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第二章

68.やっぱり狙われるよね〜

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 いつの間にか横にやって来ていたマルデルが頬を赤らめてジェニの顔を覗き込んだ。

(え? あんなにロキとの愛を語ったくせに⋯⋯ロキだって気付いてないって事?)

「こんな素敵な方がいたのなら、マルデルはぜーったい気付いてたはずだもん」

 両腕で挟み込んで寄せた胸が制服のブラウスからはみ出そうになっている。

(寄せれるほどあるだけ羨ま⋯⋯成長期が来たら私なんかボンを超えて『ボボーン』ってなるからいいんだもん! お姉ちゃんがそうだったからね!!)

「少し前に編入したんだ」

 嫌そうに少しのけぞったジェニが鼻を押さえた。

(コイツ、臭え! 香水のつけすぎじゃん。グロリア見習えよ! リアはなんもつけてなくてもいい匂いがして⋯⋯)

「私はマルデル・J・バナディス、マルデルって呼んでね」

 肩に置こうとしたマルデルの手を避けるように身体を横に逸らしたジェニが鼻を押さえたまま、興味津々のクラスメイトの真ん前に立つソーニャに声をかけた。

「⋯⋯ソーニャ、この学園では別のクラスへの立ち入りは禁止だと聞いていたんだが違ったかな?」

「えーっと、マルデル嬢は特別と言うか⋯⋯なあ?」

「う、うん。マーウォルス様達が許しておられたから、なし崩しになってる感じですね」

 ソーニャの取り巻き一号が慌てて説明をした。

「マルデル嬢、彼はゲニウス・L・ドールスファケレ様と言ってカルマール王国から留学して来られた公爵家の方です」

 笑顔のソーニャがマルデルに近付いて頼まれてもいない紹介をはじめた。

「まぁ、隣国から?⋯⋯だったら、マルデルが仲良くしてあげる。王都の案内とか美味しいお店とかいーっぱい教えてあげるから安心してね~」

「マルデル様ってイケメンなら誰でもいい感じなの?」

「媚びまくっててちょっと気持ち悪いかも」

「なんか思ってた方とは違うみたい」

 周りのドン引きしはじめている声など耳に入らないマルデルはグロリアに向けてバカにしたように鼻を鳴らした後ジェニに向けてにっこりと微笑んだ。

「ゲニウスは何が好き? マルデルがなんでも叶えてあげるよ?」

 机に左手をついて右手を胸に置きもう一度顔を覗き込んだマルデルがジェニの名前を呼んだ。

「ゲニウス、アタシとお喋りしたいでしょ?」

 僅かにネックレスが光ったのを目に留めたジェニが眉間に皺を寄せた。

「バナディス嬢、この距離は赤の他人としてありえないから少し離れてくれないか? つけてる香水が臭いし、化粧も濃すぎてタヌキみたいになってる。
それに変わったネックレスをしているようだけど学園の規則では問題ないのかな?」

「⋯⋯ゲニウスったら、恥ずかしがり屋なんだからぁ。マルデルって呼んで良いんだよ? ねえ、向こうの空いてる席に行って少しお喋りしましょう?」

 もう一度ネックレスが光ったがジェニは全く表情が変わらない。それどころか、どんどん不機嫌そうな顔になるのを見てマルデルは慌てはじめた。

「なんで、なんで効かないの!?」

(効くわけないじゃん、ジェニは元巨人族だもん。あれ? 悪戯好きのだって言われてたような、しかもママンは神族だって聞いたんだよね)

「もうすぐ授業がはじまるし、俺の席はここなんだ」

「えーっ、ここ? こんな席に座らされるなんて可哀想⋯⋯大丈夫だよ、マルデルが先生に言ってあげるからね。安心してい⋯⋯」

 パンパンと手を叩く音が教卓の方から聞こえてきた。

「バナディス、何度も言っていますがここはSクラスです。他の教室への立ち入りが禁止されているとまだ覚えられませんか?」

「エイル先生、そんな言い方酷いですぅ」

「酷いのがどちらかは議論の分かれるところですね。早く教室に戻りなさい、多分Bクラスの担任があなたを探してると思いますよ。
それからSクラスの生徒達も学園の規則の見直しをするように」

 ムッとした顔のマルデルが大きな足音を立てて教室を出て行くと、生徒達が慌てて席に戻った。

「先生、マーウォルス様はどうされたんですか?」

「彼は医務室にいるので体調が落ち着けば教室に来るでしょう。では、ホームルームをはじめます。今日は図書⋯⋯」



 2時間目の授業前に戻ってきたティウは少し青い顔をしてはいたがお昼まで何事もなく授業を受けていた。休憩時間も席についたままでクラスメイトのノートを黙々と写していたが、お昼休憩がはじまった途端ソワソワとしはじめた。

「マーウォルス様、どうかされたんですか?」

 隣の席の生徒マック・バーナードが心配そうに声をかけてきた。

「あ、いや⋯⋯」

「ご気分がすぐれないなら医務室に行かれますか?」

「いっいむ、医務室⋯⋯そ、そう⋯⋯そうするよ、ああ、あり、ありがと」

 机の上の物を鞄に放り込んで立ち上がったティウは逃げるようにして教室を後にした。

「シビュレーのせいだよな」

「お可哀想だわ」

(マルデルのせいでーす。あ、護符のせいかも)



 食堂に向かう生徒の横からマルデルの声が聞こえてきた。

「あれぇ? ティウはいないの?」

 朝のエイルの注意などなかったようにマルデルが教室に入ってきた。

「うわ、ジェニ早く行こうよ。やばい気配がしてきた」

 ニヤッと笑ったジェニが既に腰を浮かしていたグロリアのスカートを引っ張って小さく首を横に振った。

「それじゃあつまんねえじゃん。アレのバカさ加減をクラスの奴等に見せつけるチャンスじゃね?」

「逆効果になる方に昼食のデザートを賭けるよ」



「マルデル様、朝エイル先生から教室⋯⋯」

「ねえ、ティウがどこに行ったか誰か知らない? 迎えに来るの忘れてるみたいなんだよね」

 勇気を出した女子生徒が恐る恐るマルデルに注意したが話を遮られて肩をすくめた。

「⋯⋯医務室に行かれました」

 つまらなそうに口を尖らせたマルデルが当然目を輝かせて教室の後ろに向いて声を上げた。

「そう⋯⋯あっ、そうだ! ゲニウス、一緒にカフェテラスに行こうよ。あそこの2階には個室があるから2人でゆ~っくりお喋りできるし、ティウが来たら紹介してあげるし。
食堂のショボい料理なんて目じゃないくらい美味しいんだよ」

「バナディス嬢、ファーストネーム呼びはやめてくれ。それと、昼はいつも通りグロリアと一緒に行くから」

「はあ? マルデルが誘ってあげたのに、そんな子とご飯を食べるなんてあり得ない!
その子がどんなに危険かクラスメイトから教えてもらってないの? 誰も教えてあげないなんて不親切すぎてビックリだよ。
しょうがないからマルデルがちゃーんと教えてあげる。大丈夫だよ~」

 グロリアはふと疑問に思って首を傾げた。

(なんか他の子に対してと態度が違いすぎる気がする。ティウ達にはもっと上から目線だったし『だよぉ』とかはあんまり言わなかったような。隷属できてないから? やっぱりジェニだけは特別とか? なんかムカつくかも)

「遠慮しておく。俺は自分が付き合う相手は自分で決めるから、ほっといてくれ」

「何も知らないからそんな事を言うって分かってるけどぉ、マルデル傷付いちゃったなぁ」

 頬を膨らませて可愛らしく『もう、プンプンだよぉ』と言っていたマルデルを無視して、グロリアを強制的に立たせたジェニが教室を出ようとするとマルデルが慌てて追いかけてきた。

「ゲニウス、待って! ちゃんと教えてあげるから。クラスのみんなもゲニウスがそんな子と一緒にいたら心配しちゃうよ? それでもいいの?」

 チラリと後ろを振り返ったマルデルと目があった男子生徒が大きく頷いた。

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