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第二章

56.お悩み解決は、超吸収漏れずに安心⋯⋯

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 エグエグと泣き続けるブロックに大量の林檎をお供えして許可をもらいネックレスにルーン文字を刻んだ。

【おでの力作がぁ⋯⋯エグエグだにぃ】

【あんちゃん、壊されるよりいいだにぃ。堪えるだにぃ】

 抱き合って泣く2人の前にグロリア特製の『超吸収漏れずに安心オムツ』をそっと置いてきた。

(これでもうお漏らししても大丈夫だよ)

 ティウ達4人の護符も準備した。それぞれにぴったりな『プチざまぁ』

(仕返し⋯⋯美しい言葉ですね! なんちゃって)



 いつもと変わらない朝、ホームルーム前の教室はワイワイがやがやと騒がしい。仲の良いグループで集まり楽しそうな笑顔を浮かべていたり、宿題を見せあったり⋯⋯。

 話の輪に入れないグロリアはいつもの席からポヤッと窓の外を眺めていた。クラスの誰かと目が合えば何を言われるか分からないし、楽しそうな人を見たら羨ましくなる。

 中庭にはいつも妖精とエルフが楽しそうに飛んでいるから、見ていると『私は一人じゃない』と勘違いできる。

(どうやるかが問題だよね。私が行くわけにはいかないっていうか、絶対面会したくないし)

 ぽやっと悩みながらいつまでも窓の外を眺めていると背の高い少年を連れてエイルが入ってきた。

(幻惑魔術でこっそり忍び込めないかなぁ。それとももっと長い《時間停止》ができるようになればいけるかも)

 椅子がガタガタと音を立て慌てたような嬌声が聞こえた後、ザワザワと生徒達が騒ぎはじめた。

「カッコいい! 転入生?」

「見たことない奴だな、誰か知ってる?」

(やっぱりエイル先生に話すのが一番早いとか)

「はい静かに! ホームルームをはじめます。今日から隣国からの転入生が来ました。自己紹介してくれる?」

(でもなぁ、この世界の誰かを信用するとか自信ないなぁ)

「隣国カルマール王国から来たゲニウス・L・ドールスファケレと言います。父は公爵家ですが次男なので呑気にしています。魔法は火がメインで他にも少し。ペットは犬が2匹と猫⋯⋯こんなところかな」

「凄い、他にもってことは多属性持ちかよ」

「カッコよくて公爵家で多属性持ち⋯⋯最高!」

(今、近くにいて確実に信用できるのってグリちゃんだけだよね。多分)

「席は自由だから空いてる席ならどこでも構わないから座って。教科書は準備できるまで隣の人に見せてもらってね」

 転入生が部屋をぐるりと見回すと女子生徒が頬を赤らめながら隣の席が空いているとアピールしたり、ライバル出現だと肩に力を入れた男子生徒が目を細めた。

「エイル先生、マーウォルス様達の席はキープしなくて良いんですか?」

 リーグの隣の席の女子生徒が手を上げた。

「先ほども言った通り席は自由だから、特に問題はないわ」

 あからさまにソワソワとしはじめた生徒が目線と仕草で猛アピールをはじめた。いつマーウォルス達が帰ってくるか分からない今、こんなチャンスは逃せない。

「先生、休んでいる生徒の席はどこですか?」

 エイルが3つの席を示すとそれ以外にすると言った転入生がスタスタと歩きはじめた。転入生の動きに合わせてクラスメイト達の顔が動いていく。



「ここ空いてるよな」

 ぼんやりと外を眺め一人脳内会議に勤しんでいたグロリアの机を転入生がコンコンと叩いた。

「へ? う、うわぁ!! な、なん、なん」

「転入生のゲニウス・L・ドールスファケレ。ファミリーネームは長すぎるからゲニウスで」

 声をかけられるまで全く気付いていなかったグロリアは、口をパクパクとさせながら固まっていた。

(な、なんでジェニがここにいるの!? まだ一年経ってないし!)

「大げさ~」

「白々しいんだから」

 教室内に嫌味が飛び交っているがグロリアにとっては日常茶飯事すぎて、虫が飛ぶ音以上に耳に入ってこない。

「ほ、他にもいっぱい空いてますから」

(ぜんっぜん聞いてないんだけど!? そばに来んな!! 先に聞いて色々準備してからじゃないとダメなんだから!!)

「教科書見せてくれよ、宜しくな」

「むむ、無理ですから! 別の席におねまいします(も、もう! 噛んだじゃないかぁ)」

「おねまいされません⋯⋯ぷぷっ」

 椅子を近付けながらゲニウスが耳元で囁くと真っ赤な顔になったグロリアが耳を抑えてのけぞった。

(ジェニの低音ボイス、凶器じゃん!)



 エイルが教室を出た途端一人の女子生徒が立ち上がった。

「あの、良かったら別の席にしませんか? 教科書もですけど、わたくし達なら構内の案内とかもできますし」

「あれ、この席って空いてなかった?」

 とぼけた顔で首を傾げたゲニウスが女子生徒に微笑み返した。ポッと顔を赤らめた女子生徒が胸を押さえて一歩後ずさった。

「いえ、空いてはいましたけどもっと前の方がいいと思いますわ」

「どこでもいいって言われたし、ここが気に入ったんでね。問題があるならはっきり言ってもらえるかな?」

 ジェニの声のトーンが少し下がった。



 女子生徒がグロリアを睨んだあと渋々引き下がり、授業がはじまると椅子をすぐ横まで移動させたゲニウス⋯⋯ジェニが念話で話しかけてきた。

(俺が入ってきたの見てなかっただろ)

(ちょ、ちょっと考え事してたんだもん)

(相変わらずぽやっとしてんな)

(⋯⋯嘘つき! 一年後って言ってたし、連絡もなしとか驚くじゃんか)

(寂しかった?)

(ば、バッカじゃないの!? だだ、誰がささ、寂しいとか⋯⋯ああ、あるわけないじゃん!)

(えー、俺寂しかったんだけどな~)

(へ?)

(頑張ったじゃん)

(⋯⋯⋯⋯と、当然! プラス20歳だもん、ふんっだ)

(俺はえーっと⋯⋯いくつだ?)



 1時間目が終わると早速女子生徒が押し寄せ、グロリアを睨みつけた女子生徒がシナを作ってゲニウスの方に顔を寄せて自己紹介をはじめた。

「アメリア・チチェスターと言いますの。是非カルマール王国のお話をお聞きしたくて⋯⋯良かったらお昼休憩をご一緒しませんか? カフェテラスにご案内させて下さい」

「あら、わたくしも是非ご一緒させて下さい」

 私も私もと生徒達が騒ぐ後ろから男子生徒も参戦してきた。

「お昼は僕達と行きましょう。学園の事を説明するのなら同性の方が聞きやすいでしょう?」

「君は?」

「申し遅れました、リデル・ソーニャと言います」

「ソーニャはここ暫くクラスのまとめ役をやってくれているんですよ」

 ソーニャの取り巻きの一人が横から口を挟んだ。

「まとめ役だなんて大袈裟だなあ。このクラスは今、3人休んでいるんだ。僕なんて彼らが出てくるまでの繋ぎみたいなものだから大したことなんてないよ」

 胸を張って誇らしげに言ったソーニャがみんなに向かって小さく手を振った。

「席も僕の近くにするといいよ。その方がなんでも教えてあげられるからね」

「いや、このままで構わないよ。それに昼はシビュレー嬢に頼んだから」

 しんと静まりかえった教室にソーニャの冷ややかな声が響いた。

「またお前か! なんでそんなに出しゃばりなんだ!?」

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