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第二章

53.エイトリが可愛いかも〜

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 退屈な中間試験の間は虐めもなく穏やかな日々を過ごしたグロリアは、空いている時間を使ってエイトリとの共同事業の計画を話し合っていた。

【しゃんぷにそげなもんはいらんだにぃ】

「効能としては今ので十分なんだけど人間って欲張りだから、いい匂いがした方がよく売れるんだ」

【花は嫌いだにぃ】

 プイッと横を向いたエイトリがチラチラとグロリアの顔を見ていたが、すぐ近くで土を捏ねて遊んでいたブロックがゲラゲラと笑い出した。

「でもでも、ディルス達のはいい匂いがしてたよ?」

【⋯⋯特別サービスしただにぃ】

 カニスの背に捕まって庭を走り回るエイトリは妖精達によく叱られている。

【お花の近くで遊んじゃダメだよぉ】

【お花が散っちゃうー!】



【エイトリはローズちゃんが好きだにぃ】

【あんちゃん!!】

(おやおやぁ、ドヴェルグの恋バナ? 種族を超えた恋愛なんて良いじゃん⋯⋯すっごく良い! 
前に作った恋愛成就の護符出す? 出しちゃう? 結果は聞いてないけどグリちゃんの判定ではAランクだって言ってたもんね。
シャンプー開発の労を労って進呈! とか)

【薔薇のぉ花がぁ大好きなぁ~ローズちゃ~ん】

「じゃあ、薔薇の香りなら⋯⋯」

【薔薇を摘んだらダメだにぃ!】

(なんだ、そう言うことかぁ)

「薔薇の花を買って使うのはどうかな? 半分をローズちゃんにプレゼントしたら喜んでくれるかも」

 妖精がシャンプーしているところは見たことがないが、他の物を作ることもできるだろう。

【プ、プレデントォ!? (プシュ~)】

 興奮しすぎたのか真っ赤な顔で倒れ込んだエイトリは『プレ、プレ』とうわ言を言っていた。

(さて、ここで問題です。薔薇の花を買うお金をどうやって捻出すれば良いのでしょうか?)

 脳内クイズ大会をしながらグロリアはディルスを探しに行くことにした。

(モッフモフ~! 最近ディルスが冷たいんだよねー⋯⋯そばには来てくれるけど触れないというか。ん? なんか声がする)



【⋯⋯だろうがよ】

【でもなぁ⋯⋯それはちょっと】

【ガァ! 昔散々世話になっ⋯⋯ヤバい、ちびっ子だ】

「お話の途中でごめんね、ディルスのお友達が来てたって知らなくて」

【ガァ! お友達?】

「ゆっくりしてってね⋯⋯って私のうちじゃないんだけど。折角だからオヤツ置いてくね」

 ポーチから鴉用に果物やお菓子を出し、ディルス用のお肉を添えて出したグロリアが、来た道を戻って行った。

(友達の鴉かぁ、どっかで見たような⋯⋯まあ、いっか)

【な、分かるだろ?】

【ガァ! アレって天然?】

【うん、だから無理】




「うーん、この術式だと⋯⋯《フェオ》の繁栄を追加して⋯⋯あー、ダメだ。これだと雑草までボウボウになっちゃう」

 夜、机に向かうグロリアの近くでグリモワールが少しくねっと(首を傾げ)した。

【花くらいこの屋敷の庭からもろうたらええじゃろ?】

「練習分はこっそり貰えば良いかなって思ってるんだけど、その後は結構大量にいると思うんだ。シャンプーと言えばリンスかトリートメントもセットで欲しいから」

【そっかあ、今は何をしよるん?】

「成長促進の術式を改良しようと思って。種だけなら納屋から失敬してしまえば済むし、ジェニの庭の隅を借りて植えさせてもらっても問題はないでしょう? これが上手くいったら農家で売れたりしてね」

【まったあぶないもん作ろうとしよるし⋯⋯農家はダメじゃけんね。種子が突然発芽して花でも咲いたら大騒ぎになるんよ。季節とか関係なく花がバーンとか咲いたらなんて言い訳するん?】

「成功するとはかぎんないよ? もし成功したら⋯⋯肥料のおかげですって言う。あっ、肥料ってなんかあったような。肥料は土を元気にしてくれるとかなんとか、よく分かんないから今度図書館で調べてみよう。
酸性だのアルカリ性だのって聞いたこともあるし」

【失敗する方より成功しすぎて使えん方に賭けてもええよ】

「⋯⋯さあ、明日も試験だし寝よっかなあ」

 グロリアは机の上を片付けた後、床の上に落ちてないかハイハイしながら徹底的に確認していく。

【試験って、グロリアは試験勉強せんでええの?】

「20歳分の下駄がまだ役に立ってるんで問題なしでーす」



 ブロック&エイトリ兄弟が学園の中庭から引っ越した翌日から戻ってきた妖精やエルフ達は今日も朝から楽しそうにフワフワと遊んでいた。

(フロディと一緒にいた子達は教会に帰ったのかな⋯⋯)

 気合を入れて試験問題を解き終わったグロリアは答案用紙を提出して早々に荷物を纏めはじめた。

(今日はこれで早帰りできるからディルス達とお昼ご飯できたら良いなあ)

 まだ問題を解いている生徒達の邪魔にならないようにそっと席を立ったグロリアが廊下に出るとエイルが壁にもたれて腕を組んで待っていた。

「この後少し時間をもらえないかしら?」

「⋯⋯(モフモフパラダイスが)」

 前回の話を思い出したグロリアの顔が強張るとエイルが小さく頭を下げた。

「マーウォルス達のことで相談に乗って欲しいんだけど⋯⋯ここで話すのはちょっとね」

「何もできませんけど、お話を聞くだけなら」

「ええ、それで構わないわ。絶対に無理強いしないって約束するから」

 エイルの後をついて学園長室に向かうグロリアの目に正門の前に停まった豪奢な馬車が見えた。

(あれってもしかして⋯⋯あー、やだなぁ。あの時の人達、みんなめっちゃ感じ悪かったんだよねー)

 数理学の研究室で起きた事件からすでに1ヶ月以上経ったがマーウォルス達が今どんな状況なのか分からない。

(隷属ってどうやって解くんだろう⋯⋯ アーサランド兄弟がいるんだからきっと何とかなってるよね)



 以前の派手なドアは重厚なドアに代わり金文字のシンプルなプレートがかけられていた。

 ノックの後中に入ると眉間に皺を寄せたヘニルが机の角に浅く腰掛け、ロズウェルが窓の近くに立っていた。

「やあ、試験が終わったばかりだというのに呼び出してすまない」

 いつもの変態臭がしないヘニルはグロリアにソファを勧めて向かい側に座った。

「多分気付いたと思うがマーウォルス卿達が来ていてね、正門前を護衛達に占拠させてるんだ」

 事件の日から眠ったままの彼等はそれぞれの屋敷で治療が続けられていたが、原因がわからないままただ眠り続けていると言う。

「1週間くらい前だったかな、マーウォルス卿達が揃ってやってきてエイルとロズウェルに診察を依頼してきたんだ。今朝が3回目の診察だったんだが彼等の実力でも原因がわからない状況でね」



 事件の日からずっと各家の主治医が主体となって治療が進められていたが、原因もわからず状況も変わらないマーウォルス公爵達が8日前に学園に乗り込んできた。

『学園で起きた事件ということもあり協力を依頼する』

(今まで面会を申し込んでも手紙を出しても梨の礫だったのに手のひら返しか。クッソムカつくな)

『現在の状況さえお聞きすることができませんでしたから、これほど時間が経ってからではお手伝いできるかどうか』

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