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第三章

41.ようやく見つけた手掛かりだから

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「で、どこで会ったの? どこで見たのか言いなさいよぉ」

(それそれ、言いなさいよぉ~。蟻チャンも待ってるんだからぁ)

「この情報は高いわよ~、1週間分の昼食代ね」

「げげっ⋯⋯う~、分かった。でもショボいネタだったら却下だからね!」

「聞いて驚け! 宿舎の北側の壁に秘密のドアがあったの~。グリーズ様が鍵を閉めた途端ドア自体が消えたから、魔法で隠してるんだよ」

「マジ!? んじゃあの辺りでたまに目撃情報があるのってそこから出入りしてるって事? 北側⋯⋯北側の1階って何があったっけ?」

「バカだねぇ、職員用の食堂じゃん。多分だけど外の壁と食堂の壁の間にスペースがあってどっかに繋がってるんだと思う」

「うっわ~、秘密の通路とか超カッコいいじゃん! も~戦士様からベルセルクに格上げしちゃう! 専用の秘密基地があったりするのかなぁ、はぁ~もう最高すぎて溶けちゃいそう」

(よいしょっと、話は聞いたし、お外で日向ぼっこでもするか。北側⋯⋯外から出入りできたとはねえ)



 ちまちまと足を動かして病院の外へ向かうジェニ蟻の横をリンドが通り過ぎた。

(全然気づかねえなぁ。こ~んなに近くにいんだし、リンドの鑑定をしてみてえがバレたら一撃でプチって潰されるしなぁ~。何日もかけてようやく辿り着いた情報だからね~、用心用心。五体満足なままでリアに会いてえしな。アリがリアに会いたいっと⋯⋯短えが回文だな)

 その頃、グロリアがグラネの『がちん』を体験しているとは知らないジェニはせっせと4本足を動かしていた。



 ジリジリと焼け付く暑さの中で蟻から蠅にチェンジしたジェニは宿舎の北側の壁が見渡せる木陰を探して飛んでいた。

(暑いねぇ、喉乾きすぎて蝿のミイラになりそう。ちっこすぎて誰も気付かんけどね~。あちこちに隷属されてる職員がいるから変身解くのはヤベェしなぁ)

 宿舎の白い壁を横目に見ながら飛んでいるとジェニが弱い魔力を感知すると同時に壁に両開きの大きな扉が現れた。

(ムムム、でか! めちゃめちゃでけえ扉じゃん、その奥は⋯⋯)

 リハビリセンターの職員達と同じVネックのスクラブを着ているが彼等より大きく張り詰めた筋肉のグリーズが出て来て、鍵をかけるようなそぶりをすると同時に扉が消えた。

(ふーん、あの扉はドヴェルグの魔導具だな。中にあったのは転移魔法陣⋯⋯足を踏み入れた途端移動するのがどこか分かんねえがそこにダーインスレイヴがあると見た。めっちゃ、めんどくせえじゃん)

 ジェニは離れたところからグリーズを追いかけはじめた。



 病院に入ったグリーズがまっすぐ院長室に向かっているらしいと目星をつけたジェニは先回りして2階の院長室の窓に張り付いた。

(お~、真面目に仕事してるじゃん。こうやって見てっとストイックな医者って感じだよなあ。そういやあ昔は真面目な司法神だったのに、どこで道をズレてったのかねぇ⋯⋯)

 ノックもなくドアが開きグリーズが入って来た。

「こんな時間に出てくるなんて珍しいね。何かあったのかな?」

「そろそろマルデルを切ったらどうなんだ?」

 執務机の前で仁王立ちしたグリーズがイラついた様子で机を叩いた。

「⋯⋯座って話を聞かせてくれるかな?」

 執務机に手をついて立ち上がったリンドがお茶の準備をはじめると、諦めたように溜息をついたグリーズがドカドカと歩き勢いよくソファに腰を下ろした。

「お前の計画には賛成してるがあの女を飼っておく必要があるとは思えん」

「そんなに酷いの?」

「ドヴェルグの最優先は例の剣のはずだが、ネックレスを直せと騒いでまた暴れた。直せないならブリーシンガメンに匹敵するネックレスを作れだとか⋯⋯。
お陰で俺はメテオリックアイアンを探しに行く必要ができた。あの女は相変わらずセイズを思い出す気配もないしな」

「トランス状態になるために必要な薬は手に入らないし、フレイヤは呪歌を思い出せない。確かに役立たずだね。
やはりレーラズの葉がなければ薬は作れないのかな」

 テーブルにお茶を置いてグリーズの向かいに座ったリンドが足を組みながらカップに手を伸ばした。

「ドヴェルグ達はそう言ってるが、本当かどうかはわからんな。あの薬を作っていたのはヴォルヴァであってドヴェルグ達ではなかった」

「レーラズの樹は焼け落ちた。フヴェルゲルミルの泉の水があればできるはずだがニブルヘイムへの道は閉ざされている⋯⋯八方塞がりというやつだね。
でも、あの女には重要な役目があるから、簡単には捨てられないって知ってるだろう?」

「ロキを誘き寄せる駒だろう? とっくにこの町に来てコソコソやってるじゃないか。
ドヴェルグの結界でこの町に閉じ込めてしまえばどこにも逃げられんのだからマルデルはもういらんだろう?」

「だけどね、少し気になるんだ。一緒に行動しているグロリアは本当にただの『役立たず』だと思うかい? 彼女があの5人を相手に無傷で切り抜けたその方法が分からないんだ。
フレイヤはあの時いた教授が何かしたんだと言ってるけど、アレはミーミルだからテュール達を相手に戦えるほどの力はない。
ロキがあの時いたなら別だけど、いればフレイヤが大騒ぎしてるはずだしね」

「ロキのどこが良いのかかけらも分からんがあの女は夢中だからな」

 ふんっと鼻を鳴らしたグリーズがお茶に手を伸ばした。

「お陰でフレイヤを手玉に取れてるんだから、ロキ様々だよ」

 クスリと笑ったリンドが立ち上がりお菓子の乗った皿を運んできた。

「オッタルは簡単に放り出して来たけどな」

「ロキはすぐに逃げ出すけどオッタルはいつでも喰えるからね。フレイヤが呼べば尻尾を振って走ってくる駄犬だから」

 バリバリと音を立ててお菓子を噛み砕いたグリーズがポロポロとこぼれ落ちたかけらをはたき落とすとリンドが顔を顰めた。

「グリーズ、その雑な食べ方が直ってくれると掃除が楽になるんだが」



「僕達の事は知られていてもフレイヤを抱えておけばロキは勘違いしたままでいるから何が起きているのかまで気付かない」

「どう言う意味だ?」

「フレイヤの狙いは知っているよね。あの女はここにアースガルズを作り頂点に君臨する事。全ての元神族と元巨人族を跪かせてロキを隣に侍らせたいんだ。愚かとしか言えない計画だけど、それを後押ししていると思わせておけば僕達の目的に気付かれずに済む。
予想通り、フレイヤが嫌っているグロリアを手土産にロキはここへ来たが、フレイヤの前に来るまで気を緩めるわけにはいかないんだ。何しろ奴の気まぐれと逃げ足は天下一品だからね。
大切な生贄を一番効果的な時に切り捨てれば確実に奴の背後がとれる。奴には強力な仲間がいるから油断は禁物だよ」

「テュール達を連れて来させる予定だったのにあの女がヘマをやりやがったからな」

「そう、大番狂せだよ。フレイヤにテュール達を連れて来させ僕達の為に働かせるつもりだったのに今は散々な状態らしいし。
あのネックレスを作ったブロックとエイトリは行方知れずだから作り直しもできないし、機能しない原因もわからない。問題が多すぎて手詰まりなんだ」



「なら、ひとつずつ解決するしかないよな。まずは⋯⋯」

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