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75.高位貴族の認識の甘さ

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 ドミラス侯爵の話に頷いたり驚いたりしながらわたくしに嫌悪の目を向けていた方々が目を見開きました。

「申し訳ありません、あまりによくできたお話なので感心してしまいましたの。残念ながらわたくしは噂にあるほどの知恵者ではありませんから、上手に罪を捏造するテクニックは持ち合わせておりませんわ」

 ノア様が応援するようにわたくしに微笑んでくださいました。

「元マーベル様の子供達をラングローズ家で一時的に保護していることは間違いありませんが、我がラングローズ子爵家ではよくあることですの。
今までにもかなりの人数の老若男女が我が家を仮の宿にしてきましたから、あの子供達もその人達と同じですわ。安心して暮らせる環境が整うまでラングローズ家に滞在して来た方は幅広くおられますから、その噂をご存知の方もおられるかもしれません。
罪のない子供達に奇異の目が集まる前に噂が消えることを心から祈っております」

 チーム・ドミラスの壁の外にいる方達に聞こえるように少し声を張り堂々と話を致しましたが、驚いたことにドミラス侯爵が『ふんっ!』と鼻を鳴らされたのです。

 お作法の先生に習っておられないのでしょうか? そのような行動をしてしまったら一時間はお小言を聞かなくてはならなくなりますわ。



「ああ、ラングローズ子爵家の話は聞いたことがありますよ。確か現在の司教様が赴任して来られた時にお聞きしたはずです。数年前に子爵家に一時滞在されたんでしたね」

「わたくしもお聞きしましたわ。預かっておられる大半は身寄りのない子供で、職を見つけるまで子爵家で暮らすとか。他にも事情のある大人の方がいらっしゃる事もおありだとか」

 ありがたい事に壁の向こうからわたくしの話を裏付けるお言葉が届き、驚いて振り向いたチーム・ドミラスの壁に穴が開きました。

 ちらほらと見える方の中には先程ノア様が親しげに話しておられた方達のお顔がありました。

「馬鹿馬鹿しい。身寄りのない子供なら孤児院へ行くはずだし、大人なら救護院のはず。子爵家が預からねばならん理由などなかろう」

「そう言われてみればその通りだよな」

「慈善事業の一環かも」

「だが、わざわざ自宅で保護をするのはやりすぎじゃないか?」

 チーム・ドミラスの誘導もありますがドミラス侯爵の意見に賛同できる方は、この国の状況に気付いておられない恵まれた方々なのでしょう。

「孤児院は定員オーバーで受け入れできないこともありますし、子供の状況によっては大勢での生活に不向きな場合もありますの」

 ほとんどの方が首を傾げておられますから、裕福な貴族の方々には想像もできない話なのでしょう。

 今日の参加者は高位貴族の方ばかりです。わたくしのような子爵家以下の方はどなたかの連れとして参加されたごく少数しかおられません。

 戦でも前線に立つ事はほとんどなく、スラムや孤児という言葉は机上でしか知らない方ばかり。掃き清められた王都の通りは歩いても、その裏で蹲る者達がいるなど考えた事もないのでしょう。

「長年に渡る戦で孤児や生活困難者が激増している事はご存知かな? 彼らの中には飢えや恐怖や怪我など様々な理由で集団生活が出来にくい状況の者もいる。
ラングローズ家に保護を依頼した子供達は大人や他人をとても怖がっていたので、集団生活には向いていないと判断し預かっていただいただけの事。
それを曲解してあれこれと下賤な噂をされるのは非常に残念だが、その者達は現在の我が国の状況に対しその程度の認識しかないのかと思うだけだな。
あの子供達が長期に渡り虐待されていたことは医師の診断書や現地の調査で判明しており裁判結果が覆ることはない。
軍法会議前は徹底的な事前調査を行う、冤罪と言うのであれば貴殿を偽証罪か侮辱罪で告発する用意がある」

「で、ではわしがあの子供達を買おう。あ、いや。言葉が悪かった、わしが子供達の養い親になりますぞ。それはほれ、マーベルの言葉を信じたことに対する謝罪も込めて引き取り世話をいたしましょう。
善は急げというやつだ、手続きをはじめるまで待たずとも手の者に子供を引き取りに行かせましょう」

「申し訳ありませんが、幼い子供の引き取りの場合には特に時間をかけて交流するところからはじめますの。引き取り手の身辺調査は必須ですし、孤児院のシスターや司教様やお医者様との面談も必要だと決めておりますから」

 そう簡単にはお渡ししません。我が家が関わった子供達は皆家族の一員ですからね。いずれにせよグレッグとチェイスをドミラス侯爵にお渡しすることはありませんけど。

「そ、それでは⋯⋯それでは間に合わんのだ!」

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