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62.ノアVSグレッグ
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ターニャが応接室を出るとお父様がノア様に頭を下げました。
「厳しい事ばかり言って申し訳ありませんでした。幼い子供達を引き取るのは予想以上に大変な事です。ましてやフォレスト卿はまだお若い。我が家が他人を引き取るのとは世間の見る目が違います」
「お気遣いありがとうございます。周りからどのような目で見られるか、覚悟はしているつもりです。それと同時に長年の夢を叶えようとしているのですからラングローズ卿が心配されるのは当然だと思います」
「チェイスの問題とご自身の結婚問題を並行して進めるのは大変ではありませんか?」
「⋯⋯子供達がティアに引き合わせてくれた気がして、この奇跡を手放したくないんです。どちらを優先しても後悔しそうで、どちらも後回しにも出来ませんし諦めたくもないんです」
真っ直ぐな目でわたくしを見つめるノア様の顔は真っ赤になっておられます。
「仮にリリスと婚約するとしても、チェイスの危険が去るまで結婚を延期してもらえれば娘との時間が稼げそうな気がしたんですが」
悪巧みを失敗したと言わんばかりの顔で笑い声を上げたお父様の言葉にノア様が青褪めました。
「そう言えば⋯⋯申し込みはしたけどティアからの返事を聞いてない!」
あ、そう言えば確かに⋯⋯お父様が『本人次第』と仰られてそのままになっておりました。ノア様の後ろでコナー氏が吹き出しました。
「す、少し時間をいただけますでしょうか。先程のお話で少し混乱しておりますの」
動揺しすぎて手に汗をかくわたくしの顔を揶揄うように覗き込むお父様を睨みつけた時、コンコンとドアをノックする音が聞こえました。
「ターニャです、グレッグ様とチェイス様をお連れしました」
「入りなさい」
ドアが開き手を繋いだグレッグとチェイスが入ってきました。
「お着替えに少し手間取り遅くなりました。申し訳ありません」
ターニャとハンナ達は苦笑いを浮かべたまま小さく頭を下げました。
チェイスを背に庇ったグレッグは不安そうな顔をしていますが、不満そうな顔をしていたチェイスは状況が理解できずグレッグの顔を見上げています。
その様子からすると脱走していたチェイスを探すのに時間がかかったのかもしれません。
お兄ちゃんですね。ちっちゃな騎士様はプルプル震えながらもノア様を睨んでいます。ゆっくりと立ち上がり近付いたノア様がグレッグ達の前でしゃがみ込むと、一歩後ろに下がったグレッグに押されたチェイスがタタラを踏みました。
「ふぎゃ!!」
抗議する子猫のような声を上げたチェイスの前で、顔を引き攣らせたグレッグは身体を少し仰け反らしたまま両手を広げました。
「グレッグとチェイスだね。久しぶりだけど覚えてるかな?」
「⋯⋯おじ、おじしゃんなんか、ちらない。チェイスはわるくないの! チェシュはいいこなの!!」
弟を守ろうとするグレッグの可愛らしい攻撃です。慌てすぎてチェイスがチェシュになってるのも堪りません。
おじさん呼びされたノア様が固まったのと声を出さずに笑っているコナー氏は見ないふりしましょう。
ターニャ、そこで頷くのは禁止です。わたくしだって笑いを堪えているんですもの。
「う、うん。グレッグもチェイスも悪くないよ。叱られると思ったのかな?」
「⋯⋯おにごこちてて、ねちゃってから⋯⋯しゃがちた。チェイス、ちさいの」
「グレッグは流石お兄ちゃんだね。チェイスを探して見つけてくれたんだ」
「うん⋯⋯⋯⋯おこなないの?」
「大丈夫、その程度で叱ったりしない。それよりグレッグはお話がすごく上手になってるね」
お父様とわたくしは今後の為に静観します。
以前会った事があるのはすっかり忘れているようですから、今が第一印象を決める大事な時ですね。子供達に良いイメージが出来るよう気配を消しつつ心から応援します。
「少し前に会った事があるんだけど覚えてるかな? 私の名前はノア・フォレスト。これからよろしく」
握手のために右手を差し出したノア様ですが⋯⋯。
しばらく首を傾げてノア様の顔を見ていたグレッグが『ハッ! おたな』と何かを思い出したらしくプイッと横を向いてしまいました。
「⋯⋯やだ」
「えーっと、なんだろう⋯⋯おたなって『棚』?⋯⋯うーん、何か気に触ることをしたのかな?」
理由が分からず慌てているノア様。わたくしやターニャ達も頭の上にクエスチョンマークが出ました。『おたな』は『お花』の事ですが、それとノア様の繋がりが分かりません。
理由が分かったらしいお父様は口元を押さえています。
お父様のそれって、笑いを堪えてます?
「おじしゃん、ちらい。チェス、かえろ」
「にぃ!」
グレッグがチェイスの手を引いて部屋に帰ろうとしはじめました。どうやら前途多難のようですがわたくしには理由が分かりません。
ノア様は途方に暮れたようにこちらを振り返りましたが、わたくしは首を傾げるしか出来ませんでした。
「厳しい事ばかり言って申し訳ありませんでした。幼い子供達を引き取るのは予想以上に大変な事です。ましてやフォレスト卿はまだお若い。我が家が他人を引き取るのとは世間の見る目が違います」
「お気遣いありがとうございます。周りからどのような目で見られるか、覚悟はしているつもりです。それと同時に長年の夢を叶えようとしているのですからラングローズ卿が心配されるのは当然だと思います」
「チェイスの問題とご自身の結婚問題を並行して進めるのは大変ではありませんか?」
「⋯⋯子供達がティアに引き合わせてくれた気がして、この奇跡を手放したくないんです。どちらを優先しても後悔しそうで、どちらも後回しにも出来ませんし諦めたくもないんです」
真っ直ぐな目でわたくしを見つめるノア様の顔は真っ赤になっておられます。
「仮にリリスと婚約するとしても、チェイスの危険が去るまで結婚を延期してもらえれば娘との時間が稼げそうな気がしたんですが」
悪巧みを失敗したと言わんばかりの顔で笑い声を上げたお父様の言葉にノア様が青褪めました。
「そう言えば⋯⋯申し込みはしたけどティアからの返事を聞いてない!」
あ、そう言えば確かに⋯⋯お父様が『本人次第』と仰られてそのままになっておりました。ノア様の後ろでコナー氏が吹き出しました。
「す、少し時間をいただけますでしょうか。先程のお話で少し混乱しておりますの」
動揺しすぎて手に汗をかくわたくしの顔を揶揄うように覗き込むお父様を睨みつけた時、コンコンとドアをノックする音が聞こえました。
「ターニャです、グレッグ様とチェイス様をお連れしました」
「入りなさい」
ドアが開き手を繋いだグレッグとチェイスが入ってきました。
「お着替えに少し手間取り遅くなりました。申し訳ありません」
ターニャとハンナ達は苦笑いを浮かべたまま小さく頭を下げました。
チェイスを背に庇ったグレッグは不安そうな顔をしていますが、不満そうな顔をしていたチェイスは状況が理解できずグレッグの顔を見上げています。
その様子からすると脱走していたチェイスを探すのに時間がかかったのかもしれません。
お兄ちゃんですね。ちっちゃな騎士様はプルプル震えながらもノア様を睨んでいます。ゆっくりと立ち上がり近付いたノア様がグレッグ達の前でしゃがみ込むと、一歩後ろに下がったグレッグに押されたチェイスがタタラを踏みました。
「ふぎゃ!!」
抗議する子猫のような声を上げたチェイスの前で、顔を引き攣らせたグレッグは身体を少し仰け反らしたまま両手を広げました。
「グレッグとチェイスだね。久しぶりだけど覚えてるかな?」
「⋯⋯おじ、おじしゃんなんか、ちらない。チェイスはわるくないの! チェシュはいいこなの!!」
弟を守ろうとするグレッグの可愛らしい攻撃です。慌てすぎてチェイスがチェシュになってるのも堪りません。
おじさん呼びされたノア様が固まったのと声を出さずに笑っているコナー氏は見ないふりしましょう。
ターニャ、そこで頷くのは禁止です。わたくしだって笑いを堪えているんですもの。
「う、うん。グレッグもチェイスも悪くないよ。叱られると思ったのかな?」
「⋯⋯おにごこちてて、ねちゃってから⋯⋯しゃがちた。チェイス、ちさいの」
「グレッグは流石お兄ちゃんだね。チェイスを探して見つけてくれたんだ」
「うん⋯⋯⋯⋯おこなないの?」
「大丈夫、その程度で叱ったりしない。それよりグレッグはお話がすごく上手になってるね」
お父様とわたくしは今後の為に静観します。
以前会った事があるのはすっかり忘れているようですから、今が第一印象を決める大事な時ですね。子供達に良いイメージが出来るよう気配を消しつつ心から応援します。
「少し前に会った事があるんだけど覚えてるかな? 私の名前はノア・フォレスト。これからよろしく」
握手のために右手を差し出したノア様ですが⋯⋯。
しばらく首を傾げてノア様の顔を見ていたグレッグが『ハッ! おたな』と何かを思い出したらしくプイッと横を向いてしまいました。
「⋯⋯やだ」
「えーっと、なんだろう⋯⋯おたなって『棚』?⋯⋯うーん、何か気に触ることをしたのかな?」
理由が分からず慌てているノア様。わたくしやターニャ達も頭の上にクエスチョンマークが出ました。『おたな』は『お花』の事ですが、それとノア様の繋がりが分かりません。
理由が分かったらしいお父様は口元を押さえています。
お父様のそれって、笑いを堪えてます?
「おじしゃん、ちらい。チェス、かえろ」
「にぃ!」
グレッグがチェイスの手を引いて部屋に帰ろうとしはじめました。どうやら前途多難のようですがわたくしには理由が分かりません。
ノア様は途方に暮れたようにこちらを振り返りましたが、わたくしは首を傾げるしか出来ませんでした。
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