【完結】子供を抱いて帰って来た夫が満面の笑みを浮かべてます

との

文字の大きさ
上 下
7 / 99

7.ハイスペックな使用人達に助けられて

しおりを挟む
「若奥様、イシスです」

 イシスはこの屋敷のメイド長です。子爵家からついてきてくれたターニャ程ではありませんがかなり信用のおける人物です。ノックの音と人の声に青褪めたグレッグの背中に手を当てて返事をします。

「どうぞ」

 そっとドアが開き顔を覗かせたイシスでしたが、落ち着いた様子のグレッグを見て口元に笑みを浮かべて部屋に入ってきました。

 イシスも子供の癇癪には慣れていないようなのでそこは早急に説明しておかなくては⋯⋯。執事と同様にイシスを味方につけられたら今後のグレッグ達は心配ないでしょうから。

「グレッグ様達のお食事はどちらにお持ちすればよろしいでしょうか」

「ビビアン様とは別のお部屋にしましょう。今夜はわたくしも側について世話をするので小さな子供に慣れたメイドを2人呼んでくれるかしら」

「⋯⋯では青の間ではいかがでしょうか?」

 青の間はこの部屋から一番近い客室ですから、メイド長はグレッグ達をわたくしに丸投げする気満々のようです。

「そうね、グレッグ達と青の間にいます。チェイスは起きそうにないからグレッグとわたくしだけ先にいただきましょう」

「若奥様は食堂に行かなくてよろしいのですか?」

 食堂ではマーベル一家が美味しい料理に舌鼓を打っているでしょうがわたくしの居場所にはビビアン様がいるはず。

 笑顔でこき下ろすお義母様達の口撃を受けるよりグレッグ達のお世話の方が有益ですわ。

「ええ、今はグレッグ達が落ち着くことが最優先だと思うからそのようにお義母様達には伝えてくれるかしら。
それと⋯⋯何か気になる事があれば後で教えてくれると助かるわ」

「畏まりました。若奥様の優しさに使用人一同頭が下がる思いでございます」

 深々と頭を下げたメイド長が退出すると俯いていたグレッグがモゴモゴと小声で何か呟きました。

「⋯⋯る?」

「ん? もう一度言ってくれるかしら」

「おこる?」

「怒らないわ。でもちょっと驚いたかな」

「ごめんなさい」

 ちゃんと謝れるのはお利口さんです。

「次に物を投げたくなったら『投げるよー』って教えてくれる?」

「へ?」

「そうしたらこうやってガードできるでしょ?」

 枕を頭の上に乗せてにっこりと笑うと、キョトンとしていたグレッグがプハッと吹き出しました。なんて可愛い笑顔⋯⋯いえいえ、そうではなくて⋯⋯孤児院の小さなお友達に教えてもらった最強防御なのですけど笑われちゃいましたね。



 チェイスを抱いてドアを開けて欲しいと頼むとグレッグが嬉しそうに天使の笑みを浮かべました。

「ありがとう。お腹すいたからご飯食べに行きましょうね」

 わたくしが部屋を出た後グレッグは静かにドアを閉めて横に並びました。見上げてきた顔に『えらい?』と書いてあるのが堪りません。間違いなく尻尾振ってますよね。両手が塞がっていて頭を撫でられないのが残念ですがにっこりと微笑むと再び天使の笑顔を見られたのでラッキーです。

 青の間に入るとメイド長のイリスと一緒にいたのは伯爵家に来て間もないメイド見習いのハンナでした。ハンナには少し歳の離れた弟2人と妹がいたはずですから⋯⋯メイド長のチョイスは流石です、抜かりありません。

 子供用の椅子が準備されていますが少し古いのでマーベル兄妹の使っていた物なのでしょう。ベッドの近くには立派な彫刻が刻まれたベビーベッドも置いてあり、布団も準備済みでしたので安心してチェイスを寝かせる事ができました。

 ガチガチに緊張して入り口近くに立ち尽くすグレッグを手招きして椅子に座らせて食事をはじめました。

 パンとスープに温野菜。わたくしの前には鴨のローストですがグレッグには一口サイズに切った鶏のローストでしたから4歳の子供にはちょうどいいでしょう。グレッグのスープはベーコンと刻んだ野菜に変更されています。

 大急ぎで子供用の料理を準備してくれた料理長にもお礼を言っておかなくては。

 こんな短時間で色々準備してくれた使用人達には感謝しかありません。若奥様と呼ばれているわたくしが差配出来ていないのに全て準備をしてくれている使用人達のスペックの高さにいつも助けられています。

「いつもありがとう。短時間でここまで準備してくれるなんて、とても助かったわ」

「とんでもございません。この程度のことでしたらいつでも」



「グレッグ、苦手なものはあるかしら?」

「⋯⋯わかんない」

「じゃあ、とりあえずいただきましょう」

 食事の前に感謝の祈りをする事を知らないのは予想通りでしたので今日はそのまま黙って見ておく事にしましたが⋯⋯。

しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

処理中です...