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26.何故か驚いたフォレスト公爵閣下

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「それで⋯⋯後ろの方々は?」

 大きく息を吐いたフォレスト公爵様は少し苛立っておられるように感じました。まあ、当然ですよね。心中お察しいたします。

「ふ、2人はステファンの⋯⋯子でございまして、それと⋯⋯世話をしております者でございます」

 人の壁が割れて正面に現れたフォレスト公爵様の眉間には皺が寄り、部屋の中に再び緊張が走りました。

「貴女は⋯⋯えっ!?」

 ツッコミどころ満載の状況ですからどこに驚かれたのかわかりませんが、さっさとご挨拶して部屋に下がりましょう。

「お初に御目文字いたします、リリスティアでございます。わたくしが抱いておりますのが兄のグレッグ、隣の幼子がチェイスでございます」



「リリスティア様はラングローズ子爵家から嫁いで来られたはず。この家では正妻をまるで侍女か乳母のような粗略な紹介をするのですか?」

「そ、それはその」

 コナー氏の質問にマーベル伯爵が言い淀み必死に汗を拭いています。

「この子達は屋敷についたばかりでございまして⋯⋯慣れない環境に戸惑わないようにリリスティアに世話をさせております」

 お義母様のフォローでお義父様の背が少し伸びたような気がします。

「ああ、確かその子供達は辺境伯領で産まれたのだったかな」

「覚えていてくださり感謝致します。その際はフォレスト閣下からもお祝いのお言葉をいただきました」

 失態を取り戻そうとステファン様が必死で頑張っておられます。他人事ですが頑張って顔合わせを終わらせてくださいませ。わたくしの腕がグレッグの重みでプルプルしておりますから。

「そうか⋯⋯しかし、目の前にいる母親に手を引かれずさぬ仲の奥方と親しげなのはとても不思議な光景ですね」

「リ、リリスティアは子供の扱いに慣れておりまして」

「その子供達はマーベル伯爵家の庶子。公爵家当主の私の前に連れてきた理由は?」

 公爵様の冷ややかな声に誰かが『ひぃ!』と引き攣った声を上げた。



「⋯⋯⋯⋯し、庶子ではなく⋯⋯ちゃ、嫡子でございます」

 マーベル伯爵がとんでもない事を言い出しました。

「ほう、嫡子ですか」

「は、はい。父は我が息子ステファンで母は正妻のリリスティアでございます」

「は!?」

 思わず淑女らしからぬ声を上げてしまいました。だって、わたくしが母と聞こえてしまいましたの。

 お義父様が突然耄碌したとは思えませんし、わたくしも耳の病を患ってはおりません。お義父様は一体何を言い出したのでしょうか?

「その2人の子供はリリスティア様の実子だと?」

「⋯⋯は、はい」



「ここからはわたくしが説明させていただきます。実は先日、ある所から執務中に問い合わせがありまして。内容は、マーベル伯爵家嫡男のステファン様とラングローズ子爵家長女リリスティア様の結婚した日付の一週間後、第二夫人としてビビアン様を籍に入れておられるのは間違いないかとの問い合わせでした」

「⋯⋯は、はい。間違いありません」

 お義父様が小さな声で返事をしました。お義父様がステファン様のどちらかがわたくしのサインを偽造されたのですね。

「それと同時にグレッグ様とチェイス様がステファン様とリリスティア様の実子として届けられた書類も見つかったそうですが?」

「そ、それも間違いありません」

 コナー氏の冷ややかな問いかけに項垂れたり顔を背けているのは⋯⋯マーベル一家とビビアン様とエマーソンもです!!

 フォレスト公爵閣下、わたくしは知らなかったのですからそんな怖い顔で睨まないで下さいませ。彼等の仲間じゃありません、被害者ですから。


「部隊長に確認したのだが、ステファンはそこのビビアンと言う女性との間に二児をもうけたはず。私や部隊長の記憶は間違っていたのか?」

「⋯⋯そ、それはその」

「ハッキリと返事を聞かせてもらおう。マーベル中尉、今回見つかった書類は真実か? それとも偽造か?」



 なんでそんな愚かな事をしたのでしょう。グレッグ達をわたくしの子供として届出をしておいてバレないと思ったのでしょうか。

 第二夫人の籍を入れるときのわたくしのサインは⋯⋯偽造したのでしょうが、子供をわたくしの子だとする必要が⋯⋯⋯⋯ああ、マーベル伯爵家の考えが理解できました。

 第二夫人になった後に産まれた子供なら嫡子となりますが、ビビアン様は平民です。片親が平民だと言うのが許せなかったのでしょう。選民意識の高いマーベル伯爵家の考えそうな事です。

 一体いつそのような偽装をしたのか少し気になります。

「マーベル中尉、真実のみを述べろ! ことと次第によっては軍法会議にかけねばならん」

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