68 / 99
68.お嬢様ならしれっと誤魔化せます
しおりを挟む
マナーとダンスの強化訓練がはじまってから筋肉痛で動けないわたくしを気遣って、ノア様はマッサージオイルやハーブティーなどをプレゼントしてくれました。
それにしても、まさかこんな日が来るとは思いませんでした。学園生時代からダンスは苦手でしたが成績は割と良い方でしたし、マナーも問題ありませんでした。
マーベル伯爵家に嫁いでからは裏方が殆どで、ガーデンパーティーでも主催者の一人として挨拶回りをするより食事や飲み物の補給の方がメインでした。
最後にカーテシーしたがいつだったか忘れててしまったほどです。
先生がいらっしゃった時だけでは到底間に合わない落ちこぼれのわたくしは、朝から晩まで時間を見つけては自主練を続けました。
筋肉痛でマリオネットのような歩き方になっているわたくしですが、ノア様の真似をしたグレッグがエスコートしようとしてくれるようになったのはご褒美でしょうか。
いつだったかグレッグはチェイスを守る小さな騎士のようだと思ったことがありますが最近は小さな紳士になってきました。そのお陰なのでしょうか⋯⋯不安そうな仕草をすることが減り、やりたい事を自分から口にすることが増えてきた気がします。
ノア様とグレッグが初めてブランコで遊んだ日から一ヶ月以上経ち、グレッグにとってノア様は『ライバル』で『なまか』で『だいじなももだち』になったそうです。
お兄ちゃん子だったチェイスもノア様がいらっしゃると目を輝かせるようになりました。顔を合わせるたびにノア様によじ登り、肩車を強請っては屋敷中を練り歩かせようとしているのは良いのか悪いのか悩むところですけれど。
子供達を甘やかしすぎているように見える時もありましたが、子供達が叱られているのを見たことがあります。
座り込んだノア様が腕を組んでいる前に並んで立つ子供達が何をしでかしたのか、ノア様が何を仰っているのかは聞こえませんでしたが、最後に大きな声の⋯⋯。
『ごめんなさい』
『たぃ!』
が聞こえてきました。その直後に子供達が『はい!』と言いながら敬礼をしたのには笑ってしまいました。
ノア様、子供達を部下と間違えてます?
ナーシャ様とドラミス侯爵家の動向は気になりましたが、下手に動いてチェイスの秘密がバレても困りますし、ナーシャ様達を刺激したりノア様のご迷惑になってもいけないと沈黙を守りました。
わたくしに出来たのは子供達の不要な外出を控え、予定は早めに知らせる事くらいでした。
ナーシャ様は今も修道院におられますが何度も面会に来ている怪しい人物はドラミス侯爵家の当主様との連絡役だと判明していますから、間違いなく何か企んでいるのでしょう。
だって、溺愛している娘に会いに行かず間に他人を挟んで連絡をとりあうなんてろくな事を考えていないはずですもの。
できるならナーシャ様がこれ以上の罪を重ねないで欲しいと心から願います。チェイス可愛さというのもありますが、ナーシャ様の境遇には少し切なく思うところもありますから。
政略結婚なのか恋愛結婚なのかわかりませんけれど、そのどちらであっても長く連れ添えばそれなりに心を通わせておられたでしょう。
ナーシャ様は旦那様に対して好意や愛情があったから不貞されて怒りや嫉妬心が生まれたのではないでしょうか。
夫との間に思い出もなく、何の思い入れもないまま愛人や庶子の存在を知ったわたくしなどは『呆れた』だけでした。
愛している方に何度も裏切られるのはどれほど辛かったか⋯⋯。罪を償い心安らかになられる事を祈ります。
カーテシーは何とか及第点をもらいましたが、ダンスについては『あとはフォレスト閣下に望みを託しましょう』と言われる程度に進化?した頃、ノア様からドレスが届きました。
裾をひくアイボリーのガウンは淡い紫の花と緑の葉がメインの捺染布で、前身頃は紐締めのコンペール形式です。
レースを重ねたペチコートとフィシューには白糸と銀糸で細やかな刺繍が施されていました。
「えーっと⋯⋯ 刺繍、細か⋯⋯これっていつから準備しておられたんですかね~。ちょっと、うん」
トルソーに着せ掛けながらターニャが少し顔を引き攣らせています。
流行りのローブ・ア・ラングレースなのは予想通りですが、問題は裾をひいている事です。
「こ、これって⋯⋯ダンスの難易度が上がったような。えーっと、取り敢えずクローゼットに片付けておきましょう」
翌日のダンスレッスンで先生に相談したのですが、ポロリと扇子を落とし硬直されたのは見なかった事に致しました。
魑魅魍魎の跋扈する魔窟にはどんな魔物が棲息しているのか不安ばかりが膨らんでいきますが、応援してくれる子供達の為にも負けられません。
「きっとなんとかなる⋯⋯最後は気合いと根性で切り抜けるわ」
「お嬢様なら、派手に転んでもしれっと誤魔化せますから。大丈夫!」
ターニャの摩訶不思議な応援に首を傾げつつ『いざ出陣』です。
それにしても、まさかこんな日が来るとは思いませんでした。学園生時代からダンスは苦手でしたが成績は割と良い方でしたし、マナーも問題ありませんでした。
マーベル伯爵家に嫁いでからは裏方が殆どで、ガーデンパーティーでも主催者の一人として挨拶回りをするより食事や飲み物の補給の方がメインでした。
最後にカーテシーしたがいつだったか忘れててしまったほどです。
先生がいらっしゃった時だけでは到底間に合わない落ちこぼれのわたくしは、朝から晩まで時間を見つけては自主練を続けました。
筋肉痛でマリオネットのような歩き方になっているわたくしですが、ノア様の真似をしたグレッグがエスコートしようとしてくれるようになったのはご褒美でしょうか。
いつだったかグレッグはチェイスを守る小さな騎士のようだと思ったことがありますが最近は小さな紳士になってきました。そのお陰なのでしょうか⋯⋯不安そうな仕草をすることが減り、やりたい事を自分から口にすることが増えてきた気がします。
ノア様とグレッグが初めてブランコで遊んだ日から一ヶ月以上経ち、グレッグにとってノア様は『ライバル』で『なまか』で『だいじなももだち』になったそうです。
お兄ちゃん子だったチェイスもノア様がいらっしゃると目を輝かせるようになりました。顔を合わせるたびにノア様によじ登り、肩車を強請っては屋敷中を練り歩かせようとしているのは良いのか悪いのか悩むところですけれど。
子供達を甘やかしすぎているように見える時もありましたが、子供達が叱られているのを見たことがあります。
座り込んだノア様が腕を組んでいる前に並んで立つ子供達が何をしでかしたのか、ノア様が何を仰っているのかは聞こえませんでしたが、最後に大きな声の⋯⋯。
『ごめんなさい』
『たぃ!』
が聞こえてきました。その直後に子供達が『はい!』と言いながら敬礼をしたのには笑ってしまいました。
ノア様、子供達を部下と間違えてます?
ナーシャ様とドラミス侯爵家の動向は気になりましたが、下手に動いてチェイスの秘密がバレても困りますし、ナーシャ様達を刺激したりノア様のご迷惑になってもいけないと沈黙を守りました。
わたくしに出来たのは子供達の不要な外出を控え、予定は早めに知らせる事くらいでした。
ナーシャ様は今も修道院におられますが何度も面会に来ている怪しい人物はドラミス侯爵家の当主様との連絡役だと判明していますから、間違いなく何か企んでいるのでしょう。
だって、溺愛している娘に会いに行かず間に他人を挟んで連絡をとりあうなんてろくな事を考えていないはずですもの。
できるならナーシャ様がこれ以上の罪を重ねないで欲しいと心から願います。チェイス可愛さというのもありますが、ナーシャ様の境遇には少し切なく思うところもありますから。
政略結婚なのか恋愛結婚なのかわかりませんけれど、そのどちらであっても長く連れ添えばそれなりに心を通わせておられたでしょう。
ナーシャ様は旦那様に対して好意や愛情があったから不貞されて怒りや嫉妬心が生まれたのではないでしょうか。
夫との間に思い出もなく、何の思い入れもないまま愛人や庶子の存在を知ったわたくしなどは『呆れた』だけでした。
愛している方に何度も裏切られるのはどれほど辛かったか⋯⋯。罪を償い心安らかになられる事を祈ります。
カーテシーは何とか及第点をもらいましたが、ダンスについては『あとはフォレスト閣下に望みを託しましょう』と言われる程度に進化?した頃、ノア様からドレスが届きました。
裾をひくアイボリーのガウンは淡い紫の花と緑の葉がメインの捺染布で、前身頃は紐締めのコンペール形式です。
レースを重ねたペチコートとフィシューには白糸と銀糸で細やかな刺繍が施されていました。
「えーっと⋯⋯ 刺繍、細か⋯⋯これっていつから準備しておられたんですかね~。ちょっと、うん」
トルソーに着せ掛けながらターニャが少し顔を引き攣らせています。
流行りのローブ・ア・ラングレースなのは予想通りですが、問題は裾をひいている事です。
「こ、これって⋯⋯ダンスの難易度が上がったような。えーっと、取り敢えずクローゼットに片付けておきましょう」
翌日のダンスレッスンで先生に相談したのですが、ポロリと扇子を落とし硬直されたのは見なかった事に致しました。
魑魅魍魎の跋扈する魔窟にはどんな魔物が棲息しているのか不安ばかりが膨らんでいきますが、応援してくれる子供達の為にも負けられません。
「きっとなんとかなる⋯⋯最後は気合いと根性で切り抜けるわ」
「お嬢様なら、派手に転んでもしれっと誤魔化せますから。大丈夫!」
ターニャの摩訶不思議な応援に首を傾げつつ『いざ出陣』です。
18
お気に入りに追加
2,743
あなたにおすすめの小説
真実の愛、その結末は。
もふっとしたクリームパン
恋愛
こうしてシンディは幸せに暮らしました、とさ。
前編、後編、おまけ、の三話で完結します。
カクヨム様にも投稿してる小説です。内容は変わりません。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
もう愛は冷めているのですが?
希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」
伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。
3年後。
父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。
ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。
「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」
「え……?」
国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。
忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。
しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。
「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」
「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」
やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……
◇ ◇ ◇
完結いたしました!ありがとうございました!
誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる