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第二章
5. 監禁は嫌だぁ! リーグ・H・ウイルド登場
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「いや、一度王立図書館で会ったことがあるだけだ。そう言えば、フォルセティと一緒にいたよな」
「だ、誰のことかよく分からないです」
「ああ、そうか。多分別の名前だったんだろう。俺はリーグ・H・ウイルドだ」
「グ、グロリア・C・シビュレーです」
「リーグは俺と僅差で3位入学したんだ。他にも近い成績の生徒はいると思うが、取り敢えずこの3人の首位争いは間違いなさそうなんでね」
「コイツが首席入学? 信じられんな」
驚いたヘイムダル⋯⋯リーグがグロリアをジロジロと見ている間に、勝手に紹介がはじまった。
「リーグはウイルド伯爵家の嫡男で父親は宰相。冷静で思慮深く研究者肌。
使用する魔法は風と土と無属性魔法。そんなとこかな?
俺は公爵家嫡男で父は最高裁判所長官。得意なのは剣術で魔法は氷と風」
(これって私にも自己紹介しろって事よね。どど、どうすれば穏便に安全に逃げ出せる?)
「ティウが自分から関わるなんて珍しいな」
「なんとなく⋯⋯そうした方がいい気がするんだ」
「し、試験はたまたまですし⋯⋯。特に自己紹介でお話しできるようなものもない平々凡々な小市民なので⋯⋯」
「なら、代表の挨拶が直前に変わったのは何故?」
ティウが小声で聞いてきたが耳の良いリーグには聞こえたらしく、きつい目つきがいっそう厳しさを増した。
「えっと、(ここは一つ関わりたくないと思わせれば!)私は魔法が使えないので代表には相応しくないみたいですね」
「「魔法が?」」
「はい、全く使えません。実技試験があったら確実に落ちてましたねぇ」
グロリアがヘラっと笑うと不思議な生き物を見つけた時のように目を丸くした二人の間抜けな顔が見えた。
(いずれバレてしまうんだから、自分から言っといた方が後が楽だもんね)
「魔法大国と呼ばれる国の王立学園ですから、やっぱり魔法適性のない者が代表して挨拶するのは問題があるって事だと思います」
聞き耳を立てていた生徒の何人かにグロリアの言葉が聞こえたらしい。
「嘘だろ! 『役立たず』が入学するなんて」
「ええ! そんな人と一緒なんて嫌よ」
「何かの間違いじゃないのか!? 『役立たず』がSクラスのわけないじゃないか!」
「⋯⋯俺は『役立たず』と言う言い方は好きじゃない。誰だって得意もあれば苦手もある、現にグロリア嬢は満点で入学したんだ」
ティウの厳しい口調に教室内がしんと静まりかえった。
「俺も別に気にしない。この国では魔法が主流なだけで他国では魔法を禁止している国もあるしな」
チラリとグロリアを睨んだ男子生徒が一歩前に出た。
「でも、魔法が使えないなら中等部の魔法理論は意味がないですし、高等部の魔法実技は単位さえ取れません。
それが分かっていて入学するのは間違いなんじゃないでしょうか?」
この学園では、12~15歳までがラテン語と基礎科目や魔法理論・薬草学・剣術の他に刺繍・美術・詩の朗読などを習う中等部、16~18歳が科目を選択して受ける自由七科と魔法実技や魔導具の作成などを習う高等部に分かれている。
「魔法の苦手な者は別の教科での単位取得が認められている。それを利用すればいいだけだろう」
馬鹿馬鹿しいといいたげなリーグがめんどくさそうに答え、ティウがその後に発言を続けた。
「もし仮に魔法適性のない者が入学できないというなら、実技試験をするべきだ。入学規定にもそのような文言はなかったはずだし、問題があるとは思えない。
君は確か、リデル・ソーニャだったね。とても強力な魔法が行使できると聞いているが、そうじゃない者もこの学園にはいる。彼等は彼等なりの特技を生かしているとは思わないかい?」
「それは僕も思います。でも、彼女にそんな特技があるようには見えませんね。そんな小さな身体では剣を振り回す事もできなそうですし、授業がはじまったらすぐに躓くのが目に見えています」
(なんかもういいかなぁ、これ以上ないくらい目立ってるし)
「あの⋯⋯」
「君はグロリア嬢の保護者か?」
リーグの一言で教室内の空気が一気に凍りついた。
「え?」
「グロリア嬢が躓こうかどうしようが君には関係ないと言っているんだ。それとも何か問題があるのなら言ってみろ」
リーグから発せられる威圧でソーニャがカタカタと震え出した。
「はーい! そこまで。全員席につきなさい」
パンパンと手を叩きながら教室に入ってきたのは講堂で声をかけてくれたエイル・リュヴィヤ先生。
(ああ、良かった~。あの緊張状態居た堪れなかったんだ~。それにエイル先生は優しくって好きかもだし)
少なくとも受付で担当したクソ教師よりは断然マシだと安堵の溜息をついた。
「さあ、席は自由だからさっさと座って」
ガタガタと音を立てて全員が席につくとグロリアはようやく普通に息ができた気がした。
(濃いわあ~、マジで濃い! 初日からすっごい濃いんだけど。この先やってけるのかなあ)
「少し遅くなったけどホームルームをはじめます。私はこのクラスを一年担当するエイル・リュヴィヤで専門は薬草学。中等部の生徒は授業で会う事もあるからすぐに覚えられるはずね。
今日は自己紹介と注意事項なんかの説明。その後グループに分かれたら、先輩の引率で構内を案内してもらいます。
授業は明日からだけどクラス毎に内容はかなり変わると思って下さい。つまりSクラスはかなりハードだという事。学期末試験の成績次第ではAクラスやBクラスへの移動もあるので手を抜かない事ね。
後、質問がありそうな生徒がいるから先に聞いておきましょうか?」
エイルが生徒達の顔を見回すと、顔を見合わせてヒソヒソと話していた生徒達の中からソーニャが挙手してから立ち上がった。
「リデル・ソーニャね。発言をどうぞ」
「魔法大国の王立学園に魔法適性のない生徒が入学したと知りました。それについて学園はどのように対処される予定でしょうか?」
「だ、誰のことかよく分からないです」
「ああ、そうか。多分別の名前だったんだろう。俺はリーグ・H・ウイルドだ」
「グ、グロリア・C・シビュレーです」
「リーグは俺と僅差で3位入学したんだ。他にも近い成績の生徒はいると思うが、取り敢えずこの3人の首位争いは間違いなさそうなんでね」
「コイツが首席入学? 信じられんな」
驚いたヘイムダル⋯⋯リーグがグロリアをジロジロと見ている間に、勝手に紹介がはじまった。
「リーグはウイルド伯爵家の嫡男で父親は宰相。冷静で思慮深く研究者肌。
使用する魔法は風と土と無属性魔法。そんなとこかな?
俺は公爵家嫡男で父は最高裁判所長官。得意なのは剣術で魔法は氷と風」
(これって私にも自己紹介しろって事よね。どど、どうすれば穏便に安全に逃げ出せる?)
「ティウが自分から関わるなんて珍しいな」
「なんとなく⋯⋯そうした方がいい気がするんだ」
「し、試験はたまたまですし⋯⋯。特に自己紹介でお話しできるようなものもない平々凡々な小市民なので⋯⋯」
「なら、代表の挨拶が直前に変わったのは何故?」
ティウが小声で聞いてきたが耳の良いリーグには聞こえたらしく、きつい目つきがいっそう厳しさを増した。
「えっと、(ここは一つ関わりたくないと思わせれば!)私は魔法が使えないので代表には相応しくないみたいですね」
「「魔法が?」」
「はい、全く使えません。実技試験があったら確実に落ちてましたねぇ」
グロリアがヘラっと笑うと不思議な生き物を見つけた時のように目を丸くした二人の間抜けな顔が見えた。
(いずれバレてしまうんだから、自分から言っといた方が後が楽だもんね)
「魔法大国と呼ばれる国の王立学園ですから、やっぱり魔法適性のない者が代表して挨拶するのは問題があるって事だと思います」
聞き耳を立てていた生徒の何人かにグロリアの言葉が聞こえたらしい。
「嘘だろ! 『役立たず』が入学するなんて」
「ええ! そんな人と一緒なんて嫌よ」
「何かの間違いじゃないのか!? 『役立たず』がSクラスのわけないじゃないか!」
「⋯⋯俺は『役立たず』と言う言い方は好きじゃない。誰だって得意もあれば苦手もある、現にグロリア嬢は満点で入学したんだ」
ティウの厳しい口調に教室内がしんと静まりかえった。
「俺も別に気にしない。この国では魔法が主流なだけで他国では魔法を禁止している国もあるしな」
チラリとグロリアを睨んだ男子生徒が一歩前に出た。
「でも、魔法が使えないなら中等部の魔法理論は意味がないですし、高等部の魔法実技は単位さえ取れません。
それが分かっていて入学するのは間違いなんじゃないでしょうか?」
この学園では、12~15歳までがラテン語と基礎科目や魔法理論・薬草学・剣術の他に刺繍・美術・詩の朗読などを習う中等部、16~18歳が科目を選択して受ける自由七科と魔法実技や魔導具の作成などを習う高等部に分かれている。
「魔法の苦手な者は別の教科での単位取得が認められている。それを利用すればいいだけだろう」
馬鹿馬鹿しいといいたげなリーグがめんどくさそうに答え、ティウがその後に発言を続けた。
「もし仮に魔法適性のない者が入学できないというなら、実技試験をするべきだ。入学規定にもそのような文言はなかったはずだし、問題があるとは思えない。
君は確か、リデル・ソーニャだったね。とても強力な魔法が行使できると聞いているが、そうじゃない者もこの学園にはいる。彼等は彼等なりの特技を生かしているとは思わないかい?」
「それは僕も思います。でも、彼女にそんな特技があるようには見えませんね。そんな小さな身体では剣を振り回す事もできなそうですし、授業がはじまったらすぐに躓くのが目に見えています」
(なんかもういいかなぁ、これ以上ないくらい目立ってるし)
「あの⋯⋯」
「君はグロリア嬢の保護者か?」
リーグの一言で教室内の空気が一気に凍りついた。
「え?」
「グロリア嬢が躓こうかどうしようが君には関係ないと言っているんだ。それとも何か問題があるのなら言ってみろ」
リーグから発せられる威圧でソーニャがカタカタと震え出した。
「はーい! そこまで。全員席につきなさい」
パンパンと手を叩きながら教室に入ってきたのは講堂で声をかけてくれたエイル・リュヴィヤ先生。
(ああ、良かった~。あの緊張状態居た堪れなかったんだ~。それにエイル先生は優しくって好きかもだし)
少なくとも受付で担当したクソ教師よりは断然マシだと安堵の溜息をついた。
「さあ、席は自由だからさっさと座って」
ガタガタと音を立てて全員が席につくとグロリアはようやく普通に息ができた気がした。
(濃いわあ~、マジで濃い! 初日からすっごい濃いんだけど。この先やってけるのかなあ)
「少し遅くなったけどホームルームをはじめます。私はこのクラスを一年担当するエイル・リュヴィヤで専門は薬草学。中等部の生徒は授業で会う事もあるからすぐに覚えられるはずね。
今日は自己紹介と注意事項なんかの説明。その後グループに分かれたら、先輩の引率で構内を案内してもらいます。
授業は明日からだけどクラス毎に内容はかなり変わると思って下さい。つまりSクラスはかなりハードだという事。学期末試験の成績次第ではAクラスやBクラスへの移動もあるので手を抜かない事ね。
後、質問がありそうな生徒がいるから先に聞いておきましょうか?」
エイルが生徒達の顔を見回すと、顔を見合わせてヒソヒソと話していた生徒達の中からソーニャが挙手してから立ち上がった。
「リデル・ソーニャね。発言をどうぞ」
「魔法大国の王立学園に魔法適性のない生徒が入学したと知りました。それについて学園はどのように対処される予定でしょうか?」
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