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53.ブチギレするコナー秘書官

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「私に全て丸投げして行かれた公爵閣下におかれましては、このように早くおかえりいただけましたこと恐悦至極でございます」

 激おこですね。通常の主従よりもかなり距離が近いのでしょう、ストレートに嫌味を言っておられます。

「セルゲイ⋯⋯話は聞くからとりあえず落ち着いてくれ。そんな顔をしたら子供達が怖がる」

 気配を察知したターニャ達はコナー秘書官を遠巻きにしながら不安そうなグレッグと寝ているチェイスを連れて屋敷に入って行きました。フォレスト公爵様にエスコートされていたわたくしは逃げ出せず⋯⋯。

「それはそれは大変申し訳ありませんでした。幼児への配慮もできぬほど苛立って⋯⋯時間が押しておりまして。
それにいたしましてもお召し物はいかがなされましたか? この後王宮へ参内するご予定だったと記憶しておりますが、よもやお忘れになられたのでございましょうか。
閣下の要請で集まられる大臣の方々よりも優先せねばならない案件がどのような⋯⋯」

「セルゲイ、すまん! 続きは馬車で聞くから」

「はあ、全く⋯⋯『待て』もできんとは情け無い。言い寄るのは離婚が確定してからだろうが! もういい、さっさと行くぞ。
リリスティア様、離婚手続き完了おめでとうございます。こちらの単細胞が浮かれている間に詳細説明はお父上様にお伝えしてございますので、それ以外にご質問等ございましたら私共までご一報くださいますようお願い申し上げます。
では、この唐変木は回収させていただきます」

 澱みなく一気に話したコナー秘書官は簡易な礼をして馬車に乗り込みました。

「申し訳ありません。コナーは私の乳兄弟で⋯⋯信じられないと思いますが、あれでも大して腹を立てているわけではなくて。後日改めてご挨拶に伺います」

「今日はありがとうございました。お忙しい中長々と大変申し訳ありませんでした。コナー氏にもそのようにお伝え下さいませ」

「それではこのまま失礼致します」

 コナー秘書官と同じく簡単な礼をした後慌てたように馬車に向かいかけたフォレスト公爵様が振り返り⋯⋯。

「あの、花はお好きですか?」

「はい」

「ありがとう。ではまた」



 馬車が出発し速度を上げて走り去るのをぼんやりと眺めているとお父様の声がしました。

「中々面白い主従だったな。凸凹コンビと言うやつかもしれんな。フォレスト卿は生真面目な猪突猛進型のようだから腹黒いコナー氏が参謀としてちょうどいい組み合わせなんだろう。
少し遅くなったが食事にしよう。トーマス司教の話を聞かせてくれるかい?」



 白い離婚の手続きがあっさり終わったと説明するとお父様が大きく頷かれました。

「今回かなりの資料を添付したからなあ、奴等もケチがつけられんだろう」

「その為に大量の証拠を揃えておきましたから。ズルズルと引き摺ってしまい申し訳ありませんでした」

「リリスの考えも理解できていたし、そこは仕方なかっただろうと思う。これほど戦争が長引くとは誰も思わなかったしな」

「漸く終わってホッとしました」


 白い結婚の申請後、受理されるまでに時間がかかるのは相手方に連絡がつかない場合と不服を申し立てられた場合です。

 わたくしの場合は軍事刑務所に面会できさえすれば居場所はわかっているので、連絡は必ずつきます。

 白い離婚となると持参金の全額返金は確定ですし、今回の場合はわたくしの私物を不当に売却した分の請求と慰謝料も加算されます。

 先方の思い違いによって格上の貴族から押し付けられた強引な婚約であったにも関わらず、不当な扱いを受けていた事や長年に渡る不貞行為の発覚。マーベル一家が使い込んだ持参金だけでも法外な金額ですが慰謝料を含めると領地や爵位を手放しても足りないでしょう。

 なので白い結婚になったのは戦争で身動きが取れなかっただけなどと言い出しかねないと思ったのです。実際、そのような事例があったそうですの。

 医師の診断を不服とする人は割といるそうですし、初夜に泥酔した事実を隠蔽されたり休暇中に会ったことがあるなどと言われては面倒です。

 不服を申し立てられて無駄な時間がかからないように色々と証拠書類を揃えておきました。



「フォレスト卿への評価は?」

「頭もキレるし権力の使い所も弁えておられると仰っておいででした。あとは頑固なオナモミみたいだと」

 トーマス司教様がお茶の代わりにお水を出したり、子供達に怪しげなプレゼントを渡したりしていたのはフォレスト公爵様の反応を試していたのだと思います。

 その結果は『祝いに行く』につながっている気がします。



「オナモミか、それは合ってそうだなあ。で、リリスはどう思うんだ?」

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