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第二章

44.ヒャッハー野郎と愉快な仲間達

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「さあ、あの時は結構パニックになってましたから、どんな話があったのかよく覚えてません」

(先ずは情報収集が先。脆弱な人間とどれだけ力を持ってるのかわからない元神族なんて分が悪すぎる。
彼等が何故私に昔の話をしようと考えたのか想像もつかないうちは何も言えない⋯⋯アーサランド兄弟とオリー教授はあの『ヒャッハー野郎オーディン』の家族だもん。
世界を作る為に巨人の祖ユミルを殺して巨人族を世界の隅に追いやった兄弟と、オーディンに知恵を与え続けた叔父の狙いって何?
エイルはどんな立ち位置でここにいるんだろう)

 顔を上げる勇気も言葉を発する自信もないグロリアは震えそうになる手に力を入れてスプーンを持ってプリンに突き刺した。



「我々の行動がどのように伝えられているのかはある程度知っているつもりです。それもまあ、色々種類がありすぎて全てを知っているかどうかも分からないですが」

「オリーが言いたいのは私達は自分達の行動が非難される覚悟があるって言う事だから、遠慮しないで言ってね」

「⋯⋯壮大なお話みたいですが、私みたいな平凡な一生徒に言われても困ります」

 グロリアは食事のふりをするのを諦めてスプーンを置いた。

(食べるんじゃなかった⋯⋯ただより高いものはないって言うのに失敗したよ。あーもー、食い逃げしてもいいかな? 世界の成り立ちなんて知らないって言うか、私には関係ないもん。そんな壮大な話はどこか他でやって欲しいって心から思うからね。
神族がどうの世界がどうの⋯⋯そんなことよりダーインスレイヴをなんとかしてマルデルやシグルドとの縁を切ることに集中したいの!
後のことは関係者で話し合って責任とって欲しいって心の底から思ってまーす)



「グロリア、ラグナロクが起きた原因はなんだと思いますか?」

「オリー教授、申し訳ありませんが私は神話を語れるほど詳しくないです」

「構いません。今世で知り得た知識の中で話して頂ければ十分ですし、我々に対しなんら忖度する必要もありません」

「思ってる事言っちまえよ。ほれほれ」

 強制的に呼び出して理由も説明せず勝手に自分達の過去を話し、意見を強要する態度が勝手に転生を決めたキラキラバルドルを思い出させた。

(あー、そっかぁ。キラキラもこの人達の親戚だったり知り合いだったりだよね~。そうなるとやっぱり似てくるんだねえ)

 自分たちの仲間の不始末をさらりと流し、転生で誤魔化した最高神は地上の元神族のやらかしには手が出せないルールだと後から知ったいい加減な奴。

 ひれ伏さないのが気に入らないと言ってヘルヘイムに落とそうとしたヘズも気に入らない。

(セティは良い子だったけど、初っ端に攻撃魔法撃ってきたんだよね~。確かママンからのプレゼントだったっけ)

 転生後、蓋を開けてみれば確実に迫害される魔法適性なしで産まれた上に、フレイヤの手先になる気満々の妹がいる。

 魔力だけを狙われて必死でルーン魔術を覚えて逃げ延び、学園に入学してみれば元神族に囲まれた挙句全員がフレイヤの下僕となって牙を剥いた。

 ここ最近は見ないふり・考えないふりをしていた怒りも思い出してポーチから爆裂護符を出したくなる。

(はぁ、いい加減うんざり⋯⋯安心して暮らせる転生をご用意しましただの、最高のメンバーを揃えておきましただの⋯⋯どれもこれもいい加減な嘘っぱち。
って言うか、神族と元神族の為に揃えてあったんじゃないかと疑ってるもんね。
今頃『おや、手違いがありましたか?』とか『勘違いされては困ります、神の為の最高のメンバーですよ?』とか言ってるかもって疑ってる!
私が間抜けだっただけかもだけど⋯⋯超絶ムカついてるんだよね)

「突然過去がどうとか言われても迷惑だとしか思えません。忖度するな・覚悟してる? ご自分達の目的も言わず上から目線で私に何かを強要するのはやめてもらえませんか? そう言う傲慢な大人は大っ嫌いなんで」

 見識者ヅラをしている4人に腹が立ったグロリアはバカにしたようにツンと顎を上げてそっぽを向いた。

(言えって言ったのはそっちだからね! 文句があったら受けて立とうじゃん)

 グロリアは四郎ちゃんを入れているポケットにそっと手を突っ込んだ。



「僕達の目的かあ⋯⋯それは沢山ありすぎて話しはじめたらキリがないくらいなんだけど、さっくり言うと元神族の横暴をなんとかしたいって事かな。
ここは人間の世界だから、元神族や元巨人族が彼等に手を出してるのをやめさせたい」

「そうですか。私は地味に静かに学園生活を送りたいので陰ながら、うーんと遠くから応援させていただきます」

 ヘニルの優しそうな言葉も柔らかい笑顔もグロリアには響かない。

(信用できないんだもん。神族と人間の価値観って違いすぎるからね、漠然とした話を鵜呑みにするには今までに色々ありすぎたから!)



「あの日、グロリアが使ったのはルーン魔術で、古フサルクを使用した魔法円やルーンガルドゥルだった。
非常に独特な構成は我々の時代にはないものでしたから、恐らくはグロリアの過去世の記憶から考案されたものだと予測しています」

 オリー教授が的確な予測を立てていた。

(話ぶりからするとエイルがヘルから情報を仕入れてたわけじゃなさそう。ミーミルって怖いけど凄い)

「どんな方法を使ったのかは関係ないんじゃなかったんですか? マルデル達に攻撃・殺害される予定だった高等部の生徒達は怪我もせず記憶も消されずに済んだ。マルデル達もほぼ無傷で拘束されたはずですし、私自身彼等に怪我を負わせた覚えはありません。相変わらず目が覚めていなかったとしても私の責任じゃないと断言できます。
だって、私が攻撃したのは⋯⋯ ユピテールさんに蹴りを入れたのと一発殴ったのだけですから」

(股間の一撃は変な音がした気がしたけど⋯⋯。怪我とかさせないように頑張ったんだから!)

「しかし、私と部員を守った防御結界は紛れもなくルーン魔術でした。展開の速さや強度から考えて、非常に洗練された術式だったと思います」

「何が言いたいんですか? 強制的にここに呼んでおいて忖度しないで考えを聞かせろ? おまけにこちらの行動を分析してしたり顔。
そうか⋯⋯マルデルと愉快な仲間達ってあなた方の身内みたいなもんでしたっけ? 目を覚まさないのが私のせいだって言うんならお好きにどうぞ、退学でもなんでも好きにしたら?
今私が言いたいことはひとつだけ。神も元神もクソ喰らえ!!
午後の授業があるんで失礼します!」



 学園長室を出て腹立ち紛れにドアを叩きつけたグロリアは四郎ちゃんをポーチに片付けて派手なドアに向けて中指を立てた。

(くっそイライラする~、プリン食べ損ねたじゃん!!)

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