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第二章

8.嫌な予感しかしないんですけどねえ

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 チラチラと様子を伺う生徒達を気にする事なく能天気に問いかけたアル元トール

「その可能性はあるが、意味が分からないんだ。想像もつかない」

 首を傾げエイルの方を見たティウ元テュール

「面倒にならんよう集めたんだろ。教師のやりそうなことだよ。騒ぎを引き起こしそうなメンバーなら一つに纏めておけば監視しやすいからな」

 相変わらず面倒くさそうな顔をしたリーグ元ヘイムダル

「気を使わずに済むから、僕はちょっとラッキーかも」

 気弱そうな声で笑うフロディ元フレイ

(ああ、この人達ってやっぱりただの人間じゃないのかも)

 勢揃いした4人の飄々とした態度を見てホッと胸を撫で下ろしたエイルがニコッと笑いかけた。

(そこのちっこい子を宜しくね、生徒の中では君達しか守れないはずだから)



 校内を案内してもらいながらグロリアは首をしきりに捻っていた。

(どうもおかしい⋯⋯やっぱり変だよね)

「肩こりか?」

「へ? あ~、確かに首が凝りそうな景色です」

「肩車してやろっか?」

「だから、妹じゃありませんってば!」

 案内がはじまってすでに1時間以上経っている。どんだけ広いんだと溜息をついたグロリアは、両脇と前後に立ち塞がる壁に対する遠慮はすでに霧散していた。

(運が悪いんじゃなくて、意図的に集められた? だとしたらエイル先生が主犯だよね。この目立つメンバーを集めたのは納得だけど、そこに魔法が使えない最底辺の私を追加投入した理由が分かんない。
可能性があるとしたら⋯⋯⋯⋯他のどこにも入れれないからとかかなぁ。どこに入れても嫌がられるからコイツらのとこに入れたら数合わせにちょうどいいとか)



 校内散策がはじまってすぐ、仲良く腕を組んだシグルドとマルデルを見かけた。マルデルがジロジロと見ていたのはわかっていたが、障壁に阻まれていたからか障壁チェックが忙しかったのかグロリアには気付かなかったらしい。

(初めて顔を見たけど樹里だってすぐに分かったのが怖い。こっちが分かるってことは向こうも⋯⋯あ、向こうはとっくに知ってるんだった。
あれ? マルデルはどうやって私のこと知ったんだろう)

「なあ、この先のカフェテラスで案内終了だからよう、なんか食べようぜ?」

 少し前からソワソワしていたアルが声をかけた。

「飯」

 少し前から単語しか話さなくなったリーグ。

「確かにお腹が空きましたね」

 貴族の鏡のように隙のないティウ。

「僕は喉が渇いたかも」

 男ばかりの中でも気弱そうなフロディ。



「ミルクもあるから、心配すんなよ」

「そろそろ殴って良いですかね」

 アルのボケにグロリアがツッコミを入れながらカフェテラスに辿り着いた。

「グロリアは席を取っておいて下さい。その方が早く並べそうですから」

(歩幅が違うと言いたいんだ! その通り、こっちは急ぎ足を続けて疲れたもん。身体強化してなければ倒れてたし!)

「なら、グラタンと桃のパイと紅茶をお願い」

 小さく頷いたティウと愉快な仲間達が列に並び、グロリアは巨人に耐えられる広大なスペースを探してカフェテラスの奥へ歩いて行った。

(急がないと結構人が増えてきた)

 二階に上がる階段の手前に広いテーブルが空いていたので急いで向かうと、目の前にソーニャと3人の男子学生が立ち塞がった。

 グロリアが左に避けても右に避けても前に立ち塞がるソーニャに腹が立ったグロリアが、腰に手を当てて少し強めの声で抗議した。

「悪いけど通してもらえませんか? テーブルが埋まったら困るの」

「ここには『役立たず』専用のテーブルはないんだよね」

 ソーニャの言葉に仲間達がゲラゲラと笑いだし、周りの生徒が食事の手を止めてグロリア達を眺めはじめた。

「そうなのね、別に専用でなくても構わないから」

「わかんないかなぁ。僕達は『役立たず』と何かを共有するなんて、気持ち悪くて耐えられないんだよ」

「そう、分かったからどいてくれる?」

「彼等はやっぱり別行動することにしたんだねえ」

「当然だよ」

「相当我慢しておられたんだろ?」

 グロリアを知らなかった生徒達がヒソヒソと話しはじめると、『え、マジで?』とか『うそぉ、やだあ』と不快感マックスの声を上げはじめ不愉快そうに眉間に皺を寄せたり口元を歪めたりしはじめた。

「そりゃ『役立たず』とは一緒に食事なんてできないよ」

 ソーニャが周りに聞こえるように大きな声を張り上げた。

「そんな事はないから本当に通してもらえないかな?」

「生意気な奴め! さっさと帰れよ」

 適当に返事を返すグロリアに腹を立てたソーニャがグロリアの肩を突き飛ばした。


 ガシャ⋯⋯ガチャガチャン

 少し後ろを歩いていた男子生徒のトレーにぶつかったグロリアが尻餅をつき、その上からトレーに乗っていたスープやパンが落ちてきた。

「うわあ、きったねえ! これだから『役立たず』は嫌われるんだよ!!」

「うへえ、カフェテラスの床が汚れちゃったじゃないか。その制服で掃除して帰れよ!」



「それは名案だね、ソーニャの上着で掃除するのが良さそうだ。リーグはグロリアを医務室に連れて行ってくれ。ここは綺麗にしておくから」

 ティウの冷ややかな声でカフェテラスの中が静まりかえった。

 アルが上着を脱いでグロリアの肩にかけ、フロディがハンカチでグロリアの髪を拭きはじめたのを横目で見ながら、ティウがソーニャの腕を掴んだ。

 ティウ達と別れ一人ぼっちになったグロリアを狙ったつもりだったソーニャ達はティウ達4人組が揃っているのを見て真っ青になった。

「それと後ろの。そのネクタイは2年生だよな⋯⋯名前を覚えてなくてすまん。手間をかけるけどよ、代わりの食事はここにいるソーニャと仲間達に買ってこさせてくれっか?」

「はい、同じ物を持って来させます。あの、お怪我はなかったですか?」

「はい、すみませんでした」

 床に座り込んだままのグロリアが小さく頭を下げた。

「君が突き飛ばされたのは見えてたんだけど、うまく避けられなくてごめん」

 持っていたハンカチでは顔を拭くのが精一杯で、アルがかけてくれた上着で誤魔化している。シルバーブロンドは濡れて灰色に近い色になりまさに濡れ鼠のグロリア。

「なんで僕達がそんな事しなきゃいけないんですか? そこの『役立たず』が勝手に転んだんですから、掃除ならソイツにやらせ⋯⋯」

 内心ソーニャ達を応援する者や新学期早々面白い見せ物が見れたと目を輝かせる者達が、後から来た生徒に説明している声がどんどん聞こえてくる。

「君がその女子生徒に因縁をつけてるのも突き飛ばしたのも、見ていた生徒は大勢いるよ」

「でもコイツは『役立たず』なんですよ!」

 ソーニャがグロリアを指差して叫んだ。



(こんなに汚れても替えの制服とか持ってないんだからね! あ~も~! 静かな学園生活なんかどこにもないじゃん⋯⋯アッタマきたかも!)

「役立たずって何に対してですかねえ?」

 スープ塗れのグロリアが立ち上がり、毅然とした態度でソーニャに向かって問いただした。

「は?」

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