85 / 99
85.一を聞いて十を知る? 経験値の違いですね
しおりを挟む
「え、ノア様?」
セルゲイ爺ちゃんと一緒に花の植え替えをしていたところに汗をかき息を切らしたノア様が走ってこられました。
「ティ、ティア⋯⋯はぁはぁ⋯⋯申し訳ないんだが、応接室に⋯⋯き、きて欲しい。ラングローズ卿が呼んでおられる⋯⋯はぁ⋯⋯」
今までにはなかった事態です。
グレッグやチェイスに対する思い入れほどではありませんが、他の子達の時もやはりわたくしは感情が先に立ち視野が狭くなっている気がしましたので、打ち合わせの全てをお父様任せにさせていただいてきましたから。
「すぐに参ります」
応接室までの短い道のりでノア様は説明をはじめられましたがキッパリとお断りいたしました。お友達の悪口は言いにくいでしょうしお父様への文句も言えないはずです。
話の中に忖度や遠慮があれば話を誤解してしまう可能性があると説明したところで応接室に着いてしまいました。
「ティア、申し訳ない。俺が奴らともっとちゃんと話しておけば」
「取り敢えず中に参りましょう」
今はノア様とお話しする時間はありません。お話を聞くのが最優先ですから。
「リリス、こちらはキャンベル辺境伯ご夫妻だ」
「ようこそお越しくださいました。リリスティアと申します」
前回練習したお陰でちゃんとしたカーテシーができたと思います⋯⋯思いますが、睨まれてます。軽蔑? 嫌悪?
「挨拶はいらん! ノアの顔を立てて待っていただけだからな。で、由緒ある公爵家当主に丁稚をさせてまで何がしたいんだ!?」
「不敬を承知でノア殿の言葉を何度も遮りながらでしたが自由にお話しいただいたお陰で、忌憚ない辺境伯様のお気持ちをひと通り伺わせて頂いたと思っております。
不調に終わりました原因の一部にリリスティアも関係しておるようですので参加さることに致しました」
お父様⋯⋯その笑顔は最大級で怒っておられますね。ほんの数時間でお父様をここまで怒らせるなんて特殊能力持ちかもですわ。
「お手間をおかけして申し訳ありませんが少しお話を伺わせていただければ幸いです」
何故かテーブルが粉々ですしカップなども一緒に飛んでいったみたいですが⋯⋯お話し優先ですね。
「話は済んだ、お前達は俺が迎えを寄越したらチェイスを馬車に乗せろ。謝礼は倍にしてやるから、これ以上ガタガタいうな。わかったな!」
何となくですがお話の概要が掴めた気が致します。
一度お会いしただけで既にチェイスを連れて行くつもりで、迎えは代理に任せるつもりだということ。チェイスだけを連れて行くつもりで当家は謝礼目当てで子供の世話をするような輩だと思っている事。
お父様がわたくしを呼ばれたという事は遠慮する必要はありませんね。
「お話は分かりました。他のお子様の時も銅貨一枚いただいた事はございませんので謝礼は結構でございます。
チェイスはお渡しできかねますので迎えは不要でございますし、今回の当家の判断にご不満がございましたら裁判所でお会いいたしましょう。
当家の使用人は優秀ですから恐らく馬車の準備はできていると思います。お見送りは必要でしょうか?」
「後から来て何も知らんくせに! わけのわからんことを言うな!」
「ギル、真面に話せ! お前の考えは間違ってる。きちんと話し合ってから出直させてもらうんだ」
「は! 女に誑かされて軟弱になったか!? 友よりも女狐とは呆れた奴だな」
「ギル! 頼むから真面目に話を聞け!」
「ご友人だと伺っておりましたのに⋯⋯ノア様が女狐などに誑かされる方がどうかさえお分かりにならない? ああ、残念な頭をお持ちの方なのですね。これは失礼致しました」
ここ最近で悪女の配役をいただくのは二回目です。わたくしは壁の花から変身したようです。女狐は初めてでしたかしら。
「ここへいらしてからの辺境伯様のお話は存じ上げませんので、わたくしの理解が違っておりましたらお教えくださいませ。
辺境伯様は当家にご不満をお持ちでいらっしゃいます。それは友を誑かすわたくしの存在が大きいのでしょう。そのような女のいる家など子供にとって良くない環境に違いないと決めつけておられる。恐らくは金目当て、その他にも金銭に代わる何かを狙っているはずだと警戒しておられる。
たった一度の顔合わせでチェイスを連れて行くと決められたのは、甥に間違いないと確信されたから。
幼い子供などしばらく泣かしておけば過去にあったことなどすぐに忘れてしまうはずだから、異父兄と離れ離れにしても心配はいらない。虐待されていた事も同じようにすぐ忘れてしまうと決めつけておられる。
当家のような悪辣な家に置いていては過去の恐怖を忘れるどころか悪い影響が追加されてしまうから、強引にでも事を進めてやる。
ノア様のお言葉を無視し続けておられますから、全てが終わればノア様の頭が冷えて冷静になると確信しておられますね。
グレッグへの配慮がカケラも感じられないことから考えて、犯罪者の息子で平民などとの関係はお断りだ。
取り敢えず分かりましたのはこの程度でございますが、間違いなどありませんでしたでしょうか?」
「⋯⋯ふん、どうせ陰で聞いていたかノアから聞いたのだろう。知ったふうな口を聞きやがって、子爵家風情が随分と偉そうだな」
「貴族としての爵位は低くとも人としてはキャンベル辺境伯様よりは高位のようですわ。少なくとも当家にはそれまで顔を合わせた事もない方を蔑み貶めるような言動をする者はおりませんので。
それから前もってお話を聞いていたわけではございません。低レベルの方の考える事など大差ありませんの。言ってみれば経験値の違いですわ」
「不敬罪で切り捨ててやる! そうすればノアの目も覚めるしな」
辺境伯が腰の剣に手をかけニヤリと陰湿な笑みを浮かべられました。
セルゲイ爺ちゃんと一緒に花の植え替えをしていたところに汗をかき息を切らしたノア様が走ってこられました。
「ティ、ティア⋯⋯はぁはぁ⋯⋯申し訳ないんだが、応接室に⋯⋯き、きて欲しい。ラングローズ卿が呼んでおられる⋯⋯はぁ⋯⋯」
今までにはなかった事態です。
グレッグやチェイスに対する思い入れほどではありませんが、他の子達の時もやはりわたくしは感情が先に立ち視野が狭くなっている気がしましたので、打ち合わせの全てをお父様任せにさせていただいてきましたから。
「すぐに参ります」
応接室までの短い道のりでノア様は説明をはじめられましたがキッパリとお断りいたしました。お友達の悪口は言いにくいでしょうしお父様への文句も言えないはずです。
話の中に忖度や遠慮があれば話を誤解してしまう可能性があると説明したところで応接室に着いてしまいました。
「ティア、申し訳ない。俺が奴らともっとちゃんと話しておけば」
「取り敢えず中に参りましょう」
今はノア様とお話しする時間はありません。お話を聞くのが最優先ですから。
「リリス、こちらはキャンベル辺境伯ご夫妻だ」
「ようこそお越しくださいました。リリスティアと申します」
前回練習したお陰でちゃんとしたカーテシーができたと思います⋯⋯思いますが、睨まれてます。軽蔑? 嫌悪?
「挨拶はいらん! ノアの顔を立てて待っていただけだからな。で、由緒ある公爵家当主に丁稚をさせてまで何がしたいんだ!?」
「不敬を承知でノア殿の言葉を何度も遮りながらでしたが自由にお話しいただいたお陰で、忌憚ない辺境伯様のお気持ちをひと通り伺わせて頂いたと思っております。
不調に終わりました原因の一部にリリスティアも関係しておるようですので参加さることに致しました」
お父様⋯⋯その笑顔は最大級で怒っておられますね。ほんの数時間でお父様をここまで怒らせるなんて特殊能力持ちかもですわ。
「お手間をおかけして申し訳ありませんが少しお話を伺わせていただければ幸いです」
何故かテーブルが粉々ですしカップなども一緒に飛んでいったみたいですが⋯⋯お話し優先ですね。
「話は済んだ、お前達は俺が迎えを寄越したらチェイスを馬車に乗せろ。謝礼は倍にしてやるから、これ以上ガタガタいうな。わかったな!」
何となくですがお話の概要が掴めた気が致します。
一度お会いしただけで既にチェイスを連れて行くつもりで、迎えは代理に任せるつもりだということ。チェイスだけを連れて行くつもりで当家は謝礼目当てで子供の世話をするような輩だと思っている事。
お父様がわたくしを呼ばれたという事は遠慮する必要はありませんね。
「お話は分かりました。他のお子様の時も銅貨一枚いただいた事はございませんので謝礼は結構でございます。
チェイスはお渡しできかねますので迎えは不要でございますし、今回の当家の判断にご不満がございましたら裁判所でお会いいたしましょう。
当家の使用人は優秀ですから恐らく馬車の準備はできていると思います。お見送りは必要でしょうか?」
「後から来て何も知らんくせに! わけのわからんことを言うな!」
「ギル、真面に話せ! お前の考えは間違ってる。きちんと話し合ってから出直させてもらうんだ」
「は! 女に誑かされて軟弱になったか!? 友よりも女狐とは呆れた奴だな」
「ギル! 頼むから真面目に話を聞け!」
「ご友人だと伺っておりましたのに⋯⋯ノア様が女狐などに誑かされる方がどうかさえお分かりにならない? ああ、残念な頭をお持ちの方なのですね。これは失礼致しました」
ここ最近で悪女の配役をいただくのは二回目です。わたくしは壁の花から変身したようです。女狐は初めてでしたかしら。
「ここへいらしてからの辺境伯様のお話は存じ上げませんので、わたくしの理解が違っておりましたらお教えくださいませ。
辺境伯様は当家にご不満をお持ちでいらっしゃいます。それは友を誑かすわたくしの存在が大きいのでしょう。そのような女のいる家など子供にとって良くない環境に違いないと決めつけておられる。恐らくは金目当て、その他にも金銭に代わる何かを狙っているはずだと警戒しておられる。
たった一度の顔合わせでチェイスを連れて行くと決められたのは、甥に間違いないと確信されたから。
幼い子供などしばらく泣かしておけば過去にあったことなどすぐに忘れてしまうはずだから、異父兄と離れ離れにしても心配はいらない。虐待されていた事も同じようにすぐ忘れてしまうと決めつけておられる。
当家のような悪辣な家に置いていては過去の恐怖を忘れるどころか悪い影響が追加されてしまうから、強引にでも事を進めてやる。
ノア様のお言葉を無視し続けておられますから、全てが終わればノア様の頭が冷えて冷静になると確信しておられますね。
グレッグへの配慮がカケラも感じられないことから考えて、犯罪者の息子で平民などとの関係はお断りだ。
取り敢えず分かりましたのはこの程度でございますが、間違いなどありませんでしたでしょうか?」
「⋯⋯ふん、どうせ陰で聞いていたかノアから聞いたのだろう。知ったふうな口を聞きやがって、子爵家風情が随分と偉そうだな」
「貴族としての爵位は低くとも人としてはキャンベル辺境伯様よりは高位のようですわ。少なくとも当家にはそれまで顔を合わせた事もない方を蔑み貶めるような言動をする者はおりませんので。
それから前もってお話を聞いていたわけではございません。低レベルの方の考える事など大差ありませんの。言ってみれば経験値の違いですわ」
「不敬罪で切り捨ててやる! そうすればノアの目も覚めるしな」
辺境伯が腰の剣に手をかけニヤリと陰湿な笑みを浮かべられました。
21
お気に入りに追加
2,743
あなたにおすすめの小説
真実の愛、その結末は。
もふっとしたクリームパン
恋愛
こうしてシンディは幸せに暮らしました、とさ。
前編、後編、おまけ、の三話で完結します。
カクヨム様にも投稿してる小説です。内容は変わりません。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
もう愛は冷めているのですが?
希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」
伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。
3年後。
父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。
ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。
「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」
「え……?」
国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。
忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。
しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。
「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」
「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」
やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……
◇ ◇ ◇
完結いたしました!ありがとうございました!
誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる