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第二章

11.まあ、なんとかなるでしょ。多分

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「私は剣術の授業をとってないんですけど、すごく興味があるんです。だから観覧できればしたいと思っています」

「⋯⋯それは確認しておきましょう。お昼までには連絡するので一応希望者は職員室へ来て下さい」

 途端にザワザワと生徒達が話しはじめた。この様子ではかなりの観覧希望者がいるのかもと思ったグロリアはこっそりと溜息をついた。

(ソーニャの実力も分からないのに⋯⋯まあ、真剣じゃなかっただけラッキーかも。ジェニが来る前に退学になってたらちょっと寂しいから、頑張るしかないよね)

 自国へしばらく帰るといったジェニは最長で一年かかると言っていた。

『帰って来るまで頑張れよ。負けたらお仕置きな』

 ジェニが戻って来たら一緒に学園生活を楽しもうと約束したが、こんなに早く危機が訪れるとは思わなかった。

(昨日、調子に乗って勝負しようなんて言ったの誰よ⋯⋯って、私だよ。ちょっと頭にきちゃったんだよね。
はぁ、大失敗)

 初日の昨日は朝一番の学園長にはじまり教室に入ってすぐから絡まれた。公正なはずのくじ引きで決まったのに不快な目つきで睨まれ続け⋯⋯。

 校内を歩いている間にかなり落ち着きを取り戻せたと思っていたグロリアだったが、食堂での騒ぎでプチンとキレてしまった。

(魔法が選べない以上剣術を選ぶと思ってはいたけど、バトルの日までにソーニャの腕前や戦い方を調べるつもりだったのよね。タイミングを失敗したってことかな。
暫くはぐっと我慢して情報収集するべきだった。この短気な性格なんとかしなくちゃ)

 剣術なら堂々とボコボコにできるとソーニャが考えるのは分かりきっていたが、対策なしだとソーニャの願い通りになってしまうかもしれない。

(ジェニとは何回も練習したけど、この国の構え方なんかはどうしても慣れないんだよね。足運びとか重心のかけ方とか違いすぎてタイミングが合わないと言うか⋯⋯全然上手くいかないからなぁ。
いっそのこと自分らしくやるのはどうかな。学園内ならジェイソンはいないし、どうせマルデルには花梨だってバレてるわけだし。
それにソーニャが魔法を使わないとは言い切れないから、手を抜いてたら負けるかも)

 グロリアを退学させたい学園がどんな手を使ってくるか分からない以上、ソーニャだけでなく周りの生徒や教師にも注意しなくてはならない。

(魔法無効の護符だけ行使しておこうか⋯⋯それなら会場に罠が仕掛けてあっても問題ないし。ただ、身体強化とかを使われた場合の対策も考えなくちゃ。魔法無効の護符は私に向けた攻撃に対するものだけしか反応しないから)

 悶々と考えているうちに午前の授業が終わってしまった。教科書を片付けて立ち上がると、今日も巨大な壁にぶち当たった。



「昼食に行きましょう」

 鬼気迫る勢いでグロリアに覆い被さるように身を屈めてきたティウの圧力が半端ない。

「へ?」

「行くぞ」

 単語吐きのリーグが腕を掴んで歩き出した勢いに引き摺られるようにしてグロリアも歩き出した。

「あの、手はちょっと⋯⋯連行されてるみたいでヤダ! 離して、離してってば」

 廊下には興味津々の生徒達が集まり道いっぱいに広がっている。

「通してもらえるかな?」

 ティウの穏やかだが有無を言わせない迫力で自然と道が開き、グロリアを囲んだ3巨頭⋯⋯3巨人はカフェテラスに向かってグロリアをドナドナして行った。

(杖を振り上げて海を割ったのってモーセだっけ。さあっと人並みが割れて一筋の道が目の前に現れた! なんて言ってる場合じゃなーい! 目立ってる、大注目されてるじゃん! 私の静かなボッチ生活がぁ~)



 カフェテラスの奥にある階段を登った個室に連れて来られたグロリアは、入り口を入ってすぐに立ち止まりポカンと口を開けて豪華な室内をキョロキョロと観察していた。

(すごーい、ここって異世界転移物によくある特別な人だけが使える部屋だよね。誰だろう⋯⋯みんなの爵位って何だったっけ。あ、ティウがいるか)

 小さめのシャンデリアが輝き艶やかな床に光が反射している。レースのテーブルクロスがかけられたテーブルとクッションの効いた椅子。ソファとコーヒーテーブルもあり、そのどれもに細やかな装飾が彫り込まれていた。

(この世界でもロココ調とかバロック様式みたいなのがあるんだろうなよく知らんけど)

 部屋に待機していた従者が引いてくれた椅子に座りながら透明な窓ガラスに感動していた。

「策は?」

(わあ、めちゃめちゃいい天気じゃん! 空は青いし今日も妖精達ってあの庭を自由自在に飛び回ってるのかな⋯⋯)

「おい!」

(あの花瓶の模様って凄く素敵。なんか高そうだし、怖いから近付かないようにしようっと)

「グロリア、スープが冷めそうです」

「あ、いただきます」

 ティウとリーグの声は聞こえなかったがスープと言うフレーズはしっかりと聞こえたグロリアがにっこり笑ってスプーンを手にした。

(俺達の声は無視したくせに⋯⋯このチビめ!)

 リーグの手の中でスプーンがグググっと曲がっていった。

「リーグ、物は大切にした方がいいと思うよ? お高そうな食器だしね」

 リーグの眉間の皺がますます深くなりブルブルと震える理由が分かっていないグロリアは『まあいいか、人には色々あるよね』と食事を楽しむ事にした。

「グロリア、何か策はあるの?」

 フロディが優しそうな声で囁いた。女性が絡むと途端にへっぴり腰になり弱々のオーラになるが、それ以外の時は『流石司祭の子』に思える。

「いいえ、出たとこ勝負かな~って感じですね」

「伯爵家では剣術は何歳くらいから習うの?」

「えーっと、どうなんだろう(伯爵家では)訓練って見た事ないし習ったことはないかな」


 カチャーン⋯⋯ポチャン


 3本のスプーンが一斉に皿の中に落ちる音がした。

「ど、どうしたの? 3人揃って手が滑ったって仲良すぎだよ」

「習ったことがない? それなのに正々堂々の勝負をしようだと!?」

「嘘だろ!? 嘘だと言え!!」

 ヘイムダルがガバッと立ち上がってグロリアの頭を叩いた。

「グロリア、今日は帰ろうよ。ね、そうした方がいい。具合が悪くなったって言っておいてあげるから」

「えー、なんとかなるって。心配性だなぁ、そんなに悩んでたら禿げるよ?」



 青褪めた3人が一斉に大声で怒鳴りはじめた。

「ならなんでバトルなんて言い出したんですか!」

「やるなら種類も限定しろ! 出来ることだけに限定しやがれ!!」

「無茶しすぎです! 怪我をしたら痛いんですよ」

「でもほら、勝負は時の運って言うじゃない。ねっ!」

「「「ねっ! じゃねーわ!!」」」

 喧喧囂囂けんけんごうごう騒ぎ立てるティウ達3人は食事どころではなくなったが、グロリアは一人温かい料理を堪能した。

「ふう、美味しかった~」

「⋯⋯それは良かった、うん」

「剣術は何回かしか見たことがないんだけど(私がやってたのはだから嘘は言ってないよね?)友達と約束したから頑張るつもり」

(きゃあ、ジェニの事友達って言っちゃった! 良いよね、怒んないよね)

 恥ずかしそうにテヘッと笑うグロリアに3人は可哀想な子を見る目をむけていた。


(この意味不明の自信と能天気さはどこからくるんだ?)

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