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74.腹黒ぽんぽこ狸の奮闘

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 立ち上がるタイミングを逃してしまったのは痛恨のミスですが、ノア様が肩に置かれたのは疲れていたわたくしを労わって下さったのだと理解できています。

 肩に乗っているノア様の手を軽く叩いてから、落ち着いた所作を意識し立ち上がりカーテシーを致しました。

「ご挨拶が遅れ失礼致しました。ラングローズ子爵家リリスティアと申します」

「ラングローズ⋯⋯ラングローズ? はて、どこかで聞いたような気がしますぞ。うーん⋯⋯ああ! 思い出した、マーベルの庶子二人を手懐けて大物を狙っていると言う噂の」

「ドミラス卿、それ以上ティアへの不快な発言をされるならパートナーである私への侮辱行為と看做させていただくが宜しいかな?」

「これは異なことを仰る。わしはタチの悪い噂が出ているとお知らせしただけですぞ? いやいや、フォレスト卿は穏やかな方だと評判でしたがこれは意外でしたなあ」

 周りの同意を求めるように大声を張り上げたドミラス侯爵の後ろには、先程確認したチーム・ドミラスの面々がいつの間にか壁のように立ち塞がっていました。

 とても優秀なチームプレーだと感心してる場合ではありませんでしたが、先程コナー氏が声をかけておられたのは王太子殿下の側近だったはず。

 ノア様の素早い対応がわたくしに安心感をもたらしてくれています。

 ノア様がわたくしの腰に手を回して引き寄せられ、ブルーム様や壁の中から肌に突き刺さるような強烈な怒りが発せられました。

 今日二回目で恥ずかしさに顔が赤くなりそうなシチュエーションですが、恐怖で動きを止めかけた心臓は顔にも手足にも血を送り届けるのをやめたように思えました。



「お互いに無益な時間を引き延ばすほど酔狂ではないのでね、これで失礼する」

「フォレスト卿に提案がありましてな。そのご婦人にも関係ありますが⋯⋯いかがですかな?」

「どのような話か知らんが貴殿の持ち込む提案には一切興味がない」

「何度も申し入れをしておりますが、元マーベル侯爵夫人が囲い込んでいる子供達を引き取らせていただきたい。これは書類上の正式な父親ステファン・マーベルからの依頼ですからな。本来は関わりのないラングローズ子爵家もフォレスト公爵家も口を出す筋のない話ですぞ」

「勘違いしておられるようだが、ステファン・マーベルは既に親権をとりあげられている。彼には子供達のことを決める権利はないから調べてみるといい」

 今までに聞いた事がないほど冷ややかなお声のノア様の態度は『目にするのも不愉快だ』と公言しているように見えましたが、ドミラス侯爵は全く気にした様子がありません。

 太っ腹なのは見た目だけではなさそうです。

「存じておりますとも。言われのない虐待の罪を着せられ軍法会議にかけられたステファン・マーベル殿は子供達のことをとても心配しておられましてねえ、誰かに利用されないうちに保護して欲しいと仰っておられたのです。
わしも子供がおりますからマーベル殿の話に心を動かされたわけです。フォルスト公爵閣下には御理解いだけておらんようで、実に残念に思っております」

 ドミラス侯爵の演説にチーム・ドミラスから聞こえよがしな呟きが聞こえてきた。

「書類の偽造程度で軍法会議は厳しすぎるよな」

「子を思う親心ってやつだろ?」

「フォルスト公爵閣下が誤解をされるように仕向けた方がおられたんですものしかたありませんわ」



「マーベル殿は我が子を庶子にしたくないばかりに書類を偽造してしまわれた。それは確かに罪ではありますがな、実子と庶子では受けられる恩恵は雲泥の差だ。子を実子としたいと思う気持ちは分からなくもないのですよ。
そこに虐待などと言う罪がなぜ追加されたのか、マーベル殿はひどく嘆いておられましたなあ。マーベル殿の元妻とフォレスト卿が並んでパーティーに出ておられることに疑問を持つものは多いかもしれませんぞ」

「何が言いたい?」

「あちこちから不快な噂が耳に入っておるだけで、わしは何も言っておりませんな。
子のできぬ妻が庶子に腹を立て、当てつけて子供達をとりあげたとか。罪を捏造して親権を奪い哀れな子供達の仮初の庇護者となったとか。その子供達を利用して同情を誘い、より大物を手に入れたとか。
噂が真実なら稀に見る悪女⋯⋯いや、途轍もなく頭の良い女性ですなあ」

 予想の上をいくと申しますか、誰でも納得できてしまいそうなストーリーに思わず感心してしまい⋯⋯ついうっかり笑ってしまったのです。

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