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第二章

69.ジェニVSマルデル

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「今日からは僕達とご一緒しませんか? もう一度詳しく説明しますから」

 チャンス到来とばかりに前に出てきたソーニャ。

「ここにいる生徒であの時現場にいたのは誰だ? そこにいる自称被害者以外でそういう奴がいるなら話を聞こう」

「ひっどーい、マルデルは本当の被害者だもん」

 顔を覆って『えーん、えーん』と嘘泣きをするマルデルを見たグロリアは吹き出しかけた。

(いやいやいやいや、嘘泣きにしても『えーん』はない! 騙される人は⋯⋯意外にいるんだ~、おっどろき~!)

 呆れていたグロリアの耳が『マルデル嬢が可哀想』と言う声を拾った。他にも『言い過ぎ』だの『女の子を泣かすなんて!』と言う声も聞こえる。

(全部男子生徒だけどね~、こう言うのに騙されるのはいつだって男だよ)

「証拠は? 本人の発言だけでは証拠にはならないから、それ以外の証拠を出してくれ。噂と推測以外の話ができるなら話を聞こう」

「それは⋯⋯だって、そうとしか」

 生徒達が顔を見合わせて頷き合っていた。

「その場にいなかった人間が本当なのか間違いなのかの判別もできない僅かばかりの話で結果を引き出し断罪してるってことか?
どこから湧いて出たのかもわからない噂に振り回されて?
悪いがそんなあやふやな話を聞くのは遠慮する、話にならんね」

「でも、それ以外には考えられないんですから!」

「なんとかって言う教授に聞いてみたらどうだ? まだ学園にいるんだろ?」

「オリー教授はシュビレーに騙されてるそうだから聞いても無駄ですよ」

 何を言っても埒があかないこの状況に嫌気がさしてきた。

「あの時って、複数対一人だったんですけどそれでも私から何か仕掛けると思います? それから、私がマルデルさんを虐めた事になってますけど噂ではなく目撃した人っていますか?」

「みんなぁ、誤魔化されちゃダメだよ。この人って周りに人がいない時を狙って虐めてくるんだからね! マルデルはいっつも一人の時を狙われたんだもん。
殴ったり蹴ったり髪を掴んだり⋯⋯すっごく怖いんだよ~」

 エグエグと鳴き真似をするマルデルがジェニの胸に飛び込もうとしてかわされた。

「あら、そうだったの? では確認しましょうね。この学園には魔導具による映像が残されているから、いつ頃かどの辺りだったか教えてくれるかしら?」

「エイル先生!」

 教室の後ろの出入り口近くで騒いでいた生徒達はエイルの声を聞いて飛び上がった。

「マーウォルスが早退することになったから様子を見にきたんだけど、ちょうど良かったわ。入学前の資料に記載されているから知ってると思うけど、この学園は防犯のために魔導具が設置されているの。
あなた達が入学した日から今日までの全ての映像が残ってるから調べれば出てくる可能性が高いわ。
それさえ出てくればバナディスの言う話に僅かばかりの信憑性が出てくるんじゃないかしら?」

(えー、マジかあ。ブロック&エイトリ兄弟を探してたのとかも残ってるって事? それはまずいかも)



「マルデル嬢、良かったですね! これでシビュレーは言い逃れできなくなるから、もう怯える必要なんかなくなるじゃないですか!」

「虐めをする生徒なんか退学にしてしまえばいいし」

「場所がわかれば時期があやふやでも問題ないわよ」

 無表情のエイルからマルデルが顔を背けた。

「それは⋯⋯怖くってよく覚えてないから」

「では、学園長室でゆっくり話を聞きましょうか。一つずつ場所を潰していけば思い出せるはずだもの」

「酷い、なんでみんなしてマルデルを虐めるの!?」

「はぁ?」「ええっ?」

「今まではただの噂だったけど、バナディスは自分から『人がいない時に虐められた』って言ったでしょう? その内容もはっきり『殴ったり蹴ったり髪を掴んだり』とね。
噂の出所を調べても特定の人に行き着くばかりで困ってたんだけど、これで漸く調べられるわ」

「エイル先生、その人って誰ですか?」

「今は男子生徒と女生徒が共謀してたとしか言えないし、公表するのはもう少し後になるわ。虐めの事実確認をするのと一緒に、その人達が流していた話の真偽を調べることになるはずだから」

「わ、私まだ本調子じゃないから今日は無理! 早く帰らなくちゃお父様に心配をかけちゃうもん」

「さっきまであんなに元気だったのに? では、医務室へ行きましょう。ジニー・アボット医師もおられるしロズウェル先生にもきていただけばいいかもね」



 医務室に行く途中でトイレに行くと言ったまま姿を消したマルデルは行方がわからなくなった。

「病み上がりの娘を追い詰めるとはどういう了見だ!!」

「虐めを受けたと自己申告があった直後体調不良を訴えたバナディス嬢を医務室へ連れて行くところでした。
途中、トイレに行きたいと言ったので外で待っていましたがいつまで経っても出てこないので様子を見に行くといなくなっていました」

「バナディス嬢はご自分の足で正門から出て行くところが映像に残っていますし、同行者も怪しい者の姿も映っていません」

「あのシビュレーとかいう娘が何かしたに違いないんだ! 元々娘はシビュレーを怖がっていたんだぞ、それを放置していたからこんなことになったんだ!」

 グロリアがいる学園に戻るのを反対していたバナディス伯爵はマルデルの言葉に押し切られたのを後悔していた。

『大丈夫よ~、明日からティウが学園に行くから守ってくれるんだもん。アタシがいなかったらティウが寂しがっちゃうの』

『しかし、面会の申し込みは断られたって言ってただろう?』

『会えば絶対に大丈夫なの。それにね、みんなには隠してるけどティウは全属性の適性があるから、何があっても負けないって知ってるの』

『しかし、この間はあの小娘に負けたんだろ?』

『あれは不意をつかれただけだよ。ホント姑息な奴よねぇ、マジでムカつく』



「シビュレーは放課後までずっと多くの生徒や教師が目撃していますが、何の問題もなく無関係だと断言できます」

「聴聞会を開かせる! 一定数の署名さえあれば強制的に聴聞会を開かせることができたよな」

「署名を集めるのも申請するのも自由ですが、それはおやめになられた方が良いですね。マーウォルス達全員が学園に戻ってきてから話し合いの場を持つ予定でいますが、公の場で行うのはお嬢様の将来に傷がつくことになりかねません」

「は! 例のオリーとやらの証言だろうがそんなもので誤魔化されんぞ! 絶対にシビュレーを引き摺り出して地獄に落としてやる」

 捨て台詞を吐いたバナディス伯爵が立ち上がり学園長室を出て行った。



「困りましたね」

 ソファに沈み込んで大きな溜息をついたヘニルが天井を見つめながら呟いた。

「音声しかなくてもアレを奴らに聞かせてやればこんな事にはならなかった⋯⋯国王の泣き落としに兄上が甘い顔なんかするから」

「ルーン魔術が関わってる可能性があったから、強く出て大騒ぎになっては困ると思ったんだけどなあ」

「それはもう終わった事ですし⋯⋯陛下のところに行って来るしかないのではありませんか?」

「だね、これから行って来るよ」

 渋々立ち上がったヘニルが鞄を持って学園長室を出て行った。

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