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45.最高記録更新

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「お仕置きですか? それはぜひ参加させてください。コナーが帰って来るまでしばらく時間がありますし、お聞きしたいこともあるので」

 妙な連帯意識を持ったらしい2人と一緒に中庭が見えるコンベントリーに向かいました。

 わざわざ子爵家のメイド長のマーサがお茶を淹れに来てくれました。

「久しぶりね、元気だった?」

「はい、お陰様で元気にしております。中庭から可愛いお声も聞こえてますし楽しみが増えました」

「4歳のグレッグと1歳のチェイスで、チェイスが張り付いている方がハンナでもう1人はメイサって言うの、よろしくね」

「今回は一度に4人でございますか。最高記録更新ですね。では、ごゆっくり」



「本当に慌てないのですね」

 落ち着き払ったマーサの様子を見ていたフォレスト公爵様が感心したように頷いています。

「何しろ5歳でターニャを拾ってきたのを皮切りに毎年何人か連れてきますから『またか』と思う程度ですね」

「その人達は全員この屋敷に?」

「いえ、流石にそれは。この屋敷に勤めている者もおりますが大半はある程度経ったら他家に働きに行きました。貴族家や商会もありますしパン屋とか靴屋に就職した者もおります。
変わり種で言えば放浪癖のある医者と方向音痴の司祭ですかな。ああ、踊り子になりたい青年が一番心配でした」

「踊り子の⋯⋯青年ですか?」

 彼はトウーセル伯爵領にある男性のみの舞踏団に行きたいと言っていましたが、詳しく調べてみると東方の国にある特殊な舞踏団の事でした。行き倒れになっていたくらいなので遠い国まで行く旅費などなく仕事を紹介したところガテン系の筋肉モリモリになってしまったのです。

「向こうの国に着くまでに筋肉は落ちるだろうと送り出しました。時折手紙が届きますから元気にやっているようです」

 ガテン系の踊り子を想像したのかフォレスト公爵の顔が少し青ざめた気がします。



「で、リリス。何が問題だったか分かるか?」

 お父様の顔が本気ですから、さっぱり分かりません⋯⋯と言うのはマズそうです。

「勝手に資料をお渡しする約束をした事?」

 お父様の眉間に皺が寄ったので不正解ですね。

「フォレスト閣下はどう思われますか?」

「危機管理の概念が薄い、またはない」

「お渡ししたのはフォレスト公爵閣下です。ちゃんとお話をしてこの方なら大丈夫だと思うまで言いませんでしたもの」

 噂を鵜呑みにするのではなくちゃんと自分の目と耳で確認したのですから問題はありませんとも。

「そんな風に信用していただいたのは嬉しいのですが、今回の件での危機というのはリリスティア様自身に対する危機の予測です。
そう言う私も反省しています」

「あの資料をフォレスト閣下にお渡ししたのは問題ないが、人に渡すと言うことは他の人の目にも触れることになる。
裏付け調査から摘発までを1人でするのは不可能だから大人数で仕事をせざるを得ないが、その者達全てが信じられるとは限らない⋯⋯組織で動く者はそれを踏まえて行動している」

 どこにでも必ず反対意見を持つ人はいますし、悪意や裏切りや妬み⋯⋯想像しただけでも色々出てきます。

「もし誰かからあの資料の存在がマーベル伯爵家の誰かに知られたら、一番に疑われるのは?
外部からではわからない内容を知ることができ、家を比較的自由に動き回れる他人はお前だけだ。
第一の問題は、奴らにそれがバレたら自分の身が危険になると分かったつもりでいたこと。
第二の問題は、お前が危険に晒されたら資料を渡した私と受け取ったフォレスト閣下はどう思うか考えていなかったこと」

「あっ! 確かにその通りでした、わたくしが浅慮でした。申し訳ありません」

 自分さえ気をつければ大丈夫だと思っていましたし、何があっても資料を渡すと決めたのは自分なのだから⋯⋯と考えていました。その先に起きる可能性について考えることさえしていませんでした。



「では、どうするべきだった?」

「資料をお渡しした後マーベル伯爵家を出るべきでした」

「そうだな。今回、お前はそれが出来たのにしなかったんだ。子供達なんてさっさと連れて出てしまえばたいした問題にはならん。文句を言われたら虐待する奴のとこになど置いておけんと言い張ればよかったんだ」

「その通りです」

「私も後から出ると言うのを反対するべきでした。虐待の件だけでも危険があったのですから、もっと早く安全な場所に避難するよう言うべきでした。申し訳ありません」



「まあ、今回だけでなく私も色々反省するところがあるから偉そうには言えないんだが。お前の最大の欠点⋯⋯問題点を放置していた責任があるからな」

 欠点⋯⋯思い当たるところがありすぎてどれのことを仰っているのか選べないくらいです。

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