺境伯様は虫から少し格上げの予感です。
「そうですか。リリスはどうだ? かなり言いたい放題だったが他にも伝えたいことはあるかな?」
「チェイスの事についてはいつもと同じでお父様に全てお任せしたいと思っております。わたくしからのお願いは⋯⋯まずひとつ目はナーシャ様のことです。
母子に手をかけた事は決して許されるものではありませんし罪を償うのは当然だと思いますけれど、ジャスパー様の行動を許容していた方はナーシャ様に謝罪するべきか否か考えていただきたいと思っています」
罪を軽減できるよう行動する必要があるとは思えませんが、ナーシャ様の心を追い詰めるような行動があったなら謝罪は必要だと思うのです。
「それから他国へ逃れた母子の行く末を見守って下さると嬉しく思います。見知らぬ土地で女手ひとつで子供を育てるのは大変だと思うのです。例え十分な援助があったとしても心の支えがなければ辛いのではないかと気になっております」
「それで良いんだね? 他にないなら⋯⋯えーっと、非常に言いにくい話がある。グレッグとチェイスがリリスを待っているはずだからすぐに行っておいで」
お父様の言い方と慌てて目を逸らした辺境伯の態度で何か問題が起きたのだと分かりました。
「どう言う事でしょうか。今日は顔見せだけのはずではありませんでしたの?」
「いや、そのぉ⋯⋯」
しどろもどろで話をした辺境伯の前まで行き、その場に座っていただくようお願いいたしました。
正座をされた辺境伯のお顔の位置はわたくしのお腹より胸に近いあたりです。
大きく息を吸い込んだわたくしは右手の握り拳を辺境伯の鼻面に思いっきり叩き込みました。
セルゲイ爺ちゃんのお薦めでしたから鼻を狙いましたが、鼻血って本当に簡単に出ますのね。
「不安を抱えている子供を大人ばかりがいる場所にひとりだけ呼び出すなんて恥を知りなさい! どこまで愚かなのか⋯⋯おむつの時代からやり直しをなさいませ!」
そのまま部屋を出たわたくしは急いで自室に向かいました。虫の体液⋯⋯血だらけではグレッグ達に会いに行けませんもの。
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