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第二章

92.主人公達が消えた国

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 学園の生徒や教職員達の状態はいくつかの段階に分かれていた。

 虐めを行なっていた者達は完全に力をなくし、騒ぎ立てていた者達はごく低級の魔法しか使えなくなっていた。

 事件について全くノーコメントを貫き、虐めなどにも加担してしなかったごく僅かな者は今まで通り。

 学園は魔法実技の授業のみ自習と決めたが、休学する生徒が多い上に魔法が使えなくなった生徒達の保護者が連日押しかけ、教師達はその対応に追われほとんどの授業が自習になっている。


 マルデル・J・バナディスは行方不明のまま退学と発表された。

 処分保留になり自室に閉じ籠ろうとしたティウ達4名だったが、当然のことながら家に居場所はない。生徒達が登校する前に医務室登校し夕闇に紛れて下校。そのそばにはロズウェルが付き纏い、ほぼ実験動物扱いで原因を調べられていた。

『せせ、先生⋯⋯ももも、もう⋯⋯あ、漏れるぅ』

『グルグル⋯⋯プスっ』

『えぐっえぐっ⋯⋯か、顔がぁ』

『おい! さっさとなんとかしてってばぁ』

『ぜーったいに解明してやるからなぁ! そん時は覚悟しやがれぇぇぇ』

 ティウ達の為ではなく、自身のプライドの為だけに実験を行うマッドサイエンティスト⋯⋯ロズウェルの叫び声が毎日のように響き渡っている。


 エイルは学園を退職した。

『ちょっとそこまで薬草探しに行ってくるわ』


 オリーも学園を退職した。

『あの魔導具の問題を広めます。そのついでと言ってはなんですが、今回の事件についても知らしめなくてはね』

 コリントス大学とアカデミーはリンドバルム王国からの参加・入学に関しての審査が半端なく厳しくなった。


 ヘニルは一人学園長室でぼんやりと天井を見つめていた。ヘニルのボケにつっこんでくれるひとは誰もいない。

『僕はバカ、僕はバカ、僕は大バカ⋯⋯僕なら全てをコントロールできるって思い上がってた。
ロズウェルは新しいお楽しみを見つけたし、オリーはアカデミーに戻った。エイルはどこに行ったのか行方がわからないし。
ティウ達4バカが復活したらロズウェルくらいは戻ってきてくれるかなぁ?』



 怒りに燃える国王は騎士団にグロリア捕縛の勅命を出した。

『あの才を我が手に⋯⋯大量の魔力も捨てがたい。なんとしても手に入れてやる! 生きて連れて参った者には褒美をくれてやる!!』

 血気に逸る国王だったが精鋭を失った魔法士団と騎士団の顔色は優れない。

『昇進やら褒美のチャンスだけどヤバくね?』

『だよなあ、魔法使えなくされるかもだろ?』

『クビにならない程度に、緩~く探しとくか』


 4バカの親⋯⋯マーウォルス公爵達は『事件などない』とした弊害に頭を抱えていた。

『事件がないとされたからにはティウを廃嫡するわけにもいかんじゃないか!
出仕しても仕事に行っても皆が白い眼で見る。くそっくそっくそぉぉぉ!』

『剣が重すぎる、このままでは団長の座が! し、しかも⋯⋯玉無し団長だとぉぉぉ、まだ一個残っとるわいぃぃぃ』

『なんで私が会議の場にいた奴らに睨まれなきゃならないんだ! 『事件はない』と言い出したのはクズ陛下だろうがぁ!! 我が一族は代々宰相を⋯⋯なぜ私の指示を無視するんだ! 宰相は国で一番偉いんだぞぉぉぉ、私がいたからあんな王でも国が潰れずにいたんだぁ』

『大司教への野望がぁぁぁ! 僻地へ転任? 司祭からやり直し? 巫山戯るなぁ!』


 どこから漏れたのか分からないが事件のあらましは非常に正確に国中に広まり、社交界どころか平民まで知らぬ者などいない状態になってしまった。

『全員でひとりの少女に罪を着せようとするなんてねえ』

『なかった事にして誤魔化せると思ったのか?』

『最後には口封じに殺そうとするなんて』


 バナディス伯爵はマルデルの部屋で終日泣き暮らしていたが、離婚した妻が乗り込んできた。

『ふん、いつかこうなると思っておりましたわ! 我が子を虐待したと罵られ不貞をしたと言われましたが、全てあの悪魔のような娘の戯言。それを盲信し全てを壊した愚か者にはつける薬もありませんわね』

 バサリと投げつけられたのは虐待や不貞が冤罪だったと分かる数々の証拠。

『次は裁判所でお会いしましょう。裁判所長官の権威も失墜して風通しが良くなったそうですからねえ、公正な裁判が期待できそうですわ!』


 停学処分が終わり怯えながら学園に出てきたシグルドは、学園中から非難を浴びた。学園にいなかったせいで魔法が使えるままだったのも怒りに拍車をかけた。

『お前のせいだ! どう責任を取るか言ってみろ!!』

『お前のせいなのに、なんで魔法が使えるんだ!!』

 シグルドの父フレイズマル侯爵は全ての元凶だと非難が集中し、爵位を返上して逃げ出そうとして失敗。グロリアへの慰謝料を払わされて全てを失った。



 シビュレー伯爵家にはグロリアがいなくなった数日後に、足長おじさんが依頼した弁護士が多くの事務員や護衛を連れて急襲した。

『全て確認が取れましたので、今までの援助金は全て返還していただきます。それらは全てグロリア嬢の為の信託とする事になりました。
今現在は数理部の部室での事件はないとされていますがグロリアへの虐待は別です。まあ、あの事件についても近々処罰が下される事になるのですがね』

 必死で言い訳をしたり激怒したりする伯爵夫妻とフノーラだったが、弁護士が床に置いた書類には屋敷内の状況から他家への言動まで調べ尽くしてあった。

『この屋敷と敷地及び領地は援助金の返済に充てますが、それでもかなりの額の借金が残ります。どなたかから援助してもらった場合は借金の返済に充させていただきます。皆さんには常に見張りがついておりますからくれぐれもお気をつけ下さい。
ああ、社交界には出られるように爵位だけは残すとの事ですから、大好きな社交は出来るようですよ』

 シビュレー伯爵一家にとって針の筵確定の社交界だが、爵位があるなら行かざるを得ない夜会などもある。

『着の身着のままで夜会に参加しても、あの会議室でグロリア嬢を断罪しようとした仲間がいますし楽しめると良いですね。と言うのが我が主人からの伝言です』

『アタシは何にもしてないわ! ドレスや宝石なしで行けるわけないじゃない!』

『わたくしもですわ、何もかも持っていくなんて酷すぎます!』


 屋敷内の使用人は殆どが紹介状なしで解雇されたが、執事のジェイソンを含めグロリアに不当な行いをした者達は鉱山や娼館送りにされると決まった。


 家も財産もなくしたシビュレー伯爵一家は夫人の実家に身を寄せたが、庭の隅にある古びた納屋に押し込められた。

『いいか、よく聞け! ここに住まわせるのは貴様達のためではない。慰謝料減額の条件だからだ。
貴様らのせいで我が家が社交界でどれほど肩身の狭い思いをしているのか知らんとは言わせんからな!!
その上に慰謝料も払わされて⋯⋯貴様らは疫病神じゃ! 顔も見たくない!』

『フット家からも嘘八百を並べられて不敬だと抗議が来て、我が家まで交際を断られましたのよ! 他にも大勢の貴族から同様の手紙が届いて、商人は取引を断ってきた。この家が潰れるのはそう遠くない未来かもしれないわ!!』





 騒動は他国にも知れ渡り王国の権威は失墜。店をたたみ逃げ出す商会や、輸出入に規制をかけてくる国が出はじめるのはそれからほんの数ヶ月後のこと。

 グロリアが消えたその日、隣国からの留学生ジェニも消えたことに気付いたのはエイルだけだった。

(粘着質のジェニならグロリアをひとりにするとは思えない⋯⋯大丈夫だって知ってるけどさあ。グロリアがいないのは寂しすぎる)



 第二章 完

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