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第二章

20.セットでついてくるみたいです

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 グロリアの周りに湧いている押しの強い奴の1人が口を開いた。

「なら俺も参加で」

「うおお!」

「⋯⋯へ? な、なんでティウが話に参入するの!? どっかから叫び声が聞こえたし⋯⋯あっ、でもでもティウならいいかも⋯⋯私なんかよりずーっとずーっとあってると思う。うん、それ賛成」

 晴れやかな顔になったのはグロリア一人だけで、無表情のティウは片方の眉を上げリーグとフロディは笑いを堪えている。

「では俺も参加で」

「おおー!」

「へ? リーグって(ルーン魔術の研究で)忙しいんじゃないの?」

 顎に指をかけたリーグはグロリアの頭の中を探ろうとするようにジロジロと顔を眺めまわし小さく頷いた。

「お前はまだなんか隠し持ってるはず」

(ひぇ~! も、持ってるけど持ってましぇんからぁ!)

「勿論僕も一緒だよ」

「きゃあ!」

「⋯⋯あ、ああ。仲良し3人組ね。うん、そっかそっか。しっかし、喋ると歓声が漏れなくついてくるって凄いねえハッ◯ーセットのおもちゃみたい。応援してるからね。
遠い伯爵家の屋敷から頑張れ~って」

「4人組の間違いだろ?」

「⋯⋯⋯⋯さて、なんのことやら。話は終わったんで帰りますか。ここの片付けってどうするんですか? えーっと、どなたかご存知の方は⋯⋯」

(誤魔化せ! 言質さえとられなければ⋯⋯この場を凌げば部活の話は有耶無耶にできるはず! 目指せ、ほのぼのライフ⋯⋯ああ癒しが、モフモフが足りない)



「では、今度のクラブ見学会までに部員にはわたくしから話しておきましょう。皆様も来られると言うのであれば一応お名前をお聞きしておいた方が⋯⋯まあ、無理強いは致しませんのでご自由に、と致しましょう」

「ええっ! オリー教授ってマーウォルス様達のことを知らないの!?」

「マーウォルス様達が『どっちでもいい』みたいな扱いをされるの、初めて見た」

「流石数理部顧問⋯⋯権力なんて見向きもしないんだ」

(しーらないっと! 私には全く関係ございません、見てないし聞いてないしね~。勝手にやってくれってんだ。今でもヤバいのにこれ以上目立ったら⋯⋯『出る杭は打たれる』って言うんだからね! マルデル・シグルド問題で手一杯の私にこれ以上はむり~)






「って事があったんだ~」

 学園から帰ったグロリアはベッドでゴロゴロしながらヘッドボードに立てかけたグリモワールに話しかけた。

【過冷却ってワシでも知らんかったけん、そりゃ騒ぎになるって】

「グリちゃんは長い間冬眠してたから⋯⋯ジェニなら知ってると思うよ。私の前世は魔法じゃなくて科学で発展してたんだもん。
はぁ、明日から益々憂鬱。また新しい話題でビシバシ睨まれると思うと、行きたくなーい」

【⋯⋯癒し、いる?】

「グリちゃんのことは好きだけど固くて無理。気を遣ってくれてありがと」

【ワシじゃのうて、ディルスとカニスって覚えとる?】

「うん、狼兄弟だよね」

【お隣に戻ってきとるで】

 ガバッと起き上がったグロリアがグリモワールを鷲掴みにした。

「なんで? あの子達って目が覚めたら記憶がほとんどなくなってて、ヘルが引き取ったままだよね。3年前のパーティの後寝込んで目が覚めたら完全に忘れてるってなって、意思の疎通とかもできないただの狼兄弟になっちゃったって」

【カニスはまだ喋れんけどディルスはちょびっと喋れるようになったけん、時々こっちの世界で暮らさせるつもりらしいのう】

「そう言えば、ニブルヘイムの近くはあの子達にはあんまり良くないって」

【そうなんよ。鬼畜オーディンの気配が近いのはようない可能性があるってヘルが心配しとる。んで、ディルスがおればカニスは大人しくしとるけんグロリアに遊んでもらおうってなったらしいで。
グロリアに会ってどんな顔するか分からんけど、行ってみる?】

「行く! モフモフできなくても顔を見れたら超嬉しいし、危険な狼だから遠くからそっと見るだけにするね」

 グリモワールをポーチに入れたグロリアは部屋を飛び出した。



【キュウンキュウン】

「か、可愛い⋯⋯狼だけど可愛い!」

 裏庭に足を踏み入れた途端、尻尾を振って飛びかかってきたカニスに匂いを嗅がれ顔を舐めまわされたグロリアは至福の時を過ごしていた。

(モフモフパラダイスが戻ってきたー!)

チェニジェニによい匂いがちゅる。ちょびっとこあい】

「ええ、 ジェニとは当分会ってないのに?」

 慌てて腕をクンクンしたグロリアが首を傾げた。

マーチングマーキング

「ジェニは犬じゃないし、それはないない。それよりも、君がディルス君?」

【ちょう、ジルチュ】

(赤ちゃん言葉、超可愛いんだけど~)

 ディルスもカニスも凶暴な顔つきで体格はグロリアとほぼ同じ。鋭い牙が隠しきれず血走った目と尖った爪は迫力満点。

 はたから見れば狼に餌として捕食されかかった子供にしか見えないが、グロリアは満面の笑顔を浮かべていた。

【この子達、怖くない?】

 ふわふわと飛んできたエルフがグロリアに話しかけた。

「わっ! エルフが初めてお話ししてくれた。怖くないよ、ほら」

 グロリアがぎゅうぎゅうと横からお腹を押すとカニスはコロンとへそ天になり、嬉しそうに喉を鳴らした。

【キュルル】

 茶の混じった黒い体毛のカニスは白っぽい腹をグロリアにワシワシされて『キュンキュン』鳴いている。

【お、おれもちてして

 いそいそとカニスの横に並んだディルスがへそ天になり期待するような目でグロリアを見た。

 2頭を思う存分モフモフし終わる頃にはグロリア達の周りにはエルフや妖精が集まり楽しそうに飛び回っていた。

(この感じ⋯⋯久しぶり~。もう、最高!)



「そうだ! ブラッシングしてあげる」

 グロリアの言葉に首を傾げた2頭は、出てきたブラシを見た途端飛び上がって尻尾を丸めて震えはじめた。

【ちょ、ちょれ⋯⋯こあいによい臭いちゅる】

「怖い臭い?」

【此奴らはヴァンの臭いに怯えとるんよ】

「ああ、そっかあ。ブラシはコレしかないから⋯⋯なんとかして新しいブラシをゲットしなくちゃ。やっぱりお金を稼ぐ方法を見つけないとダメだよね。なら、今日は手櫛で⋯⋯ふっふふんふーん」

 小遣いのないグロリアはルイーザやフノーラのお古をもらう以外に物を手に入れる手段がほとんどない。

(勉強に使いそうなものなら少しは買ってもらえるけど、動物用のブラシは無理だよね)

 手に持っているブラシはジェニがくれた3匹用のもの。



「足長おじさん探すしかないかな」

 婚約者候補としての魅力がなくなった途端侯爵家からの援助金が打ち切られたグロリアが学園に通えているのは、いまだに伯爵家に援助してくれる謎の足長おじさんがいるからだろう。

「伯爵家とどんな繋がりがあるのか⋯⋯お金だけ出して一度も会いに来ないって、何を考えてるんだろうね」

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