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37.過去の亡霊
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フォレスト公爵様は席についてターニャが淹れたお茶を美味しそうに召し上がられました。美味しいですよね? ターニャは侍女としても護衛としても最高ですもの。
フォレスト公爵様は容姿だけでなく性格も素晴らしい方のように思います。親切心ではなく気に入った女性と結婚して下さいね。
「以前私が婚約していた事があるのはご存知でしょうか」
「はい、そのような噂を聞いた事がございます」
またまた話が変わりました。今度はどのようなお話なのでしょう。
「その時は親の勧めと言いますか所謂政略というやつでした」
「貴族の婚姻の大半は政略で決まりますから」
「はい、それもまあ相手方から破棄されてしまったのですが⋯⋯いつ終わるかもわからない戦争で、戦地からいつまで経っても戻らない私に呆れたと言われました。
私はその⋯⋯その婚約者以外殆ど女性と交流した事がなくて、リリスティア様に自分の気持ちを上手く伝えられなくて情けないのですが⋯⋯今の結婚に続ける理由がないのであれば私との結婚を考えていただけないでしょうか」
「それは、つまり⋯⋯えーっと、え?」
「本気で結婚を申し込んでいます⋯⋯理由はまだ話せないのですが、リリスティア様と同様に私にも子供達を引き取りたい理由があります。
リリスティア様とは利害の一致のようなものも無くはないのですが、夜会でお見かけして⋯⋯と言うのは本当の事なんです。
あれ以来夜会の度に探していましたがお会いできず幻だったと諦めて、父上からの婚約話を受け入れました」
背筋を正して真剣な表情で話して下さっていますから本気⋯⋯としか思えないのですが⋯⋯夜会ですよね。
「先日マーベル伯爵家でお会いして直ぐにあの時の令嬢だと気付きました。マーベル伯爵家の者達がリリスティア様を貶めるような態度だったので頭に血が上って⋯⋯。
よくやく出会えたこの縁を失いたくないんです。結婚しておられる方と交流を深めるのは問題があるので、もし離婚が確定しておられるなら延期などしないでいただけないでしょうか。
離婚した後、私の為人を知っていただく時間をくださいませんか?」
「お断りするかもしれませんし、無駄な時間になってしまう可能性の方が高いと思いますけど?」
「何もできず終わるよりも何倍もマシですから。断られたら努力不足か私の魅力不足だと諦めます」
「わたくしは夜会に一度しか参加した事がないのでどなたかと勘違いしておられるのだと思います」
「藤色のドレスで裾の方に花模様が染められて⋯⋯上半身には多分金糸とか銀糸の刺繍が刺してあったんじゃないかと思います。
肩から襟にぐるっと濃い紫のリボンみたいなのがあって、胸の真ん中に金色の花と濃い緑の葉がありました。細い袖口のとこのレースがキラキラしていたので宝石がついていたんじゃないかと思います。
ハーフアップにした髪に編み込んだ濃い紫のリボンと金や緑の宝石のついた髪飾りが見えました」
胸元につけていた金の花はお父様からのプレゼントで髪飾りはお兄様から届いたどちらもわたくしのお気に入りの品です。7年も前のことなのに驚きすぎて何を言えば良いのかわかりません。
「ダンスに誘うかせめて名前だけでもと思ったんですが中々近くに寄れなくて⋯⋯ダーベナント侯爵家の夜会だった。合ってますか?」
「はい、合ってます。デビュタントの日に怪我をしてしまって⋯⋯その代わりにってお父様が連れて行って下さったんです。怪我していたので短い時間しかいられなくて、誰ともダンスせずお友達とお喋りしてすぐに帰りました」
「友達が渡したグラスにお酒が入ってた?」
「ええ、まだ未成年なのに間違って飲んでしまいそうになって⋯⋯見てらしたんですか!?」
「眉間に皺を寄せてクンクンしてたのが可愛かったです」
「まあ! そういうのは忘れてくださらないと。最初で最後の夜会の黒歴史なんですから」
「目の前でニヤケていた男の子が突然顰めっ面になったので、その後こっそり足を踏んだんじゃないかと」
「ふふっ、思いっきり踵のヒールに体重をかけて踏んでおいたので、あの後のダンスは大変だったみたいです。そんな事にまで気付かれたなんて、随分近くにおられたんですね」
「若い学生の勢いに負けて周りをその⋯⋯情けないですね」
緊張が解けたのかフォレスト公爵様の言葉が所々くだけて⋯⋯ほんの数日でいろんなお顔を見せていただいている気がします。
それにしてもたまたま7年前の過去の亡霊が現れただけで、あっという間に幻滅されそうな予感しかありません。
時間が経てばすぐに⋯⋯。
「それで⋯⋯その、離婚の延期は中止していただけないでしょうか」
フォレスト公爵様は容姿だけでなく性格も素晴らしい方のように思います。親切心ではなく気に入った女性と結婚して下さいね。
「以前私が婚約していた事があるのはご存知でしょうか」
「はい、そのような噂を聞いた事がございます」
またまた話が変わりました。今度はどのようなお話なのでしょう。
「その時は親の勧めと言いますか所謂政略というやつでした」
「貴族の婚姻の大半は政略で決まりますから」
「はい、それもまあ相手方から破棄されてしまったのですが⋯⋯いつ終わるかもわからない戦争で、戦地からいつまで経っても戻らない私に呆れたと言われました。
私はその⋯⋯その婚約者以外殆ど女性と交流した事がなくて、リリスティア様に自分の気持ちを上手く伝えられなくて情けないのですが⋯⋯今の結婚に続ける理由がないのであれば私との結婚を考えていただけないでしょうか」
「それは、つまり⋯⋯えーっと、え?」
「本気で結婚を申し込んでいます⋯⋯理由はまだ話せないのですが、リリスティア様と同様に私にも子供達を引き取りたい理由があります。
リリスティア様とは利害の一致のようなものも無くはないのですが、夜会でお見かけして⋯⋯と言うのは本当の事なんです。
あれ以来夜会の度に探していましたがお会いできず幻だったと諦めて、父上からの婚約話を受け入れました」
背筋を正して真剣な表情で話して下さっていますから本気⋯⋯としか思えないのですが⋯⋯夜会ですよね。
「先日マーベル伯爵家でお会いして直ぐにあの時の令嬢だと気付きました。マーベル伯爵家の者達がリリスティア様を貶めるような態度だったので頭に血が上って⋯⋯。
よくやく出会えたこの縁を失いたくないんです。結婚しておられる方と交流を深めるのは問題があるので、もし離婚が確定しておられるなら延期などしないでいただけないでしょうか。
離婚した後、私の為人を知っていただく時間をくださいませんか?」
「お断りするかもしれませんし、無駄な時間になってしまう可能性の方が高いと思いますけど?」
「何もできず終わるよりも何倍もマシですから。断られたら努力不足か私の魅力不足だと諦めます」
「わたくしは夜会に一度しか参加した事がないのでどなたかと勘違いしておられるのだと思います」
「藤色のドレスで裾の方に花模様が染められて⋯⋯上半身には多分金糸とか銀糸の刺繍が刺してあったんじゃないかと思います。
肩から襟にぐるっと濃い紫のリボンみたいなのがあって、胸の真ん中に金色の花と濃い緑の葉がありました。細い袖口のとこのレースがキラキラしていたので宝石がついていたんじゃないかと思います。
ハーフアップにした髪に編み込んだ濃い紫のリボンと金や緑の宝石のついた髪飾りが見えました」
胸元につけていた金の花はお父様からのプレゼントで髪飾りはお兄様から届いたどちらもわたくしのお気に入りの品です。7年も前のことなのに驚きすぎて何を言えば良いのかわかりません。
「ダンスに誘うかせめて名前だけでもと思ったんですが中々近くに寄れなくて⋯⋯ダーベナント侯爵家の夜会だった。合ってますか?」
「はい、合ってます。デビュタントの日に怪我をしてしまって⋯⋯その代わりにってお父様が連れて行って下さったんです。怪我していたので短い時間しかいられなくて、誰ともダンスせずお友達とお喋りしてすぐに帰りました」
「友達が渡したグラスにお酒が入ってた?」
「ええ、まだ未成年なのに間違って飲んでしまいそうになって⋯⋯見てらしたんですか!?」
「眉間に皺を寄せてクンクンしてたのが可愛かったです」
「まあ! そういうのは忘れてくださらないと。最初で最後の夜会の黒歴史なんですから」
「目の前でニヤケていた男の子が突然顰めっ面になったので、その後こっそり足を踏んだんじゃないかと」
「ふふっ、思いっきり踵のヒールに体重をかけて踏んでおいたので、あの後のダンスは大変だったみたいです。そんな事にまで気付かれたなんて、随分近くにおられたんですね」
「若い学生の勢いに負けて周りをその⋯⋯情けないですね」
緊張が解けたのかフォレスト公爵様の言葉が所々くだけて⋯⋯ほんの数日でいろんなお顔を見せていただいている気がします。
それにしてもたまたま7年前の過去の亡霊が現れただけで、あっという間に幻滅されそうな予感しかありません。
時間が経てばすぐに⋯⋯。
「それで⋯⋯その、離婚の延期は中止していただけないでしょうか」
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