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84.傍若無人な、今回も第三人称でお届けしております
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「それは⋯⋯うん、悪かったと思う。でもな、今まで見た中であそこまでジャスパーにそっくりな子はいなかっただろ? 正直言って他の子達は『どうなんだろうなぁ』みたいな気持ちもあったから、そんなに驚かなかったけど⋯⋯。
マジでジャスパーが生まれ変わったのかと思うくらい似てんだから、少しくらい多めに見てくれてもいいと思うぜ?」
辺境伯がどさりと勢いよく座ったソファがギシッと嫌な音を立てた。
「ギル、チェイスはお前が考えてるよりも覚えてる。具体的に何があったとかじゃなくて本能的な感じでだけどな」
「それは環境が変われば大丈夫だろ? すぐに忘れて走り回るようになるって。アリサは子育ての経験者だし俺もだからな、チェイスがうちにくればあっという間に落ち着くって。ジャスパーだって俺が育てたようなもんだから、子育てなら心配はいらん」
「辺境伯夫人もチェイスを迎える事に賛成しておられるのですか?」
子爵がアリサに問いかけた。
「領地には子供がのびのびと走り回れる場所もありますし、心の傷を癒すにはちょうどいいと思っておりますわ。先程の様子では慣れるのに少し時間がかかる気はいたしますけれど落ち着ける環境と子育てに慣れたメイドや従者もおりますし、チェイスと同じくらいの年頃の子も近くにおりますからすぐに寂しくなくなるはずですわ」
「そうですか、キャンベル辺境伯ご夫妻のお気持ちは良く理解いたしました。血の繋がりが正式に認められた場合、基本的には私どもに口を出す権利はありません。まあ、子供の養育に関して不安材料がある場合は関係機関と連携して話し合いを持ちますが」
「では、今回はその必要はないな。チェイスは間違いなくジャスパーの子供だと断言しよう。その上復興中と言っても辺境伯領は困窮してもおらんし安全も確保できている。ノアも知っているよな?」
「それはまぁ、場所という意味ならな。だがお前の認識は間違⋯⋯」
「チェイスのみをお引き取りになられるご予定だと言う認識であっておりますでしょうか?」
「そのつもりでいる。ありがたい事にチェイスはまだ赤ん坊に毛が生えたようなものだから、何日かすれば異父兄がいたことなど忘れて元気になるだろう。なにしろ、あのくらいの赤ん坊なんて何でもすぐに忘れてしまうからな。
どうしてもという事であれば一緒に引き取っても構わんが⋯⋯将来はうちで雇うという感じかな。グレッグだったか? あの子には悪いが父親もはっきりしないし、戸籍通りであれば犯罪者の子供だ。となると、それなりの扱いしかできんと思う」
「ギル、いい加減そ⋯⋯」
「以前チェイスの診察をした医師がおります。一度話をしてみてはいかがですか?」
何度も言葉を遮るように質問を続ける子爵にノアはキツイ目を向けた。
「いや、あまり時間もない事だし謝礼は後日送らせてもらう。それで了承して欲しいと伝えていただきたい」
「今後についてはノア殿へご連絡させていただくという事でよろしいでしょうか?」
「え? あー、引越しの日時とかか。迎えに来る時間は取れんから⋯⋯うちの家令から連絡をさせよう。迎えの馬車と着替え一式だな? 準備が出来次第連絡を入れるので馬車に乗せて貰えば後はこっちで準備しておく」
「はぁ! ギル、俺はお前と友達なのが心底情けなくなったよ」
「はあ? あー、お前の気持ちは良く分かってる。アリサも好みは人それぞれだと言ってい⋯⋯あ、いや。この話は帰ってからにしよう。では、今日はこれで失礼させていただく。
なるべく早く迎えを寄越せるようにしよう。その時に期待に応えられるくらいの十分な礼はさせていただくつもりだ。本当に助かった」
「短い間ですけど預かっていただいて感謝しておりますわ。辺境伯としてお力になれることもあるかもしれません。何かありましたら一応お声がけ下さいませ」
「丁寧なお言葉痛み入りますが、同様の言葉を返せず申し訳ないとしか申せません。チェイスの迎えの手配は今しばらくお待ちいただく事になるかと思います。
お心に添えず残念でした。当面の間は当家へのご連絡及び来訪はお控えいただきますようお伝えさせていただきます」
「どういう意味ですか!? ここに引き取られてからかかった生活費を含めた謝礼は十分な額⋯⋯」
「ノア殿、大変申し訳ありませんが⋯⋯この時間であればセルゲイのところにリリスがいるはずです。呼んできていただくことは可能でしょうか?」
「おいおい、子爵風情が公爵に小間使いさせるのかよ!?」
大声を上げ立ち上がったキャンベル辺境伯が蹴りを入れたテーブルは部屋の隅まで飛んで粉々になった。
「そうですね、確かにそのようなお願いをいたしました。今はそれが一番賢明な方法かと存じます」
「はあ?」
「辺境伯ご夫妻を信用しておりませんので当主である私がお二方から目を離すのはいささか問題があると思っております」
「俺がここで暴れるとかチェイスを無理矢理連れて行くとか思ってるってことか?」
「ギル! いい加減にしろ! テーブルを壊したばかりの奴が偉そうにすんな! 俺だって今のお前は信用できんからな」
「お二方がどのような行動に出られるか私には分かりかねますが、不測の事態が起きた時私の指示がなければ当家の使用人が動けないからと思いまして」
「ギルもアリサもそこから絶対に動くな! 俺が帰って来るまで指一本でも動かしたら叩き潰してやるからな!」
辺境伯を睨みつけたノアがテラスからの近道でセルゲイの元へ全力疾走した。
(くそ! 奴があんな考えをしてたなんて)
マジでジャスパーが生まれ変わったのかと思うくらい似てんだから、少しくらい多めに見てくれてもいいと思うぜ?」
辺境伯がどさりと勢いよく座ったソファがギシッと嫌な音を立てた。
「ギル、チェイスはお前が考えてるよりも覚えてる。具体的に何があったとかじゃなくて本能的な感じでだけどな」
「それは環境が変われば大丈夫だろ? すぐに忘れて走り回るようになるって。アリサは子育ての経験者だし俺もだからな、チェイスがうちにくればあっという間に落ち着くって。ジャスパーだって俺が育てたようなもんだから、子育てなら心配はいらん」
「辺境伯夫人もチェイスを迎える事に賛成しておられるのですか?」
子爵がアリサに問いかけた。
「領地には子供がのびのびと走り回れる場所もありますし、心の傷を癒すにはちょうどいいと思っておりますわ。先程の様子では慣れるのに少し時間がかかる気はいたしますけれど落ち着ける環境と子育てに慣れたメイドや従者もおりますし、チェイスと同じくらいの年頃の子も近くにおりますからすぐに寂しくなくなるはずですわ」
「そうですか、キャンベル辺境伯ご夫妻のお気持ちは良く理解いたしました。血の繋がりが正式に認められた場合、基本的には私どもに口を出す権利はありません。まあ、子供の養育に関して不安材料がある場合は関係機関と連携して話し合いを持ちますが」
「では、今回はその必要はないな。チェイスは間違いなくジャスパーの子供だと断言しよう。その上復興中と言っても辺境伯領は困窮してもおらんし安全も確保できている。ノアも知っているよな?」
「それはまぁ、場所という意味ならな。だがお前の認識は間違⋯⋯」
「チェイスのみをお引き取りになられるご予定だと言う認識であっておりますでしょうか?」
「そのつもりでいる。ありがたい事にチェイスはまだ赤ん坊に毛が生えたようなものだから、何日かすれば異父兄がいたことなど忘れて元気になるだろう。なにしろ、あのくらいの赤ん坊なんて何でもすぐに忘れてしまうからな。
どうしてもという事であれば一緒に引き取っても構わんが⋯⋯将来はうちで雇うという感じかな。グレッグだったか? あの子には悪いが父親もはっきりしないし、戸籍通りであれば犯罪者の子供だ。となると、それなりの扱いしかできんと思う」
「ギル、いい加減そ⋯⋯」
「以前チェイスの診察をした医師がおります。一度話をしてみてはいかがですか?」
何度も言葉を遮るように質問を続ける子爵にノアはキツイ目を向けた。
「いや、あまり時間もない事だし謝礼は後日送らせてもらう。それで了承して欲しいと伝えていただきたい」
「今後についてはノア殿へご連絡させていただくという事でよろしいでしょうか?」
「え? あー、引越しの日時とかか。迎えに来る時間は取れんから⋯⋯うちの家令から連絡をさせよう。迎えの馬車と着替え一式だな? 準備が出来次第連絡を入れるので馬車に乗せて貰えば後はこっちで準備しておく」
「はぁ! ギル、俺はお前と友達なのが心底情けなくなったよ」
「はあ? あー、お前の気持ちは良く分かってる。アリサも好みは人それぞれだと言ってい⋯⋯あ、いや。この話は帰ってからにしよう。では、今日はこれで失礼させていただく。
なるべく早く迎えを寄越せるようにしよう。その時に期待に応えられるくらいの十分な礼はさせていただくつもりだ。本当に助かった」
「短い間ですけど預かっていただいて感謝しておりますわ。辺境伯としてお力になれることもあるかもしれません。何かありましたら一応お声がけ下さいませ」
「丁寧なお言葉痛み入りますが、同様の言葉を返せず申し訳ないとしか申せません。チェイスの迎えの手配は今しばらくお待ちいただく事になるかと思います。
お心に添えず残念でした。当面の間は当家へのご連絡及び来訪はお控えいただきますようお伝えさせていただきます」
「どういう意味ですか!? ここに引き取られてからかかった生活費を含めた謝礼は十分な額⋯⋯」
「ノア殿、大変申し訳ありませんが⋯⋯この時間であればセルゲイのところにリリスがいるはずです。呼んできていただくことは可能でしょうか?」
「おいおい、子爵風情が公爵に小間使いさせるのかよ!?」
大声を上げ立ち上がったキャンベル辺境伯が蹴りを入れたテーブルは部屋の隅まで飛んで粉々になった。
「そうですね、確かにそのようなお願いをいたしました。今はそれが一番賢明な方法かと存じます」
「はあ?」
「辺境伯ご夫妻を信用しておりませんので当主である私がお二方から目を離すのはいささか問題があると思っております」
「俺がここで暴れるとかチェイスを無理矢理連れて行くとか思ってるってことか?」
「ギル! いい加減にしろ! テーブルを壊したばかりの奴が偉そうにすんな! 俺だって今のお前は信用できんからな」
「お二方がどのような行動に出られるか私には分かりかねますが、不測の事態が起きた時私の指示がなければ当家の使用人が動けないからと思いまして」
「ギルもアリサもそこから絶対に動くな! 俺が帰って来るまで指一本でも動かしたら叩き潰してやるからな!」
辺境伯を睨みつけたノアがテラスからの近道でセルゲイの元へ全力疾走した。
(くそ! 奴があんな考えをしてたなんて)
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