前世が勝手に追いかけてきてたと知ったので

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第三章

23.勘違いしたままでもスムーズに

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「えーっと⋯⋯その⋯⋯俺の目標は⋯⋯クソ野郎とクソビッチの息の根を止めることだって知ってるよな。その為に俺は今世で初めて人として転生したわけだが⋯⋯⋯⋯次はねえんだ。つまり、これが終わったら俺は消えるって事なんだ。
それでも転生するぞって決めた時に『何も欲しがらない』と決めた。それまでに何かを欲しいとか思った事もなかったし、いいかなって思ってよお。
ところがグロリアに⋯⋯あん時はまだ花梨か?
とにかくお前が目の前に現れてだな⋯⋯その、悩んだわけだ。お前にはこれから先も人生が続いてくが、俺はクソ野郎討伐に行く。別々になるって決まってんならはなから手に入れなけりゃいいって。
で、学園に入学するってなった時⋯⋯チャンスだって思っちまったわけだ。
グロリアは俺と離れて人間の中で生きてく、俺はグロリアと離れて俺の世界で生きてく。その練習?ってやつにちょうどいいってな。
で、一年は何があっても顔を出さねえって決めてた。ヘルの部屋でグロリアの奮闘を見ながら頑張ってみたんだ。ガキどもにはヘタレの変態だってボコボコにされたけど、ここを耐えれば! みたいに意地になってて。
グロリアがすんげえ頑張ってるのを見てて⋯⋯俺は我慢できなくなって早々に学園に編入したわけだ。
でもなぁ⋯⋯今回グロリアが一人でいなくなっちまって初めて気付いたんだよ。入学ん時離れたのなんて意味がなかったって。一年って決めてもずーっと鏡を覗いてたら全然離れてなんかいなかったって事だろ?
転移の練習やら料理やら頑張ってるの見て『もうグロリアは帰ってこない』って思ったら⋯⋯誤魔化せなくなった。んだから、恥を忍んでグリモワールに頭を下げて相談したんだぜ。
で、ここで待ってた。転移の練習中に会いに行かなかったのは行ったら邪魔をするだけだって分かってたのと、ある程度自由に転移できるようになって欲しかったからだな。
前みたいに転移先の指定が必要だったら逃げた先で待ち伏せされたら終わりだろ? 今ならかなり自由に転移できるし、その後の軌道修正もできるからな。
⋯⋯クソ野郎と戦う時グロリアは間違いなく俺の弱点になる。グロリアが弱いからとかじゃなくて、奴は正攻法よりもそっち⋯⋯弱点を狙ってくるのが間違いないからだ。だから、いつでも確実に逃げられるようになっといて欲しかった」

 一気に話し終えたジェニはコーヒーカップに水を出して一気に飲み干した。

「プハー! こんなに長文話したの初めてかも、気力も体力も削がれてダウン寸前だぜ」

 赤い顔のジェニが照れくさそうに腕を組んで、窓から外を見ながら『ひやぁ、マジ緊張する~』と呟いた。

「⋯⋯私は、その⋯⋯前世を思い出してから頭の中が実年齢とは差が出はじめて、リア・ファルが人の名前だって思った時初めて気が付いたの。あー、これがヤキモチってやつなんだなあって。それまではモヤモヤの意味が分かってなくて。
でも、ジェニにキッパリとフラれたし⋯⋯奥さんがいたの思い出したしで諦めてた。友達でいてくれるだけで十分だって決めたの。
それなのに、マルデルの話がすごくリアルだったから『ジェニもマルデルの方が』って思ったら⋯⋯どうしてもマルデルだけは嫌だったの。振られたんだからそんな事を思うのは間違ってるって思っても我慢できなくて。
諦めの悪い自分をなんとかしたいなって思うのと二人が一緒にいるのを見たくないのとで、ひとりでマルデルと戦うことに決めたの。
戦って負けたら諦められるかもって思ったり。運良く勝てたらダーインスレイヴだけは神界に返してもらってさ、それで終わりにすれば良いじゃんって思ったり。目の前で見なければ忘れられるかな~って」

 カウンターのすぐ奥が厨房になっているらしくパンの焼けるいい匂いが漂ってきた。ジュージューと油のはぜる音と鼻歌というには大きすぎる調子外れな歌声。

 それはこの世界ではグロリアが知らなかった平穏な暮らしと平和の音で、懐かしく切ない記憶と結びついていた。

「グリちゃんに会ったらお礼言わなくちゃ。まさかジェニとグリちゃんがこっそりお喋りしてたなんて思わなかった~」

「も~大変だったぜ。うちのガキどもみたいに手がでない分口撃が凄くて」

「グリちゃん、手がないもんねぇ」

「あの様子じゃいつか手と足が生えてくんじゃねえか?」

「だったら口も欲しいなぁ、一緒にご飯食べれたら嬉しいかも。野宿した時一緒に食べれたら楽しいだろうなぁって思ってたんだ」

 グロリアの料理を見て『食事ができない体質で良かった』と思っていたのはグリモワールだけの秘密。



 カウンターの上に料理が並び跳ね上げカウンターから出てきた婦人⋯⋯店主のアビーが声をかけた。

「料理できたけど持ってってもいいかい?」

 わざわざ離れた場所から聞いたアビーがにんまりと笑うのを見て、慌てて手を離したジェニが咳払いをしてアビーを睨んだ。

「も、もちろん。あー、腹が減ってヘロヘロだし~」

「この後のお楽しみの為にもし~っかり食っとかなきゃね。男が先にへばったら目も当てらんないからねぇ」

 両手に皿を持って運んできたアビーがテーブルに料理を置いてジェニの背中を景気良く叩いた。

「ゲホッ」

 はじめは意味がわからなかったグロリアだが、フギンと会う約束をしているのを思い出した。

「この後? あ、アビーさんの言う通りだね。ジェニはしっかり食べて体力つけておいてね」

(すっかり忘れてた~、フギンとはほとんど話したことがないからジェニ任せになる可能性が高いもんね)

「⋯⋯プハハハ! 兄ちゃん、ここまで期待されるなんざ男冥利に尽きるじゃないか。こりゃあ気合を入れて頑張んないとね~」

(え~、そこまで大変かなぁ。頑張るのはエルにゃとグラネちゃんだよね~。
あ、ジェニはさっき気力も体力も使い果たしたって言ってたんだった。アビーさんくらいになるとぱっと見でそういうのもわかるのかもね)

「うん、ジェニいっぱい食べて頑張ってね。楽しみにしてるから」

「グロリア、勘違いしたまま話をスムーズに繋げられるその特技をなんとかしてくれ」

「え? やだなぁ、勘違いなんてしてないよ。ちゃ~んと分かってますって」

(実年齢13歳と前世の21歳が混在したせいでバグってるのかとも思うが、多分天然で間抜けなグロリアの個性ってやつだよな~。
これはこれで可愛いが、今みたいに笑えん状況が増えてきて⋯⋯ヘル達の格好の餌食なんだよなぁ)



 焼きたてのパンにはバターとジャムが添えられ、しっかり煮込んだシチューとの相性は抜群だった。香草で漬け込んだ分厚いステーキは血が滴るレアで、ジェニの前に出てきたのはグロリアのステーキの3倍はあった。この世界では珍しい生野菜のサラダにグロリアは目を輝かせた。

「うわぁ、生野菜のサラダ!」

 デザートまで完食した2人は店を出て暗くなりはじめた道を屋敷に向かってゆっくりと歩きはじめた。



「この町にはスラムがないんだよね。異世界のいいとこ取りをしたみたいな町だからここにしばらく滞在した後は大変かも」

 上下水道完備でゴミの収集も定期的に行われ、魔石を使った街灯や定期巡回する警吏が町の安全性を高めている。

「やっぱこんな感じの町の方がいいよな? て言うか、前の世界に戻りたいだろ?」

(花梨の世界は便利そうだもんな。あっちの世界に今でも戻りたいんだろうな)

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